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135・襲来!翼のスゴイヤツ!
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闇夜の奥で、微かに風を切る音がした。
演習を終えて寮に帰りつき、門の扉を開けようとしていた俺は、その音を耳にして振り返る。暗い煉瓦道の向こうに人の姿は見えない。誰か、あるいは獣の類が隠れている気配も感じない。
首をかしげて向き直る俺の頭上から、翼は音もなく急降下を始めた。金色の瞳が、月光を受けてぎらりと光る。闇と同じ色の鋭い鉤爪が、今まさに俺の肩に食い込むように触れる、その寸前。
──ギィンッ!!
硬質な鉤爪が、火花を散らして弾き飛ばされる。猛禽は驚いて体勢を崩し、煉瓦の表面を擦りながら着地した。
胸の前に両腕でバツ印を作りながら、俺は振り向いて後ろに下がる。ここまでは、想定通り。
「……へえ。狙い目のはずだったのにな」
巨大な翼を広げた猛禽──フォルコが、ぺろりと舌を出して親指を舐めた。相対する剣の主、ジルコンは、俺を庇う体勢で剣を構え続けている。
「あいにくだがそちらの出方はお見通しだ。それに俺は、何があろうとこいつを護ると決めてるんでな」
「はん、なるほど。既に男付きってわけだ」
そう言うとフォルコは肩をすくめて、皮肉っぽい笑いを俺たちに向ける。お、男付き? これだけのやり取りでその発想になるの、やっぱこいつもBLゲー世界の住人なんだな。
「まあいいさ。今日のオレはただのメッセンジャーだ。チビどもにオミヤゲの一つくらい持って帰りたかったが、また今度にするか」
「メッセンジャーだと?」
「おう。ああ、もしかしてその様子だともう知ってんのか? ま、わざわざ族長のオレ直々に伝えに来てやったんだ、しっかり聞いてけや」
広げた翼を畳みもせずに、フォルコは横柄な態度で言い放つ。
「オレたち北の翼人族は、お前らエーデルシュタイン王国に会談を申し込む。期日は今から十日後。お前らの暦で言えば、来月最初の日の曜日だな。議題は、北の森におけるスキア討伐隊の撤退要求」
「……受けると思うか、我々が」
「受けざるを得ない、ってのもわかってんだろ? なあ、キンキラ王子様よ」
「……」
ジルコンの素性も把握されている。まあ当たり前か、この顔でこの髪の毛、隠そうと言う方が無理がある。しかし、ひとつだけ疑問が。ジルコンの後ろから顔を出し、俺は恐る恐る右手を上げる。
「あのー、すいません」
「あん?」
「受けざるを得ないって、どういうこと?」
「は?」
「いやごめん、俺いまいちよくわかってないっていうか、なんせこの世界の情勢的なことにはとんと疎くて」
「……はっ」
あからさまな嘲笑を浮かべたフォルコが、こいつマジかって顔してるジルコンを顎で指す。
「それならお前の王子様に聞いた方が早いんじゃねえのか。なあ?」
「……端的に言えば、戦力に欠ける、と言うことだ」
「戦力?」
「スキア討伐関連の任は耀燈騎士団に一任されている。翻って言えば、外交上の重要課題にでも発展しない限り、正規軍の援護は期待できないと言うことだ。一部族とはいえ強大な魔力を持つ翼人の軍団を、無闇やたらと敵に回すわけにはいかない。今は、な」
「お、おおぅ……」
ジルコンの表情はひどく苦々しい色を帯びている。耀燈なんてキラキラネームとは裏腹の世知辛さが、こんなとこでも顔を出すのか。
演習を終えて寮に帰りつき、門の扉を開けようとしていた俺は、その音を耳にして振り返る。暗い煉瓦道の向こうに人の姿は見えない。誰か、あるいは獣の類が隠れている気配も感じない。
首をかしげて向き直る俺の頭上から、翼は音もなく急降下を始めた。金色の瞳が、月光を受けてぎらりと光る。闇と同じ色の鋭い鉤爪が、今まさに俺の肩に食い込むように触れる、その寸前。
──ギィンッ!!
硬質な鉤爪が、火花を散らして弾き飛ばされる。猛禽は驚いて体勢を崩し、煉瓦の表面を擦りながら着地した。
胸の前に両腕でバツ印を作りながら、俺は振り向いて後ろに下がる。ここまでは、想定通り。
「……へえ。狙い目のはずだったのにな」
巨大な翼を広げた猛禽──フォルコが、ぺろりと舌を出して親指を舐めた。相対する剣の主、ジルコンは、俺を庇う体勢で剣を構え続けている。
「あいにくだがそちらの出方はお見通しだ。それに俺は、何があろうとこいつを護ると決めてるんでな」
「はん、なるほど。既に男付きってわけだ」
そう言うとフォルコは肩をすくめて、皮肉っぽい笑いを俺たちに向ける。お、男付き? これだけのやり取りでその発想になるの、やっぱこいつもBLゲー世界の住人なんだな。
「まあいいさ。今日のオレはただのメッセンジャーだ。チビどもにオミヤゲの一つくらい持って帰りたかったが、また今度にするか」
「メッセンジャーだと?」
「おう。ああ、もしかしてその様子だともう知ってんのか? ま、わざわざ族長のオレ直々に伝えに来てやったんだ、しっかり聞いてけや」
広げた翼を畳みもせずに、フォルコは横柄な態度で言い放つ。
「オレたち北の翼人族は、お前らエーデルシュタイン王国に会談を申し込む。期日は今から十日後。お前らの暦で言えば、来月最初の日の曜日だな。議題は、北の森におけるスキア討伐隊の撤退要求」
「……受けると思うか、我々が」
「受けざるを得ない、ってのもわかってんだろ? なあ、キンキラ王子様よ」
「……」
ジルコンの素性も把握されている。まあ当たり前か、この顔でこの髪の毛、隠そうと言う方が無理がある。しかし、ひとつだけ疑問が。ジルコンの後ろから顔を出し、俺は恐る恐る右手を上げる。
「あのー、すいません」
「あん?」
「受けざるを得ないって、どういうこと?」
「は?」
「いやごめん、俺いまいちよくわかってないっていうか、なんせこの世界の情勢的なことにはとんと疎くて」
「……はっ」
あからさまな嘲笑を浮かべたフォルコが、こいつマジかって顔してるジルコンを顎で指す。
「それならお前の王子様に聞いた方が早いんじゃねえのか。なあ?」
「……端的に言えば、戦力に欠ける、と言うことだ」
「戦力?」
「スキア討伐関連の任は耀燈騎士団に一任されている。翻って言えば、外交上の重要課題にでも発展しない限り、正規軍の援護は期待できないと言うことだ。一部族とはいえ強大な魔力を持つ翼人の軍団を、無闇やたらと敵に回すわけにはいかない。今は、な」
「お、おおぅ……」
ジルコンの表情はひどく苦々しい色を帯びている。耀燈なんてキラキラネームとは裏腹の世知辛さが、こんなとこでも顔を出すのか。
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