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131・背中がぼうぼう燃えています

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「わあ……」

 思わず感嘆の声を漏らした。ビルの影も、街灯りのデバフもない星空は、空と言うよりももはや宇宙だ。ぽかんと口を開けたまま見上げ続ける俺の背に、ジルコンが肩を揺らす気配が伝わってくる。

「わ、笑うなよ」
「笑った覚えはないが」
「嘘つけ! わかんだよ、こんなくっついてんだ……から……」

 口に出した瞬間、意識した。背中越しに感じるジルコンの体温と、俺を包む腕の感触。途端に高鳴る心臓に、密かに息を詰める。手汗がヤバい。俺の中の何かが騒ぎ出している──なんて中二フレーズ、こういうときに使うもんだったっけ。違うっけ。

「どうした、お前」
「ヒェッ!? ナァンデモ!?」
「……本当にどうした。まさか監禁の後遺症か」
「アッ違う! 違うんだけどねそれは、それは絶対!」

 慌てて身をよじろうとしても、狭い馬上に逃げ場はない。硬直する俺と、時おり手綱を引き締めるジルコンを乗せて、馬はのんびりと歩いていく。背中が熱い。カチカチ山かよ。も、もうちょっとスピード上げてくれてもいいですけど。なんて俺の祈るような念は、マイペースな白馬サマには届くはずもなく。

「チュー太郎」
「はひッ」
「気分が悪いなら、無理はするなよ」
「うんありがとう、大丈夫マジで! ただ……」
「ただ?」
「ただその……えーっと」

 行き場なくさまよう視線が、広がる星空に吸い込まれる。二、三度深呼吸を繰り返す。ちょっと落ち着いた。ヨシ。

「えーっと……そう、俺が前いたところじゃ、こんな綺麗な星は見られなかったなー、って思って。いや、たぶん、探せばどっかいい場所もあったんだろうけど、そんな暇も趣味もなかったし」
「ほう」

 相槌を打ったジルコンが、不意に黙り込んだ。手綱を握る両腕に、少しだけ力がこもる。

「……チュー太郎。お前」
「ん?」
「お前は……その、元いた場所に帰りたいと思うことはあるか」
「あ、それはない」

 間髪入れずに断言する。自分でもびっくりするくらい迷わなかった。他の人がどうかは知らないけれど、俺にとってはこっちの方が断然いい。なんせ前いた世界ときたら、仕事は辛いし人間関係はろくでもないし。唯一名残り惜しむとしたらオタク趣味とインターネットくらいだけど、それに関してはこっちでもギリギリなんとかなってるし。

「本当か? もう一度言っておくが、無理はするなよ」
「してないしてない。こっちの方が全然いいよ、飯はうまいしイケメンハーレムだし。いやまだハーレムではないけど」
「にしても、心残りくらいはあるんじゃないのか。その……家族とか、友人とか」
「……お前、それ聞く? よりによって、俺に」
「……」

 そこで黙られるのもそれはそれで悲しいものがあるが、実際黙るしかないのも事実ではある。トモダチ? なにそれ? なんて、悲しき人工生物みたいなセリフも吐いちゃうよ、俺は。
 でも、そうだな。家族。家族か。
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