131 / 200
129・スチルの俺に顔は無い
しおりを挟む
「……近場に馬を預けてある。こっちだ」
「あ、うん」
ジルコンの後に続いて移動する。その間も手は引かれたままだ。完全に離すタイミングを失った。いや、俺はいいんだけど、俺はいいんだけどね、全然!
何かをごまかすように視線をさまよわせる。どうやらここは森の中みたいだ。背の高い木々に目隠しをされて、方向感覚が掴めない。うっすら残る獣道の感じからして、人里離れた山奥ってわけではなさそうだけど。
俺の想像は当たりだったらしく、程なくして俺たちは街道に出た。炭焼き小屋らしき民家の片隅に、一頭の馬が繋がれている。あれがジルコンの馬だろうか。ていうか。
「……白馬じゃん」
「ああ。正確には芦毛だがな。それがどうした」
「いやあ? ……ふふっ」
ついついにやける俺の顔を、ジルコンが怪訝そうに振り返る。ここでガチの白馬の王子サマ。これ、解釈一致ってやつです? 乗ったまま突撃してきたわけじゃなかったけど、そのくらいはまあ誤差だ、誤差。
小屋の住人に一声かけて、ジルコンは馬を引き出してきた。慣れた様子であぶみに足をかけ、ひらりと鞍の上に跨る。うーん、似合う。背の高い真っ白な馬にジルコンの白い軍服、月光を受けてきらめく髪。おとぎ話の挿絵になってもおかしくない姿の彼が、馬上から俺に手を差し伸べる。
「乗れ。手を貸してやる」
「え。で、でも」
「なんだ、怖いのか? ……仕方ないな」
「うぇっ!? ちょ、ちょっとぉ!?」
尻込みする俺をジルコンは例によって肩に担ぎ上げ、そのまま器用に馬上に下ろした。さらに自分は手綱を握って俺の後ろに座る。結果として俺は馬のタテガミを目の前に、背中側をジルコンに挟まれた形で座ることになる。こ、これは一枚絵イベントのチャンス、とでも言いたいところだが、今の俺はそれどころじゃない。
「た、高っ!? 怖っ!!」
「暴れるなよ。頭から落ちるぞ」
「ヒェイッ!!」
「ククッ……まったく。相変わらず面白い音の出る奴だ」
忍び笑いを漏らしながら、ジルコンは足で馬の腹を叩く。白馬は俺の方をちらと見て、軽くいなないてからゆっくりと動き出した。完全に初心者モードのスローペースだ。馬に気を使われている。どうもすいません。
かぽかぽと響く足音とともに、馬上の俺たちは上下に揺れる。現代の道みたいに舗装はされてないけど、それなりに整備された街道だ。このペースなら舌を噛む恐れはないだろう。タテガミを両手で掴んだまま、俺はちょっとだけ息をつく。と同時に、気になっていたことを思い出した。
「あ。そう言えば、まだ聞いてなかった」
「ん?」
「ジルコン。お前さ、なんで俺のこと思い出してくれたの」
「ああ……そのことか」
俺の疑問にジルコンは、答えより先に忍び笑いを漏らした。
「あ、うん」
ジルコンの後に続いて移動する。その間も手は引かれたままだ。完全に離すタイミングを失った。いや、俺はいいんだけど、俺はいいんだけどね、全然!
何かをごまかすように視線をさまよわせる。どうやらここは森の中みたいだ。背の高い木々に目隠しをされて、方向感覚が掴めない。うっすら残る獣道の感じからして、人里離れた山奥ってわけではなさそうだけど。
俺の想像は当たりだったらしく、程なくして俺たちは街道に出た。炭焼き小屋らしき民家の片隅に、一頭の馬が繋がれている。あれがジルコンの馬だろうか。ていうか。
「……白馬じゃん」
「ああ。正確には芦毛だがな。それがどうした」
「いやあ? ……ふふっ」
ついついにやける俺の顔を、ジルコンが怪訝そうに振り返る。ここでガチの白馬の王子サマ。これ、解釈一致ってやつです? 乗ったまま突撃してきたわけじゃなかったけど、そのくらいはまあ誤差だ、誤差。
小屋の住人に一声かけて、ジルコンは馬を引き出してきた。慣れた様子であぶみに足をかけ、ひらりと鞍の上に跨る。うーん、似合う。背の高い真っ白な馬にジルコンの白い軍服、月光を受けてきらめく髪。おとぎ話の挿絵になってもおかしくない姿の彼が、馬上から俺に手を差し伸べる。
「乗れ。手を貸してやる」
「え。で、でも」
「なんだ、怖いのか? ……仕方ないな」
「うぇっ!? ちょ、ちょっとぉ!?」
尻込みする俺をジルコンは例によって肩に担ぎ上げ、そのまま器用に馬上に下ろした。さらに自分は手綱を握って俺の後ろに座る。結果として俺は馬のタテガミを目の前に、背中側をジルコンに挟まれた形で座ることになる。こ、これは一枚絵イベントのチャンス、とでも言いたいところだが、今の俺はそれどころじゃない。
「た、高っ!? 怖っ!!」
「暴れるなよ。頭から落ちるぞ」
「ヒェイッ!!」
「ククッ……まったく。相変わらず面白い音の出る奴だ」
忍び笑いを漏らしながら、ジルコンは足で馬の腹を叩く。白馬は俺の方をちらと見て、軽くいなないてからゆっくりと動き出した。完全に初心者モードのスローペースだ。馬に気を使われている。どうもすいません。
かぽかぽと響く足音とともに、馬上の俺たちは上下に揺れる。現代の道みたいに舗装はされてないけど、それなりに整備された街道だ。このペースなら舌を噛む恐れはないだろう。タテガミを両手で掴んだまま、俺はちょっとだけ息をつく。と同時に、気になっていたことを思い出した。
「あ。そう言えば、まだ聞いてなかった」
「ん?」
「ジルコン。お前さ、なんで俺のこと思い出してくれたの」
「ああ……そのことか」
俺の疑問にジルコンは、答えより先に忍び笑いを漏らした。
1
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
女体化したおっさんの受難
丸井まー(旧:まー)
BL
魔法省に勤めるアルフレッドは部下のコーネリーのトチ狂った魔法に巻き込まれて女の身体になってしまった。魔法をとく方法は出産すること。アルフレッドの元に戻る為のドタバタ騒ぎ。
※おっさんが女体化してます。女体化エロあります。男同士のエロもあります。エロは予告なしです。全53話です。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される
彩
恋愛
いつの間にか異世界に転移してしまった沙紀は森で彷徨っていたところを三人の騎士に助けられ、その騎士団と生活を共にすることとなる。
後半からR18シーンあります。予告はなしです。
公開中の話の誤字脱字修正、多少の改変行っております。ご了承ください。
美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について
いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。
ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎
美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる