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129・スチルの俺に顔は無い

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「……近場に馬を預けてある。こっちだ」
「あ、うん」

 ジルコンの後に続いて移動する。その間も手は引かれたままだ。完全に離すタイミングを失った。いや、俺はいいんだけど、俺はいいんだけどね、全然!
 何かをごまかすように視線をさまよわせる。どうやらここは森の中みたいだ。背の高い木々に目隠しをされて、方向感覚が掴めない。うっすら残る獣道の感じからして、人里離れた山奥ってわけではなさそうだけど。
 俺の想像は当たりだったらしく、程なくして俺たちは街道に出た。炭焼き小屋らしき民家の片隅に、一頭の馬が繋がれている。あれがジルコンの馬だろうか。ていうか。

「……白馬じゃん」
「ああ。正確には芦毛だがな。それがどうした」
「いやあ? ……ふふっ」

 ついついにやける俺の顔を、ジルコンが怪訝そうに振り返る。ここでガチの白馬の王子サマ。これ、解釈一致ってやつです? 乗ったまま突撃してきたわけじゃなかったけど、そのくらいはまあ誤差だ、誤差。
 小屋の住人に一声かけて、ジルコンは馬を引き出してきた。慣れた様子であぶみに足をかけ、ひらりと鞍の上に跨る。うーん、似合う。背の高い真っ白な馬にジルコンの白い軍服、月光を受けてきらめく髪。おとぎ話の挿絵になってもおかしくない姿の彼が、馬上から俺に手を差し伸べる。

「乗れ。手を貸してやる」
「え。で、でも」
「なんだ、怖いのか? ……仕方ないな」
「うぇっ!? ちょ、ちょっとぉ!?」

 尻込みする俺をジルコンは例によって肩に担ぎ上げ、そのまま器用に馬上に下ろした。さらに自分は手綱を握って俺の後ろに座る。結果として俺は馬のタテガミを目の前に、背中側をジルコンに挟まれた形で座ることになる。こ、これは一枚絵イベントのチャンス、とでも言いたいところだが、今の俺はそれどころじゃない。

「た、高っ!? 怖っ!!」
「暴れるなよ。頭から落ちるぞ」
「ヒェイッ!!」
「ククッ……まったく。相変わらず面白い音の出る奴だ」

 忍び笑いを漏らしながら、ジルコンは足で馬の腹を叩く。白馬は俺の方をちらと見て、軽くいなないてからゆっくりと動き出した。完全に初心者モードのスローペースだ。馬に気を使われている。どうもすいません。
 かぽかぽと響く足音とともに、馬上の俺たちは上下に揺れる。現代の道みたいに舗装はされてないけど、それなりに整備された街道だ。このペースなら舌を噛む恐れはないだろう。タテガミを両手で掴んだまま、俺はちょっとだけ息をつく。と同時に、気になっていたことを思い出した。

「あ。そう言えば、まだ聞いてなかった」
「ん?」
「ジルコン。お前さ、なんで俺のこと思い出してくれたの」
「ああ……そのことか」

 俺の疑問にジルコンは、答えより先に忍び笑いを漏らした。
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