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128・見るなのタブーを超えた先
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「……あーあー、もぉ」
両手で大きく伸びをして、アメティスタはくるりと身を翻す。その背に隠されていた部屋の出口が、俺たちの真正面に姿を見せた。
「なぁんかなぁ。心配して損しちゃった。まぁでもそこまで言うなら、好きにしてみるといいよぉ」
「へ?」
「キミなら……キミたちなら、生きても死んでも面白そうだし。この先はそれ見てるのも悪くはないかなぁ」
「おまっ……そんだけかよ!? なんかもっと俺に言うべきことない!?」
「えぇー? んー……」
俺の憤慨もどこ吹く風で、アメティスタは顎に人差し指を当てて考える。こ、こいつ。罪悪感とかないんか。なさそう。
「あぁ、そうだ。じゃ、これ」
ぽん、と判を押すように叩かれた、彼の手にぽっと明かりが灯る。赤、青、緑、水色、黄色、そして白。六色のそれは蛍のようにふんわりと、各々別方向へ飛び立っていく。白いひとつは、ジルコンの胸に。残りの五つが部屋の出口に吸い込まれるのを見届けて、アメティスタは無邪気ににっこりと笑う。
「クリア報酬? ごほーび? そんな感じのやつ。みんなの記憶、返しておいたよぉ」
「お……おう」
「んじゃにぃ。キミたちの乗る舟に、いい風が吹くといいねぇ」
のほほんとした言いぐさに、思わず毒気を抜かれてしまう。マジでこいつ、悪いことしたなんて微塵も思っちゃいないんだな。釈然としない俺の隣で、ジルコンがずいと一歩進み出る。
「何を他人事のようなことをぬかしている。アメティスタ、お前も当事者だろうが」
「えぇ? なんでぇ?」
「なんでも何もあるか。翼人族の襲来が預言に顕れた以上、騎士団としては早急に対策を取る必要がある。預言者としてのその能力、存分にこき使わせてもらうからな」
「うぇー……ねぇ、なんか私情入ってない、ジルコン?」
答えずにジルコンは俺に手を差し伸べる。一瞬の戸惑いののち、俺はその手を取った。そっと預けた手のひらを、ジルコンが強く握り返す。そのまま俺の手を引いて歩き出すジルコンは、俺を導く道標のようでも、舟を動かす風のようでもある。
軽く手を振るアメティスタを通り越し、紙のように破れた扉を抜けると、その先は狭い登り階段になっていた。斜め上側に開いた出口から、藍色の星空が覗いている。ってことは、ここ地下だったのか。どうりでいつも静かなわけだ。
ジルコンに手を引かれるままに、わずかにカビ臭い階段を上がる。ひんやりと湿って停滞した空気が、次第に生の気配を帯び始める。緑の匂いと、虫の声。初めはかすかだったそれらの気配が、一段上がるたびに濃度を増していく。まるで死の国から現世へと、ジルコンの手で連れ戻されているみたいだ。今振り向いたら俺死ぬのかもしれない。
ようやく地上に出た瞬間、俺は肺いっぱいに深く息を吸い込んだ。久々の、久々の外だ。新鮮な風が頬を撫でる。またしても涙が出そうになるのをギリギリでこらえて、喉の奥から声を出した。
「あぁー……外、だ……!」
「ああ。……改めて、すまなかったな、遅くなって」
「え、いや、そんな! ジルコンが謝ることじゃないだろ」
素直に頭を下げるジルコンに、なぜか俺の方が慌ててしまう。あの傲慢俺様王子サマが謝るなんて。珍しいこともあるもんだ、なんて、普段みたいに茶化すことすらなんだか気が引ける。
「っていうか、俺の方こそ、まだちゃんと言ってなかったよな」
「ん?」
「その……ありがとう、ジルコン」
「……ああ」
俺の礼に、ジルコンはきまり悪そうにふいと目を逸らす。な、なんだこの空気。当然言うべきことを言っただけのことなのに、なんでこんな気恥ずかしいんだ。久しぶりだから?
両手で大きく伸びをして、アメティスタはくるりと身を翻す。その背に隠されていた部屋の出口が、俺たちの真正面に姿を見せた。
「なぁんかなぁ。心配して損しちゃった。まぁでもそこまで言うなら、好きにしてみるといいよぉ」
「へ?」
「キミなら……キミたちなら、生きても死んでも面白そうだし。この先はそれ見てるのも悪くはないかなぁ」
「おまっ……そんだけかよ!? なんかもっと俺に言うべきことない!?」
「えぇー? んー……」
俺の憤慨もどこ吹く風で、アメティスタは顎に人差し指を当てて考える。こ、こいつ。罪悪感とかないんか。なさそう。
「あぁ、そうだ。じゃ、これ」
ぽん、と判を押すように叩かれた、彼の手にぽっと明かりが灯る。赤、青、緑、水色、黄色、そして白。六色のそれは蛍のようにふんわりと、各々別方向へ飛び立っていく。白いひとつは、ジルコンの胸に。残りの五つが部屋の出口に吸い込まれるのを見届けて、アメティスタは無邪気ににっこりと笑う。
「クリア報酬? ごほーび? そんな感じのやつ。みんなの記憶、返しておいたよぉ」
「お……おう」
「んじゃにぃ。キミたちの乗る舟に、いい風が吹くといいねぇ」
のほほんとした言いぐさに、思わず毒気を抜かれてしまう。マジでこいつ、悪いことしたなんて微塵も思っちゃいないんだな。釈然としない俺の隣で、ジルコンがずいと一歩進み出る。
「何を他人事のようなことをぬかしている。アメティスタ、お前も当事者だろうが」
「えぇ? なんでぇ?」
「なんでも何もあるか。翼人族の襲来が預言に顕れた以上、騎士団としては早急に対策を取る必要がある。預言者としてのその能力、存分にこき使わせてもらうからな」
「うぇー……ねぇ、なんか私情入ってない、ジルコン?」
答えずにジルコンは俺に手を差し伸べる。一瞬の戸惑いののち、俺はその手を取った。そっと預けた手のひらを、ジルコンが強く握り返す。そのまま俺の手を引いて歩き出すジルコンは、俺を導く道標のようでも、舟を動かす風のようでもある。
軽く手を振るアメティスタを通り越し、紙のように破れた扉を抜けると、その先は狭い登り階段になっていた。斜め上側に開いた出口から、藍色の星空が覗いている。ってことは、ここ地下だったのか。どうりでいつも静かなわけだ。
ジルコンに手を引かれるままに、わずかにカビ臭い階段を上がる。ひんやりと湿って停滞した空気が、次第に生の気配を帯び始める。緑の匂いと、虫の声。初めはかすかだったそれらの気配が、一段上がるたびに濃度を増していく。まるで死の国から現世へと、ジルコンの手で連れ戻されているみたいだ。今振り向いたら俺死ぬのかもしれない。
ようやく地上に出た瞬間、俺は肺いっぱいに深く息を吸い込んだ。久々の、久々の外だ。新鮮な風が頬を撫でる。またしても涙が出そうになるのをギリギリでこらえて、喉の奥から声を出した。
「あぁー……外、だ……!」
「ああ。……改めて、すまなかったな、遅くなって」
「え、いや、そんな! ジルコンが謝ることじゃないだろ」
素直に頭を下げるジルコンに、なぜか俺の方が慌ててしまう。あの傲慢俺様王子サマが謝るなんて。珍しいこともあるもんだ、なんて、普段みたいに茶化すことすらなんだか気が引ける。
「っていうか、俺の方こそ、まだちゃんと言ってなかったよな」
「ん?」
「その……ありがとう、ジルコン」
「……ああ」
俺の礼に、ジルコンはきまり悪そうにふいと目を逸らす。な、なんだこの空気。当然言うべきことを言っただけのことなのに、なんでこんな気恥ずかしいんだ。久しぶりだから?
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