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108・銀の焔は海風に揺れ

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「な……なにお前、そんなの気にしてんの? いいよいいよ、ってか俺だって前やらかしたじゃん、おあいこだよ」

 わざと作った軽い口調に、しかしジルコンは表情のひとつも動かそうとしない。

「いえ。この国、ひいてはこの世界の至宝である灯士様と、一騎士に過ぎない私とでは立場が違います。非公式かつ個人的な私闘にて、未熟さゆえに貴方を害した。……国を護るべき騎士として、到底許される行為ではございません」
「や、そんなの……」
「騎士として……いや、貴方の身を守る側付きとしてすら。相応しい働きができなかった、私は。執事失格です。つきましては、今後……」
「……っ!?」

 思わず俺は息を呑んでいた。その先の言葉を想像したからだ。執事の立場を辞するとか、あるいは他の誰かに交代するとか。思い浮かべた瞬間に、反射的に立ち上がる。

「嘘、だよな」
「……」
「やめんなよ。マジで申し訳ないと思ってるなら辞めんなよ。ジルコンがどっか行くなんて、俺……、俺は、嫌だからな!」
「……しかし」
「しかしもかかしもあるかよ! てかほんと、どうしたんだよお前、らしくねーぞ!? いつもの自信満々王子サマはどこ落としてきたんだよ!」

 ジルコンの元に駆け寄って、硬い袖口をぐっと握りしめる。そうしていないと彼が、どこかへ逃げてしまいそうな気がしたからだ。俺より頭半分高いジルコンの顔を、胸元からまっすぐに見上げる。ジルコンの目は、俺を見ているようで見ていない。

「……らしくない、ですか。そう言われてしまえば、申し開きのしようもございません」

 あいも変わらず執事モードの、バカ丁寧な口調のままで。淡々と、どこか他人事のように彼は語り始める。

「自信満々……そうですね。俺は……私は、城に召喚された日からこれまでずっと、自らを信ずるに足る努力を一意に重ねてきたつもりでいました。心身と意思を強く保ち、信頼できる仲間と共にあれば、律せないものなどこの世に存在しない。その意味においては、しばしば受ける自信過剰との誹りすら、ある種の勲章であるかのように捉えていた。……けれど」

 銀色の瞳が、風を受けた炎みたいに不安定に揺れている。さっき見た目だ。俺が爆発に巻き込まれたとき、ランジンの介抱を受けているとき、不安げに俺に注いでいたまなざしと同じ眼だ。

「あなたの……お前の、稚拙という言葉すら生温い撹乱と、続く負傷を目の当たりにしたとき。……わからなくなりました。自分がこんなにも容易く動揺し、心を乱すような人間だったのか。これまで己が律せていたと信じていた己は、本当に真の俺自身だったのか」
「……おい」

 なんか今、結構失礼なことを言われた気がするぞ。ツッコミを入れかけた俺の肩に、ジルコンの手がそっと触れる。え。え、ちょっと、ナンデスカコレは。石化呪文でもかけられたみたいに固まる体とは裏腹に、心臓は早鐘のように鳴り始めていた。
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