転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ！

１０５・ギンギンにハジけそうな夜

　ハードロック調のギラギラしたイントロが、石造りの闘技場に乱反射する。今さらだけど世界観どうなってんだ！　この世界にエレキギターは存在するのか！？


♪闇を裂く光を　瞳の奥に灼きつけて
♪太陽は海に堕ちゆく


「トパシオ……もう、終わりにしましょう！　おれたちにかかった忌むべき『呪い』、今こそ断ち切るべきです！」

　叫びながらランジンが切りかかる。しかし普段の討伐でもそうだけど、自分の歌声をBGMに戦うってどんな気持ちなんだろ。俺だったら全然集中できないと思うけど、そこを無視できるのが攻略対象たる素質なんだろうか。騎士サマってすげー。


♪賭けるのは自分か　それとも違う誰かか
♪選べど終わらぬショウの　とばりが下りるまで


「ずいぶんっ、言ってくれるじゃないか、ランジン！　君とてその『呪い』に魅入られたひとりだろう！？　尽きせぬ夢のために、そして自らの快楽けらくのために……舞台に立つことを選んだのは、紛れもない君の意志だ！」

　笑顔のまま言い返すトパシオだが、戦況はほぼ二対一。余裕の表情とは裏腹に、その剣はじりじりと押され始めていた。


♪先の見えない道を　それでもただひたすらに
♪突き進むしかできない　がむしゃらな僕らだから


「そう……おれはおれの意志で、自分でこの舞台を選んだ。否定はできないし、しません。でも、だからこそ断言します！　今のあなたのやりかたは……間違ってる！」
「ははっ！　それじゃあ、どうする！？　その偽物の剣をもってこのオレを、この『魔犬皇帝』を止めてみせるとでも！？」
「止めてみせます！！　おれの、この手で！！」

　暴れるコラルの手足をミマと分担して抑えつけながら、俺の視線はトパシオたちに吸い寄せられていた。仕掛けた側の俺にはわかる。おそらくトパシオは、負け方を探している。このストーリーをいい感じのところに落とし込む、座りのいい負け方を。


♪戦おどれ　breaking your soul
♪魂のまま
♪運命に心もろとも　波濤に砕けてしまえ

♪啼ひびけ　ringing your bell
♪壊れてもいい
♪一握の光る雫が　その手に残る瞬間ときまで


「話は済んだか？　俺のことも忘れてもらっては困るな。トパシオ……今までの悪戯への仕置きとして、少し痛い目を見てもらおう」
「殿下っ……あ、ははっ、くそっ、ああ、こんな……っ！」

　流れるキャラソンもそろそろサビの終わりだ。心得たようにジルコンが一歩踏み込み、呼応してトパシオが窮地を装う。
　物語の終わりが近づいてくる。舞台の上においてただひとり、ランジンだけが本気で、本音の自分のまま戦っている。


♪偽物フェイクの天使と　現実リアルな悪魔が
♪手を取りあって笑うよ


「今度こそ、終わりだ！　行くぞ、ランジン！！」
「はい！　はああ……っ！！」
「くっ……、ぐああああっ！！」

　二人同時の攻撃に、トパシオの剣が弾き飛ばされた。重い真剣は音を立てて地面を叩き、回転しながらリングの外へ飛んでいく。同時にトパシオの体から、何やら光の塊のようなものが乱れ飛んだ。見覚えがある。あれはトパシオの魔法だ。なるほど、あいつ自身のセルフ演出か。

「今度こそ……勝負、あったようだな」

　ジルコンの、冷徹なまでの言葉と共に。
　トパシオの体は、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。