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101・デーモンドッグエンペラー(ルビ)

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 思い切り息を吸った。どよめきをかき消す高らかさで、関係者席のトパシオをビシッと指さす。

「トパシオ! よくもやってくれたな!!」
「ん?」

 会場の目線が、一斉にトパシオに集まった。だが彼は大して動じた様子も見せず、腕組みをしたままちょっと首をかしげるだけだ。腹立つなー、けどいいぞ、俺の描く展開にはその態度こそが追い風だ。

「今度という今度は見損なったぞ! いくらお前でも、この場所で──お前の魂たるこの闘技場で、とうとうイカサマに手を出すなんて!」
「……は?」
「ちくしょう、お前にも巣食う魔犬の呪いは、そんなにまでお前を変えちまったって言うのかよ! なんとか、なんとかならないのかよ! トパシオが完全に闇堕ちする前に、どうにかあいつを救う方法はないのか!?」
「え、えっと……チュー太郎さん?」

 大げさに嘆いてみせると、客席に軽いどよめきが起こった。試合中の二人も、手を止めて戸惑っているようだ。手のひらで覆った額の下から、二人にちらりと視線を送る。頼む、乗ってくれ。
 言うまでもないことだが──もちろん、俺の言う呪いなんてハナから存在しない。そもそも魔犬の呪いがどうとか自体、トパシオが考えたフェイクストーリーなのだ。ちょっと考えれば誰もが気づくだろう、矛盾だらけの大嘘だ。
 でもトパシオ本人が言う通り、ショウに必要なのは整合性よりも物語。敵対していたヒーロー同士が手に手を取り合って、真の黒幕に立ち向かう。これを王道と言わずしてなんと言おうか。この筋書きをうまく盛り上げられれば、俺もランジンもジルコンも、全員が勝ちのルートに乗れるはず!
 即座に俺の意図に気づいてくれたのは、案の定、ジルコンの方だった。ほんのわずかに目を見開いたあと、唐突に身を翻す。それから片手で振り上げた剣の切先を、椅子の上でふんぞり返っているトパシオに向けた。

「なるほどな。妙に剣が重くなったと思えば……つまりは初めから、俺たちに勝利を与えるつもりはなかったというわけだ。トパシオ……いや、“魔犬皇帝”インペリアル」

 わー、ネーミングセンス微妙! 俺と大差なし! でもいいぞジルコン、その調子だ!

「殿下……意味が、わかりかねるのですが」
「とぼけても無駄だ。憎むべき魔犬の呪いから、どうにかランジンを解放するためにここまで出向いてみれば……まさかその親玉が、よりによってお前の中に棲みついていたとはな。なるほど、と言うことはここのところしばしば耳にしていた、お前らしからぬ悪評もそのせいか。そうなんだろう? ランジン」
「えっ……あ、はい! はい!」

 目くばせを送るジルコンに、ランジンがこくこくと頷く。よっしゃナイス! 最高のアシスト送ってくれたぜ、さすがだジルコン! ランジンもわけがわかっていないなりに、とにかく俺たちの話に合わせてくれようとしているみたいだ。OKOK、それで十分!
 客席のざわめきは、いっそう増幅し始めている。耳をすませば、もはや潜めようとすらしていない観客たちの声が聞こえてくる。

「イカサマ……? どういうことだ? まさかあのトパシオ様に限って、闘技場でのイカサマなんて……」
「で、でも、ランジン様の呪いはトパシオ様がかけたって……ってことはトパシオ様がすべての黒幕……?」
「ち、違うよ! よくわかんねーけど、トパシオ様も呪われてるって! 呪いが悪いんだよ呪いが、よくわかんねーけど!」
「ってことは、前の試合での俺の大負けもそいつのせいか……! 許せねえ、許せねえよ魔犬皇帝!!」

 よしよし、おおむね俺の狙い通り! ちょろいぜ群衆! よく考えろ! でもこんな祭りの熱気の中で、深く考えられるヤツなんていやしねえ!
 残るハードルはあと二人、もうひと押しだ! がんばれ俺!
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