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97・ガチ恋ハーレム獣

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(けど……どうする?)

 再び真正面から対峙した二人は、間合いを測りながら睨み合っている。俺が飛び込んだところであっさり蹴り出されて終わりだろう。どうにかして入る隙を作らなくちゃいけない。思いつくまま、口元にメガホンのように手を当てる。

「ジルコン!」

 呼んだ彼は予想通りこちらを見もしない。が、ぴくりと上がった眉からして、俺の言葉を聞いてることだけはわかる。構わず俺は言葉を探した。あの陰険王子に一番効きそうな言葉。罵声や煽りの一つ二つじゃ、あいつの意表を突くには程遠い。ならば。

「こんなときになんだけどさ! 俺やっぱあの計画諦めることにしたわ! 例の、俺だけチヤホヤモテモテハーレム計画!」
「……ほう?」

 小さく呟いたジルコンは、ランジンから視線を外してはいない。チャンスを狙っているはずのランジンも、攻めあぐねているくらいの隙のなさだ。でも、聞いてる。俺の言葉が耳に届いてさえいるなら、あとは俺の口八丁次第!

「なあ、ジルコン、なんでだと思う? 気になる? 気になんない? 理由、知りたくない?」
「お前、それでも攪乱のつもりか? まあいい、聞いてやる。何故だ」
「それはなあ!」

 思いっきり息を吸う。恥と外聞は今だけ捨てろ! どうにかなれっ!

「俺、お前に、ガチ恋しちゃったから! 惚れちゃったから! ラブだから! だよ!!」
「…………は?」

 唖然としたのは、ジルコンだけじゃない。ミマも、それどころか観客も、闘技場の全てが一瞬静まり返る。
 一呼吸あるかないか間を置いて、ジルコンはただすっと目を細めた。

「……いっそ腹立たしいほどの浅知恵だな。まさかそんな見え見えの出まかせで、俺が動揺するとでも……」
「でぃりゃああああっ!!」
「なっ……!?」

 その呆れ顔を見るより先に、ダッシュで懐に飛び込んだ。ジルコンの動揺は表には出ない。けどそれが苛立ちであれ何であれ、今俺は確かに彼の不意を突いたはず!
 背中から抱き着く形での体当たりに、当然のごとくジルコンはびくともしなかった。が、俺の狙いはそこじゃない。右手に握りしめた俺のランプが、ジルコンの腹部あたりに触れた瞬間。彼の全身を包んだ白い閃光バフが、呪符の仕込まれたアクアマリンに流れ込む!

「ばっ……馬鹿か、お前! は、離せ!!」
「はっ、だーれが離すかよぉ! このままお前の魔力、全部チューチューしちゃって……」
「違う、ランプだ!! 手を離せ、早く!!」
「へ? ……あれ?」

 思わぬ反応に、反射的にランプに目をやった。蓋のてっぺん、一番大粒のアクアマリンが、爆発寸前の恒星みたいに白く光っている。シュウシュウと、空気が焦げる細い音が聞こえる。……もしかして、これ、ヤバい?
 慌てて手を離そうとして、振り向いたジルコンと目が合った。焦っている。今までに見たことがないくらい。
 あ。
 駄目だ、この位置は。
 ほとんど無意識に、後ろに向けて地面を蹴った。……ランプは、握ったままで。

「馬ッ……!!」

 ジルコンの叫びと、伸べられた腕の影をもかき消して。
 手の先で、耳をつんざくような爆音が轟いた。
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