89 / 200
87・ちやないのよさ
しおりを挟む
窓の方をちらと見たジルコンが、机の上のランプに火を入れる。それで俺も、もう外が暗くなってきていることに気がついた。ジルコンは机の上に肘をつき、組んだ手で口元を隠して俺を見ている。ランプの中で炎が揺らぐたび、光を透かした髪の毛がキラキラ光る。
「それとも、何か。お前はあくまで俺のことが信用できないとでも言うつもりか」
「そうじゃ……ねーけどぉ……」
「じゃあなんだ。この俺が、信じろと言っている。十分だろう。それ以上の何かがお前にあるのか」
「……だってこれ、ゲームじゃん」
もにょもにょと口の中で呟くと、ジルコンの眉がぴくりと上がった。しまった。まずいこと言っちゃったか。慌てて言い訳を継ぐ前に、ジルコンが音を立てて椅子から立ち上がる。
「チュー太郎。お前、そろそろ勘違いが過ぎるぞ」
「あ、いや、その」
「だいたい」
表情の消えたジルコンの瞳が、まっすぐに俺を捉えたまま近寄ってくる。思わず椅子ごと逃げかけた俺の顎を、骨ばった指がくっと持ち上げる。
「現時点でのお前と俺の親愛度。お前は把握しているか」
「え? ……っと」
「初期値にプラス20に過ぎない。最大が200のうちでな。ついでに言えば恋愛イベントもほぼ進行していない。つまりお前の言う『ゲーム』的には完全に」
銀色の瞳がすっと細められた。映っていた俺のアホヅラが、まつげの影に隠れて消える。
「お前と俺は、ただの他人だ。行動を束縛されるいわれも、納得を与えてやる義理も無い」
「……っ!!」
全身が固まった。頭からさっと血の気が引くのが、自分の感覚でもわかった。
俺がよっぽどとんでもない顔になったんだろうか。至近距離のジルコンが珍しく、動揺したように瞳を揺らす。
「あ……いや。今のは、つまり」
続きを聞く前に、顎に添えられた指を振り払い、無言で椅子から立ち上がった。ドアに向かおうとする俺の肩を、ジルコンの手ががしりと掴む。
「おい、まだ話は終わってないぞ」
「……っせ」
「は?」
伏せた瞳をきっと上げ、ジルコンを精一杯睨みつけた。その戸惑った顔ですら、みじんの崩れもないイケメンだ。ムカつく。腹立つ。息を吸う。
「うっせえ、バーカバーカノンデリ野郎!! ジルコンなんてちやないっ!! アッチョンブリケー!!!」
「お前それひとかけらも可愛くないぞ……おい!」
力の限りジルコンを振り切って、階下に向かって駆け出した。一拍遅れてジルコンも追ってくる。分厚い階段の踏み板が、割れんばかりの音を立てる。
極短距離の追いかけっこを、ギリギリでかわして部屋に飛び込んだ。寮全体が震えるくらい強く閉めたドアを、外からジルコンがどんどんと叩く。
「チュー太郎、おい、開けろ! 話を聞けと言ってるだろう!」
「あーあー聞こえませーん今日は閉店でーす! つーか鍵つけろプライバシーポリシーどうなってんだバーカ!」
ドアに背中をつけて座り込む。ジルコンがその気になればぶち破れるドアだ。用意してもらった靴箱やらその辺に置いてあった椅子やらを、手当たり次第ドア前に引っ張り込む。幸い、ジルコンが実力行使に出てくる気配はなかった。
多少音は控えめになったものの、それでもしばらく飽きもせずに続いていたノックは、数分ののち唐突に止んだ。ほうっと深い息をつく。今度どっかで鍵買ってこよう。もうあいつなんか信用ならねえ。いや、初めからお互い信頼なんてなかったのかもしれない。なんせ俺たちは──ジルコンの言う通り、他人なんだから。
「それとも、何か。お前はあくまで俺のことが信用できないとでも言うつもりか」
「そうじゃ……ねーけどぉ……」
「じゃあなんだ。この俺が、信じろと言っている。十分だろう。それ以上の何かがお前にあるのか」
「……だってこれ、ゲームじゃん」
もにょもにょと口の中で呟くと、ジルコンの眉がぴくりと上がった。しまった。まずいこと言っちゃったか。慌てて言い訳を継ぐ前に、ジルコンが音を立てて椅子から立ち上がる。
「チュー太郎。お前、そろそろ勘違いが過ぎるぞ」
「あ、いや、その」
「だいたい」
表情の消えたジルコンの瞳が、まっすぐに俺を捉えたまま近寄ってくる。思わず椅子ごと逃げかけた俺の顎を、骨ばった指がくっと持ち上げる。
「現時点でのお前と俺の親愛度。お前は把握しているか」
「え? ……っと」
「初期値にプラス20に過ぎない。最大が200のうちでな。ついでに言えば恋愛イベントもほぼ進行していない。つまりお前の言う『ゲーム』的には完全に」
銀色の瞳がすっと細められた。映っていた俺のアホヅラが、まつげの影に隠れて消える。
「お前と俺は、ただの他人だ。行動を束縛されるいわれも、納得を与えてやる義理も無い」
「……っ!!」
全身が固まった。頭からさっと血の気が引くのが、自分の感覚でもわかった。
俺がよっぽどとんでもない顔になったんだろうか。至近距離のジルコンが珍しく、動揺したように瞳を揺らす。
「あ……いや。今のは、つまり」
続きを聞く前に、顎に添えられた指を振り払い、無言で椅子から立ち上がった。ドアに向かおうとする俺の肩を、ジルコンの手ががしりと掴む。
「おい、まだ話は終わってないぞ」
「……っせ」
「は?」
伏せた瞳をきっと上げ、ジルコンを精一杯睨みつけた。その戸惑った顔ですら、みじんの崩れもないイケメンだ。ムカつく。腹立つ。息を吸う。
「うっせえ、バーカバーカノンデリ野郎!! ジルコンなんてちやないっ!! アッチョンブリケー!!!」
「お前それひとかけらも可愛くないぞ……おい!」
力の限りジルコンを振り切って、階下に向かって駆け出した。一拍遅れてジルコンも追ってくる。分厚い階段の踏み板が、割れんばかりの音を立てる。
極短距離の追いかけっこを、ギリギリでかわして部屋に飛び込んだ。寮全体が震えるくらい強く閉めたドアを、外からジルコンがどんどんと叩く。
「チュー太郎、おい、開けろ! 話を聞けと言ってるだろう!」
「あーあー聞こえませーん今日は閉店でーす! つーか鍵つけろプライバシーポリシーどうなってんだバーカ!」
ドアに背中をつけて座り込む。ジルコンがその気になればぶち破れるドアだ。用意してもらった靴箱やらその辺に置いてあった椅子やらを、手当たり次第ドア前に引っ張り込む。幸い、ジルコンが実力行使に出てくる気配はなかった。
多少音は控えめになったものの、それでもしばらく飽きもせずに続いていたノックは、数分ののち唐突に止んだ。ほうっと深い息をつく。今度どっかで鍵買ってこよう。もうあいつなんか信用ならねえ。いや、初めからお互い信頼なんてなかったのかもしれない。なんせ俺たちは──ジルコンの言う通り、他人なんだから。
1
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!
ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。
ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。
ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。
笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。
「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」
悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい
たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた
人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ
そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ
そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄
ナレーションに
『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』
その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ
社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう
腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄
暫くはほのぼのします
最終的には固定カプになります
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています
奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。
生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』
ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。
顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…?
自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。
※エロは後半です
※ムーンライトノベルにも掲載しています
百色学園高等部
shine
BL
やっほー
俺、唯利。
フランス語と英語と日本語が話せる、
チャラ男だよっ。
ま、演技に近いんだけどね~
だってさ、皆と仲良くしたいじゃん。元気に振る舞った方が、印象良いじゃん?いじめられるのとか怖くてやだしー
そんでもって、ユイリーンって何故か女の子っぽい名前でよばれちゃってるけどぉ~
俺はいじられてるの?ま、いっか。あだ名つけてもらったってことにしよ。
うんうん。あだ名つけるのは仲良くなった証拠だっていうしねー
俺は実は病気なの??
変なこというと皆に避けられそうだから、隠しとこー
ってな感じで~
物語スタート~!!
更新は不定期まじごめ。ストーリーのストックがなくなっちゃって…………涙。暫く書きだめたら、公開するね。これは質のいいストーリーを皆に提供するためなんよ!!ゆるしてぇ~R15は保険だ。
病弱、無自覚、トリリンガル、美少年が、総受けって話にしたかったんだけど、キャラが暴走しだしたから……どうやら、……うん。切ない系とかがはいりそうだなぁ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる