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83・絶対契約主張しますっ!

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「結論から言わせてもらうと、俺は、その……ミマとの試合には、出ないよ」
「え? どうして?」
「出ないっつーか出れないよ、そんなん。俺なんかがまともに戦えるわけねーし、ランジンだって嫌がってたしさ」
「……なるほど?」

 自信と輝きに満ちたトパシオの目が、ほんの僅かに細められた。瞬間、ぎくりと背筋が凍る。まつげの影が落ちた瞳から、一切の光が消えたように見えたからだ。
 トパシオは背もたれに身を預け、肘掛けに肘をついて頬に手のひらを添えた。骨ばった人差し指が、こめかみのあたりをとんとんと叩いている。

「困ったな。出場者の希望にはできるだけ寄り添いたいところだけど、今回ばかりははいそうですかと中止できるものじゃないんだよな。既に契約も交わしていることだし」
「け、契約ったって、ミマとだろ? 俺とはまだそんなんねーじゃん」
「あるよ?」
「え?」
「君との契約も、確かに結んであるよ? なんだ、忘れちゃったのかい? もう一度見せようか」

 言いながらトパシオは引き出しの鍵を開け、中から一枚の紙を取り出して机に置いた。手に取って、息を呑む。紙面にはミマが持っていたものと同じ紋様に加えて、「インペリアル剣術闘技協会・選手出場契約書」の文字が記されている。それと、最下部に──俺の書く下手くそな文字にそっくりな、「煤ヶ谷鍮太郎」のサインも。

「な……なんだよ、これ……」
「コラルが持ってきてくれたものだよ。サインも指紋も、この魔力紋も間違いなく君のものだ。ほら、君の魔力に呼応してうっすら光ってるだろ? 疑うならどこへなりと鑑定に出してくれても構わないよ」
「だっ、し、知らねーよ俺!? こんなん書いた覚え絶対ねーぞ!!」
「うーん……」

 トパシオはちょっと苦笑して、椅子を九十度真横に回す。飾り気の少ない丈夫そうな椅子が、軽く軋んだ音を立てた。

「確かに君にとっては、覚えがないって言葉が真実なのかもしれないけど……でも、元々人間の記憶なんて曖昧なもんだろ。精神状態や思い込みによっては、いともたやすく左右されてしまう。だから契約が存在するんだ。他人と約束を結ぶにあたっては、君の中にしかない君の記憶より、客観的に証明できるこの契約書が優先されるんだよ。残念ながらね」
「んなっ……!」

 子供に言い聞かせるようなトパシオの言葉に、俺は口を開けたまま絶句した。無茶苦茶だ。無茶苦茶だけども、その無茶苦茶を覆せる理屈を俺は持ってない。頼む、俺を信じてくれ……なんて、ミマくらいの親愛度があるならまだしも、今の俺が頼み込んだところで鼻であしらわれるだけだ。

 そもそも、なんでこんな契約書が存在するんだ。偽造か。いや、トパシオに限ってそんな危ない橋を渡るとは思えない。
 心当たりは、ないわけじゃない。恐らく──想像に想像を重ねることになるが──宝石騎士このゲームに、本来存在していたはずのメインストーリー。その中できっと、俺ポジションのキャラは実際に人質を取ったのだ。ミマの出方からしてもきっとそういうことなんだろう。そのデフォルトストーリーの痕跡が、俺の意志とは無関係に、今のこの世界にも残っている。となれば、その影響でコラルが「本物の契約書」を手にしていてもおかしくはない……と、思う。
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