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81・イベント進行、+1
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「ランジン様っ!」
いつもの中庭演習場。穏やかな日差しが当たる芝生の上で、瞑想という名のまどろみに落ちかけていた俺は、回廊の方から聞こえた声にハッと目を覚ました。
声の主、ミマは、ベンチに座るランジンに向かって一直線に駆けてくる。肩の上にはピンクの性悪妖精、コラルも乗っている。こいつの方はまたしても俺を見てニヤリと口の端を上げ、ああもう、いちいち一挙一動がムカつく奴だぜ。
「ミマさん。どうかしたんですか」
「昨日、お約束しましたよね、僕があなたを救い出してみせるって。まずはその第一歩を果たしに来ました」
「第一歩……? ……えっ!?」
手にしていた何かの紙を、ミマはランジンの目の前に突き付ける。途端にランジンの顔が強張った。なんだなんだ。俺も座禅を解いて、野次馬気分で寄っていく。
紙の上には何やら複雑な文様と共に、走り書きの達筆でこんな文字が書かれていた──「インペリアル剣術闘技協会・選手出場契約書」。
「ん? これってつまり……」
「これは……どういうことですか」
俺が発しかけた疑問に、ランジンの震える声が重なった。すがるようにミマを見上げるランジンを、ミマは儚げな微笑で迎え撃つ。
「そこに書いてある通りです。僕も、ランジン様と同じ闘技場に出ます。ランジン様と同じくタッグを組んで、ランジン様と直接戦うことになります」
「ど……どうして、そんな!」
「……トパシオ様と、契約しました」
風になびく桃色の髪を片手で押さえつけながら、ミマは淡々とした口調で告げた。
「もしこの興行で、今までにランジン様が集めた総賭け金の二倍以上の額を集めることができれば、今後ランジン様は二度と闘技場に出なくて構わない。ランジン様の夢に対する恒久的な援助も約束する、と」
「そんな……っ! あなたがそんなこと、する必要ないでしょう!?」
「いえ。僕は灯士です。仲間の騎士様が苦しんでいるところを、安全圏からのうのうと見ていることなんてできません。……それに」
そこまで言って、ようやく俺をちらと見る。気づいてたのかよ。あんまりにもガン無視されるから、マジで俺今いないことになってるのかと思ってた。
「ランジン様。少し、二人きりでお話がしたいんです。どこか……ああ、そうだ、前に見せてくれたあの海まで、もう一度連れてってもらえませんか」
「海……はい、それはもちろん」
「え、待って俺は? 今一応演習中よ?」
知らないイベントの話をされたあげくひとりだけ置いていかれそうになる俺に、ランジンは申し訳なさそうな視線だけをよこす。
「すみません。時間には少し早いですが、今日はこれで終わりにさせてもらえませんか」
「マジで!? ちょ、そういうの公私混同じゃないんですかあ!?」
「チュー君……僕からも、お願いします。大事な話なんだ、僕たちにとって」
「ぐ……っ」
可愛い系と綺麗系、ダブル美少女顔の悲しげな眼が突き刺さる。こうなると俺ひとりが悪役みたいだ。片方は演技だってわかってるのに、こんな顔されちゃ分が悪すぎる。
食い下がれない俺にぺこりとひとつ頭を下げ、二人は連れ立ってどこかに去っていく。どこかって言うかたぶん、俺の知らないあの海とやらに。
「……別にさあ、なんも間違ったこと言ってないよね? 俺」
思わずこぼれた言葉は、誰にも聞かれないまま虚しく消えた。
いつもの中庭演習場。穏やかな日差しが当たる芝生の上で、瞑想という名のまどろみに落ちかけていた俺は、回廊の方から聞こえた声にハッと目を覚ました。
声の主、ミマは、ベンチに座るランジンに向かって一直線に駆けてくる。肩の上にはピンクの性悪妖精、コラルも乗っている。こいつの方はまたしても俺を見てニヤリと口の端を上げ、ああもう、いちいち一挙一動がムカつく奴だぜ。
「ミマさん。どうかしたんですか」
「昨日、お約束しましたよね、僕があなたを救い出してみせるって。まずはその第一歩を果たしに来ました」
「第一歩……? ……えっ!?」
手にしていた何かの紙を、ミマはランジンの目の前に突き付ける。途端にランジンの顔が強張った。なんだなんだ。俺も座禅を解いて、野次馬気分で寄っていく。
紙の上には何やら複雑な文様と共に、走り書きの達筆でこんな文字が書かれていた──「インペリアル剣術闘技協会・選手出場契約書」。
「ん? これってつまり……」
「これは……どういうことですか」
俺が発しかけた疑問に、ランジンの震える声が重なった。すがるようにミマを見上げるランジンを、ミマは儚げな微笑で迎え撃つ。
「そこに書いてある通りです。僕も、ランジン様と同じ闘技場に出ます。ランジン様と同じくタッグを組んで、ランジン様と直接戦うことになります」
「ど……どうして、そんな!」
「……トパシオ様と、契約しました」
風になびく桃色の髪を片手で押さえつけながら、ミマは淡々とした口調で告げた。
「もしこの興行で、今までにランジン様が集めた総賭け金の二倍以上の額を集めることができれば、今後ランジン様は二度と闘技場に出なくて構わない。ランジン様の夢に対する恒久的な援助も約束する、と」
「そんな……っ! あなたがそんなこと、する必要ないでしょう!?」
「いえ。僕は灯士です。仲間の騎士様が苦しんでいるところを、安全圏からのうのうと見ていることなんてできません。……それに」
そこまで言って、ようやく俺をちらと見る。気づいてたのかよ。あんまりにもガン無視されるから、マジで俺今いないことになってるのかと思ってた。
「ランジン様。少し、二人きりでお話がしたいんです。どこか……ああ、そうだ、前に見せてくれたあの海まで、もう一度連れてってもらえませんか」
「海……はい、それはもちろん」
「え、待って俺は? 今一応演習中よ?」
知らないイベントの話をされたあげくひとりだけ置いていかれそうになる俺に、ランジンは申し訳なさそうな視線だけをよこす。
「すみません。時間には少し早いですが、今日はこれで終わりにさせてもらえませんか」
「マジで!? ちょ、そういうの公私混同じゃないんですかあ!?」
「チュー君……僕からも、お願いします。大事な話なんだ、僕たちにとって」
「ぐ……っ」
可愛い系と綺麗系、ダブル美少女顔の悲しげな眼が突き刺さる。こうなると俺ひとりが悪役みたいだ。片方は演技だってわかってるのに、こんな顔されちゃ分が悪すぎる。
食い下がれない俺にぺこりとひとつ頭を下げ、二人は連れ立ってどこかに去っていく。どこかって言うかたぶん、俺の知らないあの海とやらに。
「……別にさあ、なんも間違ったこと言ってないよね? 俺」
思わずこぼれた言葉は、誰にも聞かれないまま虚しく消えた。
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