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79・ツノ系男子はお嫌いですか

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「ごめんなさい、こんな話。もったいぶった言い方をしてしまったけれど、結局おれの事情なんて、おれひとりの勝手な、つまらない思い入れの話なんです」

 自虐的に言い捨てるランジンに、俺はぱたぱたと片手を振った。

「え、いやいやいや。いいじゃんそれ、俺はかっこいいと思うよ」
「か……かっこいい?」
「だってさ、つまりランジンは、故郷……じゃないのかもしれないけど、とにかく大事な場所を復活させるために、一人で体張って頑張ってるってことだろ。すごいよ」

 素直な感嘆に、ランジンは頬を染めて身じろぎをしている。まあ確かに、やり方はちょっと考える余地があると思うけど。でも、特定の場所に深い思い入れを持ったことなんてない俺みたいな人間からしてみたら、彼のその情熱はまぶしくさえ思えるくらいだ。

「でもさー、それって、秘密にしとかなきゃいけないことなん? 正直に打ち明けて募金でも集めれば、協力してくれる人もいそうなもんだけど」
「え? いえ、それは……」
「あ、でも、そっか。あんま大っぴらにするとまた密猟者とか来ちゃうのか。うーん、悪い奴らは悪いよなー」
「ああ……まあ、その理由も……なくは、ないんですが」
「その理由『も』?」

 引っかかる言葉尻に首をかしげる。ランジンはしばらく俺に背を向けたあと、意を決したかのようにくるりと振り返った。

「さっきおれ、完全な妖精態にはなれない、って言いましたよね」
「あー、うん、言ってたね」
「でも、体の一部分だけを妖精態にすることは、おれにもできるんです。……こんな、感じで」
「え? おおっ!?」

 ランジンが指した指の先を見て、俺は思わず声を上げた。さっきまで何もなかった彼のこめかみから、鹿のように枝分かれした角が生えている。薄青に色づいたそれは、海の中の珊瑚にも似ている。色違いであることを除けば、コラルの頭に生えているものとそっくりだ。

「うわ、何、いいじゃんそれ!」
「えっ……い、いい、ですか?」
「うんうん。なんか、今までの美少女然とした感じに、ちょい神秘的なイメージがプラスされてよりグッド。ギャップ萌えっていうか」
「ぎゃ、ぎゃっぷもえ……?」

 思わず語りモードに入りかけた俺に、ランジンはやや引いているように見える。やべ。自重自重。自分で口をふさいだ俺に、ランジンはためらいがちに問いかけてきた。

「あの……ほんとに、本気でそんなふうに思ってくれてるんですか」
「マジマジ。俺こういうのでお世辞言わないよ」
「人のなりに異種の特徴が混じるのは、奇妙だとか、見るに堪えないとかいうことは……思いませんか」
「え、なんで? よくあるじゃんそういうの」
「よ、よくあるんですか!?」
「んー、まあケモミミに比べりゃツノ系はちょっと珍しいかもしれないけど。でも絶対どっかで見たことはある」
「見たこと、ある……!?」

 もちろん言うまでもなく、見たことあるってのは二次元の話だ。でも異種ミミ異種ツノなんてもはや、特殊ジャンルですらない一種の選択装備みたいなもんじゃん? こうして三次元で目の前にしたところで、ランジンの言う奇妙さなんて感じられないし。綺麗事じゃなく、マジで。
 俺にとっては当たり前の返答に、しかしランジンはえらく衝撃を受けたみたいだ。しばらく口元を押さえていたが、やがてひとりごとみたいにぽつりと呟く。

「……灯士さまは、すごいですね」
「え?」
「視野が広くて、いろんな世界を知ってらして。おれももっと……それこそこの国に限らず、もっと広い、大きな世界を知るべきなのかもしれません」
「お、おう……?」

 言って何やら感慨深そうに息を吐く。が、聞かされた俺の方はいまいちピンと来ていない。俺の知ってる世界は別に、知りたくなきゃ知らなくてもいい世界ばっかりだと思うけど。
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