81 / 200
79・ツノ系男子はお嫌いですか
しおりを挟む
「ごめんなさい、こんな話。もったいぶった言い方をしてしまったけれど、結局おれの事情なんて、おれひとりの勝手な、つまらない思い入れの話なんです」
自虐的に言い捨てるランジンに、俺はぱたぱたと片手を振った。
「え、いやいやいや。いいじゃんそれ、俺はかっこいいと思うよ」
「か……かっこいい?」
「だってさ、つまりランジンは、故郷……じゃないのかもしれないけど、とにかく大事な場所を復活させるために、一人で体張って頑張ってるってことだろ。すごいよ」
素直な感嘆に、ランジンは頬を染めて身じろぎをしている。まあ確かに、やり方はちょっと考える余地があると思うけど。でも、特定の場所に深い思い入れを持ったことなんてない俺みたいな人間からしてみたら、彼のその情熱はまぶしくさえ思えるくらいだ。
「でもさー、それって、秘密にしとかなきゃいけないことなん? 正直に打ち明けて募金でも集めれば、協力してくれる人もいそうなもんだけど」
「え? いえ、それは……」
「あ、でも、そっか。あんま大っぴらにするとまた密猟者とか来ちゃうのか。うーん、悪い奴らは悪いよなー」
「ああ……まあ、その理由も……なくは、ないんですが」
「その理由『も』?」
引っかかる言葉尻に首をかしげる。ランジンはしばらく俺に背を向けたあと、意を決したかのようにくるりと振り返った。
「さっきおれ、完全な妖精態にはなれない、って言いましたよね」
「あー、うん、言ってたね」
「でも、体の一部分だけを妖精態にすることは、おれにもできるんです。……こんな、感じで」
「え? おおっ!?」
ランジンが指した指の先を見て、俺は思わず声を上げた。さっきまで何もなかった彼のこめかみから、鹿のように枝分かれした角が生えている。薄青に色づいたそれは、海の中の珊瑚にも似ている。色違いであることを除けば、コラルの頭に生えているものとそっくりだ。
「うわ、何、いいじゃんそれ!」
「えっ……い、いい、ですか?」
「うんうん。なんか、今までの美少女然とした感じに、ちょい神秘的なイメージがプラスされてよりグッド。ギャップ萌えっていうか」
「ぎゃ、ぎゃっぷもえ……?」
思わず語りモードに入りかけた俺に、ランジンはやや引いているように見える。やべ。自重自重。自分で口をふさいだ俺に、ランジンはためらいがちに問いかけてきた。
「あの……ほんとに、本気でそんなふうに思ってくれてるんですか」
「マジマジ。俺こういうのでお世辞言わないよ」
「人のなりに異種の特徴が混じるのは、奇妙だとか、見るに堪えないとかいうことは……思いませんか」
「え、なんで? よくあるじゃんそういうの」
「よ、よくあるんですか!?」
「んー、まあケモミミに比べりゃツノ系はちょっと珍しいかもしれないけど。でも絶対どっかで見たことはある」
「見たこと、ある……!?」
もちろん言うまでもなく、見たことあるってのは二次元の話だ。でも異種ミミ異種ツノなんてもはや、特殊ジャンルですらない一種の選択装備みたいなもんじゃん? こうして三次元で目の前にしたところで、ランジンの言う奇妙さなんて感じられないし。綺麗事じゃなく、マジで。
俺にとっては当たり前の返答に、しかしランジンはえらく衝撃を受けたみたいだ。しばらく口元を押さえていたが、やがてひとりごとみたいにぽつりと呟く。
「……灯士さまは、すごいですね」
「え?」
「視野が広くて、いろんな世界を知ってらして。おれももっと……それこそこの国に限らず、もっと広い、大きな世界を知るべきなのかもしれません」
「お、おう……?」
言って何やら感慨深そうに息を吐く。が、聞かされた俺の方はいまいちピンと来ていない。俺の知ってる世界は別に、知りたくなきゃ知らなくてもいい世界ばっかりだと思うけど。
自虐的に言い捨てるランジンに、俺はぱたぱたと片手を振った。
「え、いやいやいや。いいじゃんそれ、俺はかっこいいと思うよ」
「か……かっこいい?」
「だってさ、つまりランジンは、故郷……じゃないのかもしれないけど、とにかく大事な場所を復活させるために、一人で体張って頑張ってるってことだろ。すごいよ」
素直な感嘆に、ランジンは頬を染めて身じろぎをしている。まあ確かに、やり方はちょっと考える余地があると思うけど。でも、特定の場所に深い思い入れを持ったことなんてない俺みたいな人間からしてみたら、彼のその情熱はまぶしくさえ思えるくらいだ。
「でもさー、それって、秘密にしとかなきゃいけないことなん? 正直に打ち明けて募金でも集めれば、協力してくれる人もいそうなもんだけど」
「え? いえ、それは……」
「あ、でも、そっか。あんま大っぴらにするとまた密猟者とか来ちゃうのか。うーん、悪い奴らは悪いよなー」
「ああ……まあ、その理由も……なくは、ないんですが」
「その理由『も』?」
引っかかる言葉尻に首をかしげる。ランジンはしばらく俺に背を向けたあと、意を決したかのようにくるりと振り返った。
「さっきおれ、完全な妖精態にはなれない、って言いましたよね」
「あー、うん、言ってたね」
「でも、体の一部分だけを妖精態にすることは、おれにもできるんです。……こんな、感じで」
「え? おおっ!?」
ランジンが指した指の先を見て、俺は思わず声を上げた。さっきまで何もなかった彼のこめかみから、鹿のように枝分かれした角が生えている。薄青に色づいたそれは、海の中の珊瑚にも似ている。色違いであることを除けば、コラルの頭に生えているものとそっくりだ。
「うわ、何、いいじゃんそれ!」
「えっ……い、いい、ですか?」
「うんうん。なんか、今までの美少女然とした感じに、ちょい神秘的なイメージがプラスされてよりグッド。ギャップ萌えっていうか」
「ぎゃ、ぎゃっぷもえ……?」
思わず語りモードに入りかけた俺に、ランジンはやや引いているように見える。やべ。自重自重。自分で口をふさいだ俺に、ランジンはためらいがちに問いかけてきた。
「あの……ほんとに、本気でそんなふうに思ってくれてるんですか」
「マジマジ。俺こういうのでお世辞言わないよ」
「人のなりに異種の特徴が混じるのは、奇妙だとか、見るに堪えないとかいうことは……思いませんか」
「え、なんで? よくあるじゃんそういうの」
「よ、よくあるんですか!?」
「んー、まあケモミミに比べりゃツノ系はちょっと珍しいかもしれないけど。でも絶対どっかで見たことはある」
「見たこと、ある……!?」
もちろん言うまでもなく、見たことあるってのは二次元の話だ。でも異種ミミ異種ツノなんてもはや、特殊ジャンルですらない一種の選択装備みたいなもんじゃん? こうして三次元で目の前にしたところで、ランジンの言う奇妙さなんて感じられないし。綺麗事じゃなく、マジで。
俺にとっては当たり前の返答に、しかしランジンはえらく衝撃を受けたみたいだ。しばらく口元を押さえていたが、やがてひとりごとみたいにぽつりと呟く。
「……灯士さまは、すごいですね」
「え?」
「視野が広くて、いろんな世界を知ってらして。おれももっと……それこそこの国に限らず、もっと広い、大きな世界を知るべきなのかもしれません」
「お、おう……?」
言って何やら感慨深そうに息を吐く。が、聞かされた俺の方はいまいちピンと来ていない。俺の知ってる世界は別に、知りたくなきゃ知らなくてもいい世界ばっかりだと思うけど。
1
お気に入りに追加
324
あなたにおすすめの小説
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【AI画像つきエッセイ】仏教と女性のおはなし ~あるいはスジャータちゃん物語~
糺ノ杜 胡瓜堂
エッセイ・ノンフィクション
素人小説を書いておりますが、多忙でずっと活動できず、執筆自体久々です!
ましてや、ここ「アルファポリス」で先行公開するのは本当に久しぶりです。
(最近は18禁専門小説投稿サイト「ノベルピンク」様を中心に活動しています)
・・・いつもは(ピー)とか露骨でえげつないポルノ小説ばかり書いておりますが、珍しくゆるゆる&真面目なエッセイ。
それもテーマは「仏教」(おおっ!)
(追記:スミマセン、やっぱり「真面目」にはなりませんでした・・・)
と言っても私自身は「家の宗派」は真言宗ですが、仏教を信仰しているわけではありません。
強いて言えば「密教」が大好きで、アート&知識として面白い!・・・くらいの感覚ですかね。
さらに、大きな声では言えませんが(笑)「真言立川流」が私の理想に最も近い感じです(おいっ!)
その意味はエッセイの後半で言及すると思います。
とりとめのないエッセイですが、どうぞ気軽にご覧ください!
なお、挿絵は画像生成AI「Stable Diffusion」、モデルデータは独自にマージ(融合)した「闇鍋あじあんv4」を使用している自作画像です。
レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~
裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】
宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。
異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。
元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。
そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。
大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。
持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。
※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。
ゲームの悪役貴族に転生したのでひたすらに努力してみた〜ヒロインたちとは関わるつもはないのに事あるごとにフラグを立ててしまうんだが〜
朔
ファンタジー
交通事故で亡くなったラノベ好きの高校生 藤谷優弥はゲームの悪役貴族のアラン・ハイドに転生した。原作通りにはならないと努力することを決意した彼は元々の才能と相まって最強になっていた。ヒロインたちと関わるつもりはないのに気付けばフラグを回収しまくっていた。
最も死に近い悪女になりました(完)
江田真芽
ファンタジー
10歳からの10年間、魔女に体を乗っ取られていたサマンサ・ベル・カートライト。彼女は20歳の誕生日に、稀代の魔女から体を解放された。
「もう死亡フラグしかないから、あんたに体返すわ。ちょっと可哀想だし、楽しませてくれたお礼ってことであんたにリセット魔法をかけてあげるわね。指を鳴らせば1日3回、朝からリセットできるわ。ついでに処女に戻しておいてあげる。いや〜皇女として遊べるなんて、最高の10年だったわ。ありがとね。じゃあバイバ〜イ」
カートライト帝国の皇女であるサマンサは、魔女の好き勝手な行いにより帝国中から【悪女】と呼ばれていた。
死亡フラグしかない彼女は、果たして生き残れるのか?!そして、魔女のせいで悪女となった彼女は幸せになれるのかーー?!
哀れな皇女様のお話、はじまりです☆
11/7完結しました^^
悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
魔女を求めて今日も彼らはやって来る。
まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。歳は人間でいうと17歳位。女神と称される程の美人よ?自称が付くけれど。
現在、魔女の森に1人で住んでいるわ。
毎度、魔女の私をを必要としている人達がここに訪ねて来る。
今日はどんな方がお見えになるのかしら?
1話ずつの話で少しずつ物語が進むように書いています。
※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。
ダークファンタジーかも知れません…。
10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。
今流行りAIアプリで絵を作ってみました。
なろう小説、カクヨムにも投稿しています。
Copyright©︎2021-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる