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77・海の子ランラン

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 去りゆくミマたちの背が、完全に見えなくなった後。ようやく我に返った俺は、その足でランジンにずかずかと詰め寄った。

「おい! どういうことだよ、あれ!?」
「どういうこと、って……あなたが仕組んだこと、なんですよね?」
「んなわけあるかあ!! だいたいお前も見てたはずだろ、コラルが俺の顎に当たり屋みたく飛び込んできたところ!! あれが人質に取られてる奴の行動かよ!?」
「え? あ……」

 ハッと身をすくませたランジンが、長いまつ毛を何度かしばたかせる。

「そう言われてみれば……そう、確かにそうですよね。なんでおれ、そんな簡単なことに気づかなかったんだろう」
「だろ!? ってか根本的な話、帰ってんじゃんコラル! 人質じゃねえじゃん!!」
「た、確かに!」

 俺の追撃に、ランジンは雷に打たれたような表情で両手を叩いた。今気づいたのかよ。これ悪いのは親愛度の呪いか、それともランジンのおアタマか、どっちだ?

「で、でも、灯士さまともあろう人なら、おれにはわからない方法で人質を取ることも可能でしょう? 例えば、そう、脳の中に、呪術的処置を施した宝石を埋め込むとかして……」
「怖ッ! あのさあ、俺にそんな高度なことできると思う!? 俺が魔法関連ド素人なことぐらい、一緒に演習やってたらわかんだろ!?」
「そ、それは……そうですね……」

 ランジンはしゅんと表情を曇らせて、それから俺に向かって深々と頭を下げた。

「……すみませんでした。どうやらおれは、あなたにあらぬ疑いをかけてしまったようです」
「いやまあ、いいけどさ、わかってくれたなら……それより、ミマの言ってたハイフェン族がどうのこうのって」
「……」

 再び目を伏せたランジンが、風に吹かれるようにふらふらとベンチに座る。隣の席をぽんぽんと叩かれて、俺も呼ばれるままに腰を下ろした。

「一度聞かれてしまった以上、黙っていても仕方がないですね。……ミマさんが言った通り、おれは海の精霊・ハイフェン族の血を引いているんです」
「あー、うん」

 聞かれた、というか、ミマは明らかに狙って俺に聞かせてたような気がするけど。たぶん、イベント進行的にその方が話が早いと思ったんだろう。あいつもプライバシーの概念ない組かよ。転生者のくせに。そういうとこよ。

「と言っても、母方の曽祖父がそうだってだけで、もうだいぶ血は薄くなってしまっていますけど。コラルさまのような純血の方と違って、完全な妖精態にもなれないですし」
「妖精態? って、え、じゃあつまりコラルは」
「はい。普段の姿は妖精態ですが、おれたちと同じような姿にもなれるはずですよ」
「マジで!?」

 意外。いやでもそうか、マスコット枠が人間になるとイケメンってのは定番っちゃ定番か。いやイケメンかどうかは知らんけど。でもイケメンなんだろどうせ。これで俺並みの地味顔だったりしたら、予想外を通り越して大暴投が過ぎる。ってことは実はあいつ、いわゆるところの隠し攻略キャラだったりするのか? うーん、俺は攻略したくねえな、あんまり。
 そうだ、ていうか、だとしたらトパシオ、あいつますますなんなんだよ。確か初対面のときコラルを標本にするとかなんとか言ってたよな。コラルが人間になれるの知ってて、その上であんなことしようとしてたの? 恐ろしすぎるだろ。
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