転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ！

７３・お友達には優しくね

「逆に聞くけど、チュー太郎」

　芝生から立ち上がり、膝の屈伸をしながらトパシオは訊ねる。

「君にとっての友情、ってのはなんなんだい？」
「えっ」

　困った。俺の方が痛いところ突かれた。いや、トパシオにとってはジャブですらない質問なんだろうけど、俺にはクリティカルヒットだ。だって俺、偉そうな顔して友情語れるほど友達いたことないし。

「そ、それはその……一緒にいて楽しい、とか？　こいつといると気が休まる、とか？　一般的にはそういうのを友情って言うんじゃねえのー、とか……？」

　どうにか一般論をひねり出した俺に、トパシオは感情の読めない笑顔を向ける。

「一緒にいると楽しい。気が休まる。それって立派な、利益だよな」
「ウッ」
「有形無形、感情実益、全てひっくるめてトータルで、自分の利になる相手との付き合い。それこそがまさに友情と呼ぶべき絆だって、オレは真面目にそう思ってるよ。むしろ君は誰か他人に対して、一緒にいても楽しくないし何一ついいことさえもないけれど、それでも自分と友達でいてくれなんてことが言えるかい？」
「ヴヴッ！！」

　またしても俺に痛恨の一撃！　胸を押さえて上体を折り曲げる。一緒にいても楽しくないしいいことないし、だったら友達になりたいなんて思う人いなくても当然。それってまんま昔の俺じゃん。ああ、思わぬとこで心の柔らかい部分をえぐられた。

「ま、とは言え」

　組んだ手を前に伸ばし、トパシオは太陽みたいに快活に笑う。

「オレの一方的な言い分だけじゃ、君も納得行かないだろ？　今度ランジンにも聞いてみるといい。オレは彼を大事な友達だと思ってるし、彼の方もそう思ってくれているって信じてるよ」
「そ……そっすか」

　そこまできっぱり言い切られると、俺としてもそれ以上は突っ込めない。それに確かに、ランジンの考えを聞かないことにはいいも悪いも決められないし。偶然にも今週の演習パートナーはランジンだ。トパシオの言う通り、直接聞いてみることにしよう。……話してくれっかなあ。親愛度は相変わらず最低だし。嫌悪よりも不安を全面に押し出したあいつの目、素直に冷たくされるより刺さることがあるんだよなあ。

「それじゃ、オレはそろそろ店に戻るよ。まだ仕事が残ってるんだ」
「店？　って」
「ああ、副業の一つとしてね。と言っても稼ぎの額で言えば、そっちが本業みたいなもんだけどな」
「ひえー……すげーな、青年実業家じゃん」
「青年実業家？　ははっ、なんかいいな、その言い方。今度から騎士兼青年実業家を肩書きにしようかな……っと、お喋りしてる場合じゃないや」

　去り際に軽く片手を上げて、トパシオは来たときと同じ速さで走っていく。最後まで揺るぎない爽やかさだったな。ああ言うのを真の陽キャ、陽キャを超えた耀キャとでも言うんだろうか。前世の俺なら二秒見るだけで目が潰れているタイプの人間だ。そんな相手と対等に……と言うにはちょっとはばかられる内容だったけど、まあ最低限ちゃんと会話を続けられるなんて。俺もこの世界に来て以来、つくづくキラキラに対する耐性がついたもんだ。