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72・ライフアズアドッグ
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「あれはね、賭け試合の呼び込みをしてたんだ」
「か、賭け試合?」
「あ、もちろん合法的な興業だぜ? オレだってこれでも騎士のはしくれだし、それにあくまで法は遵守するのがオレのモットーだからね」
本当かなあ。コラルに対する仕打ちとか、相当ギリギリだったような気がするけど。一線は引くけどライン際すれすれまではセーフと思ってるクチか。いやまあ、平気で犯罪犯すよりはマシだけどさあ。
丘の上を吹き抜ける潮風が、火照った頬に心地いい。水を飲み干したトパシオが、俺の隣に座って足を投げ出した。
「ランジンには、なんと言うか……金を稼がなきゃいけない事情があってね。そのためにオレが一肌脱いでるってわけだ。もちろんオレの方も、協力する以上それなりの利には預からせてもらってるけどね」
「あの……じゃあ、あれは、どういう」
「あれ?」
「その……魔犬の呪いがどうとか」
「ああ、あの話か」
今思い出したとでもいうふうにトパシオは頷いて、影のない爽やかな笑みを俺に向ける。
「悲劇的な物語の存在は大衆受けするからね。シンプルに闘技だけを見せるより、同情もセットで売るべきだと思ったんだ」
「は?」
「ランジンは容姿がああだから、ああいう姿を見たい層の集客も一定以上は見込めるだろ。幸い狙いは大当たりで、オレもずいぶん稼がせてもらったよ」
「なっ……」
悪びれもせずに言われた言葉に、俺は一瞬絶句した。
「え、何、じゃあ呪いとかそういうのは全部嘘!?」
「嘘って言い方は聞こえが悪いなあ。いわゆるストーリーってやつだよ」
「なっ、じゃあ、あのワンワーンみたいなのもお前がやらせたの!?」
「あそこまでの演技は指導してないけどね。意外な才能だよなあ、ははっ」
声を上げて笑うトパシオの瞳には、さっきまでと変わらず一切の闇も曇りも見つけられない。こ、怖い。っていうかもはや、主人公サイドの人間にいちゃダメな域に達してるだろ。
「い……いくらなんでもそれはいかがなもんかと思うよ、俺は」
やや距離を取りつつ呟くと、トパシオは心底不思議そうに首を傾げた。
「どうして? 試合の内容も形式も届け出てるし、ランジンの同意書だってちゃんと取ってる。天下の往来で呼び込みを行うにも、何ら後ろ暗いことはしてないよ」
「いや法だけ守ってりゃいいってもんじゃねえだろ! 犬の真似させて金稼ぐとかさあ、大事な友達にすることじゃねーよ!」
「友達に?」
まだ少年の色を残した顔に、ますます戸惑いの色が濃く浮かぶ。だからその純粋そのものみたいな反応が怖いんだって。
「そうかな。ランジンに犬の真似をしてもらえば、彼の利益もオレの利益も数倍に膨れ上がる。なら彼が友達であるか否かに関わらず、あえて忌避する理由なんてどこにあるんだい?」
「り、利益利益ってさっきからお前さあ! お前の言う友情ってのは、利益だけで繋がってる関係なのかよ!?」
「そうだけど?」
「そっ……!?」
あっさりと返されて、またしても二の句が継げなくなった。つーかむしろここはトパシオが言葉に詰まるべきとこだろ。俺わりといいこと言ったんだから痛いとこ突かれろよ、攻略キャラならよ。
「か、賭け試合?」
「あ、もちろん合法的な興業だぜ? オレだってこれでも騎士のはしくれだし、それにあくまで法は遵守するのがオレのモットーだからね」
本当かなあ。コラルに対する仕打ちとか、相当ギリギリだったような気がするけど。一線は引くけどライン際すれすれまではセーフと思ってるクチか。いやまあ、平気で犯罪犯すよりはマシだけどさあ。
丘の上を吹き抜ける潮風が、火照った頬に心地いい。水を飲み干したトパシオが、俺の隣に座って足を投げ出した。
「ランジンには、なんと言うか……金を稼がなきゃいけない事情があってね。そのためにオレが一肌脱いでるってわけだ。もちろんオレの方も、協力する以上それなりの利には預からせてもらってるけどね」
「あの……じゃあ、あれは、どういう」
「あれ?」
「その……魔犬の呪いがどうとか」
「ああ、あの話か」
今思い出したとでもいうふうにトパシオは頷いて、影のない爽やかな笑みを俺に向ける。
「悲劇的な物語の存在は大衆受けするからね。シンプルに闘技だけを見せるより、同情もセットで売るべきだと思ったんだ」
「は?」
「ランジンは容姿がああだから、ああいう姿を見たい層の集客も一定以上は見込めるだろ。幸い狙いは大当たりで、オレもずいぶん稼がせてもらったよ」
「なっ……」
悪びれもせずに言われた言葉に、俺は一瞬絶句した。
「え、何、じゃあ呪いとかそういうのは全部嘘!?」
「嘘って言い方は聞こえが悪いなあ。いわゆるストーリーってやつだよ」
「なっ、じゃあ、あのワンワーンみたいなのもお前がやらせたの!?」
「あそこまでの演技は指導してないけどね。意外な才能だよなあ、ははっ」
声を上げて笑うトパシオの瞳には、さっきまでと変わらず一切の闇も曇りも見つけられない。こ、怖い。っていうかもはや、主人公サイドの人間にいちゃダメな域に達してるだろ。
「い……いくらなんでもそれはいかがなもんかと思うよ、俺は」
やや距離を取りつつ呟くと、トパシオは心底不思議そうに首を傾げた。
「どうして? 試合の内容も形式も届け出てるし、ランジンの同意書だってちゃんと取ってる。天下の往来で呼び込みを行うにも、何ら後ろ暗いことはしてないよ」
「いや法だけ守ってりゃいいってもんじゃねえだろ! 犬の真似させて金稼ぐとかさあ、大事な友達にすることじゃねーよ!」
「友達に?」
まだ少年の色を残した顔に、ますます戸惑いの色が濃く浮かぶ。だからその純粋そのものみたいな反応が怖いんだって。
「そうかな。ランジンに犬の真似をしてもらえば、彼の利益もオレの利益も数倍に膨れ上がる。なら彼が友達であるか否かに関わらず、あえて忌避する理由なんてどこにあるんだい?」
「り、利益利益ってさっきからお前さあ! お前の言う友情ってのは、利益だけで繋がってる関係なのかよ!?」
「そうだけど?」
「そっ……!?」
あっさりと返されて、またしても二の句が継げなくなった。つーかむしろここはトパシオが言葉に詰まるべきとこだろ。俺わりといいこと言ったんだから痛いとこ突かれろよ、攻略キャラならよ。
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