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65・宝石色メモリアルロード
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とにかく、お仕事再開だ。俺もまたハフノンさんの横に並び、浜の上に昆布を並べていく。腰が辛えんだよな、この作業。それでもそろそろちょっとはコツが掴めてきた、ような気がする。昆布以外のことを考える余裕も出てきた。
「ジルコン、けっこうこっち帰ってきたりするんですか」
世間話の定番として、共通の話題を振ってみる。ハフノンさんも手は止めないまま答えてくれる。
「そんなに頻繁なわけではないかな。お城にいるときはどうしてもね。今はほら、わりとご近所さんになったから」
「あー、なるほど」
崖の上を見上げれば、目に入るのは俺たちが暮らす灯士寮。なんで王子サマがわざわざ執事なんかやってんだと思ってたけど、もしかしたらこれも理由のひとつか。
「この前はルビーとサフィーも来てくれたんだよ。すごく久しぶりだったなあ、十年ぶりぐらいかな」
「ルビーとサフィー……って、ルビーノとサフィール? そういや幼なじみなんだっけ」
「そう。ジルがこっちにいる頃からの友達だったんだ」
喋りながらハフノンさんは俺の横を通り抜けていく。さすがに早い。俺が昆布を半分伸ばすか伸ばさないかの間に、ハフノンさんはもう一枚全部を終えている。熟練の技。
「懐かしいなあ。二人とも、いつもあの崖の小道を通って遊びに来てたの。もちろん、周りの大人たちには内緒でね」
「へええ。お城で知り合ったわけじゃないんすね」
「うん。あの二人だけはここでもお城に行った後も、何も変わらずにジルと接してくれたんだって。ジルもそれが嬉しかったみたいよ。子供の頃はしょっちゅう喧嘩して、よく泣かされたりもしてたのにね」
「泣かされたって、あのジルコンが?」
「そうそう。年下なんだから勝てるわけないのに、あの子ったら強情で暴力的だからねー」
さらりとけっこうな毒を吐く。が、事実なだけにフォローのしようもない。曖昧に笑って受け流す俺に、ハフノンさんはふふ、と目を細めた。
「意地っ張りで素直じゃなくて、ほんと、付き合いづらい子でしょう。チュー太郎くん、ジルと仲良くしてくれてありがとうね」
「え、あ、いや、そんな」
思わず昆布の手を止めてうろたえる。そもそも仲良くと言っていいものなのかどうか。俺たちの関係は共同戦線みたいなもんであって、あいつも俺も自分で選んで親しくしてるわけじゃないし。
でも──素直な感情が、ぽっと頭の芯に浮かぶ。なんのかんの言っても、俺はあいつのこと、嫌いじゃない。
「いい奴ですよ、あいつは。いい奴? うーん……いい奴……少なくとも悪いやつではない、と思う……」
「あははっ! それはそう、確かに。悪いやつではない」
本人に聞かれたらまた指輪が飛んできそうなセリフに、ハフノンさんは心底納得したように頷いてくれた。やっぱそういう扱いでいいんだ、身内的にも。
「あと俺の前だと意地っ張りっつーより、感情自体あんま見せてくんない感じかも」
「ああ、それ。それがまさにあの子の素直じゃないとこなんだよねえ」
「え?」
「好きも嫌いも痛いのも嬉しいのも、絶対、素直には顔に出さないの。あの子なりの処世術でもあるんだけどね。理屈とごまかし方が上手いから、みんなそういう人だと思っちゃうんだけど」
「……マジすか」
「マジすよ。機会があったら観察してみて。よーく見たらちょっとだけ動揺してるはずだから」
へえ。ちょっといいこと聞いちゃった。ジルコンに直接問い詰めたら、またうまいことけむに巻かれそうだけど。
「ジルコン、けっこうこっち帰ってきたりするんですか」
世間話の定番として、共通の話題を振ってみる。ハフノンさんも手は止めないまま答えてくれる。
「そんなに頻繁なわけではないかな。お城にいるときはどうしてもね。今はほら、わりとご近所さんになったから」
「あー、なるほど」
崖の上を見上げれば、目に入るのは俺たちが暮らす灯士寮。なんで王子サマがわざわざ執事なんかやってんだと思ってたけど、もしかしたらこれも理由のひとつか。
「この前はルビーとサフィーも来てくれたんだよ。すごく久しぶりだったなあ、十年ぶりぐらいかな」
「ルビーとサフィー……って、ルビーノとサフィール? そういや幼なじみなんだっけ」
「そう。ジルがこっちにいる頃からの友達だったんだ」
喋りながらハフノンさんは俺の横を通り抜けていく。さすがに早い。俺が昆布を半分伸ばすか伸ばさないかの間に、ハフノンさんはもう一枚全部を終えている。熟練の技。
「懐かしいなあ。二人とも、いつもあの崖の小道を通って遊びに来てたの。もちろん、周りの大人たちには内緒でね」
「へええ。お城で知り合ったわけじゃないんすね」
「うん。あの二人だけはここでもお城に行った後も、何も変わらずにジルと接してくれたんだって。ジルもそれが嬉しかったみたいよ。子供の頃はしょっちゅう喧嘩して、よく泣かされたりもしてたのにね」
「泣かされたって、あのジルコンが?」
「そうそう。年下なんだから勝てるわけないのに、あの子ったら強情で暴力的だからねー」
さらりとけっこうな毒を吐く。が、事実なだけにフォローのしようもない。曖昧に笑って受け流す俺に、ハフノンさんはふふ、と目を細めた。
「意地っ張りで素直じゃなくて、ほんと、付き合いづらい子でしょう。チュー太郎くん、ジルと仲良くしてくれてありがとうね」
「え、あ、いや、そんな」
思わず昆布の手を止めてうろたえる。そもそも仲良くと言っていいものなのかどうか。俺たちの関係は共同戦線みたいなもんであって、あいつも俺も自分で選んで親しくしてるわけじゃないし。
でも──素直な感情が、ぽっと頭の芯に浮かぶ。なんのかんの言っても、俺はあいつのこと、嫌いじゃない。
「いい奴ですよ、あいつは。いい奴? うーん……いい奴……少なくとも悪いやつではない、と思う……」
「あははっ! それはそう、確かに。悪いやつではない」
本人に聞かれたらまた指輪が飛んできそうなセリフに、ハフノンさんは心底納得したように頷いてくれた。やっぱそういう扱いでいいんだ、身内的にも。
「あと俺の前だと意地っ張りっつーより、感情自体あんま見せてくんない感じかも」
「ああ、それ。それがまさにあの子の素直じゃないとこなんだよねえ」
「え?」
「好きも嫌いも痛いのも嬉しいのも、絶対、素直には顔に出さないの。あの子なりの処世術でもあるんだけどね。理屈とごまかし方が上手いから、みんなそういう人だと思っちゃうんだけど」
「……マジすか」
「マジすよ。機会があったら観察してみて。よーく見たらちょっとだけ動揺してるはずだから」
へえ。ちょっといいこと聞いちゃった。ジルコンに直接問い詰めたら、またうまいことけむに巻かれそうだけど。
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