上 下
59 / 200

57・課金は血の味、人の味

しおりを挟む
「よーくわかった!」

 自分を鼓舞するように声を上げ、ミマの前にすっくと立ち上がる。まだ旋回を続けていたコラルは無視して、ミマにまっすぐ指を突き付けた。

「やっぱジルコンの言う通り、お前みたいな輩に騎士サマたちを好きにさせとくわけにはいかねーわ! もー気後れはしねえ、こっからはバチバチで行くからな!!」
「ジルコン?」
「あっ」

 ミマが怪訝そうな顔をする。しまった、口が滑った。俺とジルコンが協力関係にあること、まだ隠しといたほうがよかったか? ええい、でも言っちゃったもんはこの際しょうがねえ!

「……ふうん、なるほど、そういうこと。どうもあのエセ執事、やけにお前の側にばかりつくと思ったら」

 ミマも事の次第を察したようだ。ブチ切れられるかとも思ったが、彼は意外にもにやりと笑う。

「妙な趣味の奴だと思ったら、陰ではちゃっかり人気一位のキャラをキープしてたってわけ。人がまだ手を出してなかったのをいいことに、ふざけた真似してくれるじゃないか」
「だから人気とかそういう……人気一位!?」

 声を荒げかけたところで急ブレーキをかけた。今何か信じられない言葉を聞いた気がする。

「に、人気一位って、ジルコンが!?」
「知らなかったの? へえ、わかっててやってたわけじゃないのか」
「なんでえ!? あのコンプラガン無視ノンデリカシー王子が!?」
「コンプラ……? 何を言ってるのかよくわからないけど、まあ、なんで、ってのには同意だな」

 ミマは忌々しげに舌打ちをして、自分の肘を両手でさすった。今までの傲岸さと打って変わって、その様子は何かを恐れているようにも見える。

「確かに、キャラ自体は決して悪くない……むしろ王道の胸キュン要素に溢れた良キャラだと思うけど」
「そ、そうかなあ……?」
「でも、本質的な意味であいつを好きになれるのなんて、ニワカの無課金か微課金エンジョイ勢だけだよ。そういう層が数ばかり多いせいで……あいつらみんな、何もわかってない」
「何だよ、意味深なこと言うじゃん」
「……ほんっと、無課金は気楽でいいな」

 低く呟いたミマの目には、殺意すらこもっているように見える。こ、怖い。

「…………あいつの顔を見ると、気分が悪くなるんだよ」
「え」

 口元を覆って、らしからぬ低い声で、喉奥から絞り出すようにミマは呟いた。

「そうだな。お前は知らないだろうな。天井無しガチャの無間地獄。イベラン上位を争って、血反吐を吐きながら続けるマラソン。そのたびに文字通りの身銭を切って、あいつのところにジュエネルを買いに行く苦しさを」
「……あー」
「そうだよな。知らないんだもんな。273.85カラットのあの微笑みが、だんだん人の生き血を吸う悪魔の笑みに見えてくることなんてさぁ!! 僕だって知らずにいられたらどれだけよかったよ!! くそックソッくそぉおっ!!」
「ひゃわっ!? み、ミマサマ、落ち着いて!!」
「あ、あぁー……」

 コラルの制止をものともせずに、ミマはものすごい形相で道端の岩をガンガン蹴り始める。な、なるほど。お前もお前でいろいろトラウマがあるんだな、ミマ。理解はできないけど、同情はするぜ。なんつったらまたブチ切れられそうだけど。
 しばしののち。ゼエゼエと肩を揺らしながら、ミマはようやく俺へと向き直る。

「……ともかく、あいつがお前とグルだってわかった以上、僕としても放置しておくことはできなくなったな」
「え!? ちょ、ちょっと!!」
「お前とジルコンの間にあるものがなんであれ、この世界においては課金に勝てるものなどひとつもない。お前だって身に染みてわかってるだろ?」
「……!!」

 頭から血の気が音を立てて引いていく。そんな。ジルコンまでミマに奪われたら、俺はほんとに孤立無援だ。
 いや、それだけじゃない。もしかしてジルコンまでもが俺に、嫌悪に満ちた目を向ける日が来るかもしれない。今までの全部が嘘だったみたいな、冷たい目で俺を見下ろす日が。嫌だ。想像するだけで、絶望しかない。
 蒼白になった俺を見て、ミマは心底おかしそうに笑う。

「安心しろよ、あいつの攻略手順は特殊だからな。僕にとっては残念なことだけど、今すぐ攻勢に出るわけにはいかない」
「あ……」
「ま……せいぜい奪われる前提の幸せを、今のうちにちょっとでも噛みしめておきなよ。……ふふっ♡」

 立ち尽くす俺の前で、ミマは右手を軽く掲げた。旋回していたコラルがぴたりと動きを止めて、一直線にミマの元へ戻っていく。何しに来たんだあいつ。いや、そんなことはどうでもいい。

 今回は高笑いじゃなく、企み深い笑みを残してミマが去っていったあとも。
 最悪の想像に囚われたまま、俺はその場から動けずにいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

【BL】【完結】序盤で殺される悪役王子だと気づいたので、全力でフラグを壊します!

まほりろ
BL
【完結】自分がゲームの序盤で殺される悪役王子だと気づいた主人公が破滅フラグを壊そうと奮闘するお話。 破滅フラグを折ろうと頑張っていたら未来の勇者に惚れられてショタ同士でキスすることになったり。 主人公の愛人になりたいといういとこのフリード公子に素またされたり。エッチな目に会いながらも国を救おうと奮闘する正義感の強い悪役王子様の物語。   ショタエロ有り、Rシーンはぬるいです。 *→キス程度の描写有り ***→性的な描写有り 他サイトにもアップしています。 過去作を転載しました。 全34話、全84000文字。ハッピーエンド。 「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された

まほりろ
BL
【完結済み】闇属性の兄を救うため、光属性のボクの魔力を全部上げた。魔力かなくなった事を知った父(陛下)に、王子の身分を剥奪され侯爵領に送られた。ボクは兄上を救えたから別にいいんだけど。 なぜか侯爵領まで一緒についてきた兄上に「一緒のベッドで寝たい」と言われ、人恋しいのかな? と思いベッドに招き入れたらベッドに組敷かれてしまって……。 元闇属性の溺愛執着系攻め×元光属性鈍感美少年受け。兄×弟ですが血のつながりはありません。 *→キス程度の描写有り、***→性的な描写有り。 「男性妊娠」タグを追加しました。このタグは後日談のみです。苦手な方は後日談は読まず、本編のみ読んでください。 ※ムーンライトノベルズとアルファポリスにも投稿してます。 ムーンライトノベルズ、日間ランキング1位、週間ランキング1位、月間ランキング2位になった作品です。 アルファポリスBLランキング1位になった作品です。 「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」 ※表紙イラストは「第七回なろうデスゲーム」の商品として、Jam様がイラストを描いてくださいました。製作者の許可を得て表紙イラストとして使わせて頂いております。Jam様ありがとうございます!2023/05/08

【BL】【完結】「幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで」【第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品】

まほりろ
BL
【第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品】 【全122話、完結済み】 ザフィーア・アインスは異世界から現れた神子にはめられ、長年慕ってきた王太子に婚約破棄された。「エルガー様、僕は何も……!」「うるさい! 貴様の声など聞きたくない! 耳障りだ!」ザフィーアは弁明しようとするが、王太子は聞く耳を持たない。 アインス公爵は牢屋に入れられたザフィーアを「アインス公爵家の恥さらしが!」と罵り頬を叩く。 婚約者に裏切られ、親に見捨てられたザフィーアは、神子を害した悪人として国境近くの教会に幽閉されることになる。 恵みの雨を降らせ民の信仰を集める神子、その神子を害したザフィーアに民から浴びせられる言葉は冷たい。「死ね! 悪魔!」「くらえろくでなし! 天誅!」「消えろ!」「くたばれ! 化け物!」民衆から石を投げられ、失意のままた王都をあとにするザフィーア。 国境で神子の刺客に襲われたザフィーアは「剣《そんなもの》を使う必要はないよ、僕は一人で死ねるから……」崖に身を投げ自ら死を選ぶのだった…………。 婚約破棄、美青年×美少年、溺愛執着、執着攻め、ハッピーエンド。 *→性的な描写有り、***→性行為の描写有り。 ムーンライトノベルズ、pixivにも投稿しております。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ムーンライトノベルズBL、日間ランキン1位。アルファポリス、BLランキング1位、HOTランキング4位に入った作品です。 「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」 ※第9回BL小説大賞で奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様のおかげですありがとうございます。m(_ _)m

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

処理中です...