上 下
56 / 200

54・寝てから言え

しおりを挟む
「ねえ、スマラクト様」

 場違いに明るい声が、森の方から聞こえた。ハッとしてそっちに目を向ける。ミマだ。小柄さに見合わぬ圧倒的な存在感が、一瞬で全員の目を惹きつける。背後に広がる薄暗い森が、そこだけぱっと明るくなったみたいだ。

「僕、今回はスマラクト様に耀燈輝昇ランプ・アセンシアをお願いしたいなあ。構いませんよね?」
「なっ」
「ええ、もちろんです」

 絶句する俺とは対照的に、スマラクトはあっさりと首を縦に振る。こ、この薄情もの!
 いや、理屈で考えてみればここで断る理由はないのだ。俺がちょっとだけ押し返したとはいえ、スマラクトとミマの親愛度は高いままだし、今回の討伐だってMVPはミマだ。それはわかってる。わかってるんだけどぉ、それでもさぁ……! NTRやんけこんなん~!! 寝てないけど!!

「じゃ、スマラクト様。100ジュエネルです」
「ありがとう。不束者ですが、よろしくお願いしますね……ん……っ」

 スマラクトの胸から、エメラルドで飾られたランプが浮き上がる。そして始まるのは例の手コ……儀式だ。

「……っは、あ……私なんかが、こんな……ああ、温かいっ……!」
「んっ、スマラクト様、すごい……ふふっ♡」

 ミマの視線が、時折こちらに飛んでくる。火照り顔で声を漏らすスマラクトよりも、ミマはむしろ俺の反応を楽しんでいる気がする。ち、ちくしょう、薄々思ってたけど絶対そういう性癖あるだろこの野郎。娘を買われるおとっつぁんの気分だぜ。

「は、っ……うあっ、ミマ……もう、私、は……あっ!!」
「……ふふっ♡ お疲れ様でした、スマラクト様」
「……」

 うわーもう、やなもん見ちまったなぁ。スマラクトは荒い息を落ち着かせるように、目を閉じて一度大きく深呼吸をした。そして再びまぶたを開いたとき、たまたま視線の先にいた俺と目が合う。

(あっ……)

 反射的に目を逸らした。気まずさもあるけれどそれより何より、ミマとのアレを終えたスマラクトが、また俺に冷たい目を向けてたらどうしよう、と思ってしまったからだ。そんな賢者タイムは見たくないのよいろんな意味で。生々しさで心が折れかねない。
 だが。

(……あれ?)

 俺の目に映ったスマラクトは、若干恥ずかしそうにはしていたものの特に今までと変わった様子はなかった。別に俺に対して熱い視線を浴びせるとかはなかったけど、いや他の男に手コかれた直後にそんなことしてたらそれこそどんな性癖だよって話になるけど、とにかく良くも悪くも、スマラクトは普通、だったのだ。

 えっ、これってセーフってこと? 数値を超えた思いの力で生まれた絆がうんたらら? 思わずジルコンの方を振り返る。木陰で左腕を押さえたジルコンが、かすかに笑って俺に頷く。
 自分の顔がぱっとほころぶのが、自分でもわかった。

「やっ……たー!! やーったやった、俺の勝ちー!!」
「……っ」

 手を叩いて飛び上がる俺を、ミマが奥歯を噛み締めて睨む。その顔、その顔が見たかったんだよ俺は! へへぇん、ざっまああ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された

まほりろ
BL
【完結済み】闇属性の兄を救うため、光属性のボクの魔力を全部上げた。魔力かなくなった事を知った父(陛下)に、王子の身分を剥奪され侯爵領に送られた。ボクは兄上を救えたから別にいいんだけど。 なぜか侯爵領まで一緒についてきた兄上に「一緒のベッドで寝たい」と言われ、人恋しいのかな? と思いベッドに招き入れたらベッドに組敷かれてしまって……。 元闇属性の溺愛執着系攻め×元光属性鈍感美少年受け。兄×弟ですが血のつながりはありません。 *→キス程度の描写有り、***→性的な描写有り。 「男性妊娠」タグを追加しました。このタグは後日談のみです。苦手な方は後日談は読まず、本編のみ読んでください。 ※ムーンライトノベルズとアルファポリスにも投稿してます。 ムーンライトノベルズ、日間ランキング1位、週間ランキング1位、月間ランキング2位になった作品です。 アルファポリスBLランキング1位になった作品です。 「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」 ※表紙イラストは「第七回なろうデスゲーム」の商品として、Jam様がイラストを描いてくださいました。製作者の許可を得て表紙イラストとして使わせて頂いております。Jam様ありがとうございます!2023/05/08

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。 第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

Tally marks

あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。 カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。 「関心が無くなりました。別れます。さよなら」 ✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。 ✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。 ✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。 ✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。 ✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません) 🔺ATTENTION🔺 このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。 そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。 そこだけ本当、ご留意ください。 また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい) ➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。 ➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。 ➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。 個人サイトでの連載開始は2016年7月です。 これを加筆修正しながら更新していきます。 ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

処理中です...