54 / 200
52・極彩色のカプリチオ
しおりを挟む
「ジルコン、腕! 腕! 腕が!!」
「……煩い、騒ぐな。俺のことはいいから、戦いに集中しろ」
「いいわけあるかあ!」
大騒ぎはやめないままジルコンの腕を引っ張って、戦陣から離れた場所へ連れて行く。スキアの方はミマさえいればどうにでもなる。それより今はジルコンだ。
「……っ」
「わあ!? い、痛かった!? ごめん!!」
「……痛みはない。感覚もほぼ無いが」
「……!?」
絶望的な一言に目の前が暗くなる。白い軍服に包まれた腕は、重たげに垂れ下がったままぴくりとも動かない。俺のせいだ。俺が無茶したせいで。俺をかばったせいで。
「……そんな顔、しなくていい。深手じゃない。それにお前も知っての通り、耀燈騎士団には医療魔法の天才がいるだろう」
「だって……だけど……!」
「不甲斐なく思うなら、一矢報いてこい。ミマでもスキアでもどっちでもいいから、お前の手でひと泡吹かせてこい」
右手に下げた剣を鞘に納めてから、ジルコンは木立にもたれかかる。眉間には深いしわが刻まれていて、痛みをこらえているのは明白だ。けどジルコンはその状態のまま、ふっと俺に向けて笑って見せた。いつも通りの、不敵な表情で。
ぐっと唾を飲む。後ろをちらりと振り返って、それからまたジルコンの顔を見上げる。
「……わかった。けど無理すんなよ!? 痛かったら手ぇ上げて言うのよ!?」
「阿呆。……行ってこい」
こんなときのジルコンはいつも、俺の背中を押し出すように叩いてくれた。でも今の彼はやられた左腕を、もう片方の手でかばうように押さえたままだ。だったら俺は俺自身で踏み出すしかない。他の誰でもない、自分だけの足で。
流れる曲はそろそろサビに差し掛かろうとしていた。駆け足で陣に戻った俺を、ミマが一瞬横目で見やる。冷ややかな視線だ。怪我したジルコンだってお前のハーレム候補の一人だろうに、そのこと自体は別にどうでもいいらしい。くそ。じゃあやっぱりなおさら、こんなやつに負けてたまるか!
「スマラクト!」
「はい!」
声高に答えたスマラクトの背に手を向けて、飛んできたビッツをひと弾き。ここまでならさっきと同じだ。でもこれからの俺は一味違うぜ!
「次、サフィール!」
「なっ」
呼んだ名前に、隣のミマが明らかに動揺を見せた。サフィール自身も驚いてこちらを振り返る。構わずサフィールの周囲に早々とバリアを張った。二つの驚愕を受け止めてなお、俺はジルコンを真似るように不敵に笑う。
「おらおら、どーしたどーした! 天下の耀燈騎士団様は、戦いに私情を持ち込む軟弱者の集まりかぁ!?」
「……! き、貴様!!」
「こちとら大将やられてんだぞ! お前らいい加減根性見せやがれ!!」
「ぐっ……!」
木陰のジルコンに目をやって、サフィールは悔しげに唇を噛んだ。そのまま何も言わずにスキアへと向き直る。青く輝くバリアに、黒いビッツがぶち当たって砕け散る。っしゃ、判定ギリギリ!!
「次、ルビーノ! アメティスタ!!」
「はっ。言ってくれたな、チュー太郎」
「……ふぅん」
二人の体を、赤と紫のバリアが包む。呆気に取られていたミマも、ハッと両手を構え直した。そこからはもう、バリアの張り合い、奪い合いだ。
「もいっちょスマラクト! 次、ランジン!」
「トパシオ様! ルビーノ様、今です!!」
流れる音楽とビッツの破砕音が、リズムも何もなくめちゃくちゃに混ざり合う。精度全捨ての早押し合戦。音楽としては成り立ったもんじゃない。構うもんか、ここで引くわけにはいかねーんだよ、俺は!
「……煩い、騒ぐな。俺のことはいいから、戦いに集中しろ」
「いいわけあるかあ!」
大騒ぎはやめないままジルコンの腕を引っ張って、戦陣から離れた場所へ連れて行く。スキアの方はミマさえいればどうにでもなる。それより今はジルコンだ。
「……っ」
「わあ!? い、痛かった!? ごめん!!」
「……痛みはない。感覚もほぼ無いが」
「……!?」
絶望的な一言に目の前が暗くなる。白い軍服に包まれた腕は、重たげに垂れ下がったままぴくりとも動かない。俺のせいだ。俺が無茶したせいで。俺をかばったせいで。
「……そんな顔、しなくていい。深手じゃない。それにお前も知っての通り、耀燈騎士団には医療魔法の天才がいるだろう」
「だって……だけど……!」
「不甲斐なく思うなら、一矢報いてこい。ミマでもスキアでもどっちでもいいから、お前の手でひと泡吹かせてこい」
右手に下げた剣を鞘に納めてから、ジルコンは木立にもたれかかる。眉間には深いしわが刻まれていて、痛みをこらえているのは明白だ。けどジルコンはその状態のまま、ふっと俺に向けて笑って見せた。いつも通りの、不敵な表情で。
ぐっと唾を飲む。後ろをちらりと振り返って、それからまたジルコンの顔を見上げる。
「……わかった。けど無理すんなよ!? 痛かったら手ぇ上げて言うのよ!?」
「阿呆。……行ってこい」
こんなときのジルコンはいつも、俺の背中を押し出すように叩いてくれた。でも今の彼はやられた左腕を、もう片方の手でかばうように押さえたままだ。だったら俺は俺自身で踏み出すしかない。他の誰でもない、自分だけの足で。
流れる曲はそろそろサビに差し掛かろうとしていた。駆け足で陣に戻った俺を、ミマが一瞬横目で見やる。冷ややかな視線だ。怪我したジルコンだってお前のハーレム候補の一人だろうに、そのこと自体は別にどうでもいいらしい。くそ。じゃあやっぱりなおさら、こんなやつに負けてたまるか!
「スマラクト!」
「はい!」
声高に答えたスマラクトの背に手を向けて、飛んできたビッツをひと弾き。ここまでならさっきと同じだ。でもこれからの俺は一味違うぜ!
「次、サフィール!」
「なっ」
呼んだ名前に、隣のミマが明らかに動揺を見せた。サフィール自身も驚いてこちらを振り返る。構わずサフィールの周囲に早々とバリアを張った。二つの驚愕を受け止めてなお、俺はジルコンを真似るように不敵に笑う。
「おらおら、どーしたどーした! 天下の耀燈騎士団様は、戦いに私情を持ち込む軟弱者の集まりかぁ!?」
「……! き、貴様!!」
「こちとら大将やられてんだぞ! お前らいい加減根性見せやがれ!!」
「ぐっ……!」
木陰のジルコンに目をやって、サフィールは悔しげに唇を噛んだ。そのまま何も言わずにスキアへと向き直る。青く輝くバリアに、黒いビッツがぶち当たって砕け散る。っしゃ、判定ギリギリ!!
「次、ルビーノ! アメティスタ!!」
「はっ。言ってくれたな、チュー太郎」
「……ふぅん」
二人の体を、赤と紫のバリアが包む。呆気に取られていたミマも、ハッと両手を構え直した。そこからはもう、バリアの張り合い、奪い合いだ。
「もいっちょスマラクト! 次、ランジン!」
「トパシオ様! ルビーノ様、今です!!」
流れる音楽とビッツの破砕音が、リズムも何もなくめちゃくちゃに混ざり合う。精度全捨ての早押し合戦。音楽としては成り立ったもんじゃない。構うもんか、ここで引くわけにはいかねーんだよ、俺は!
1
お気に入りに追加
316
あなたにおすすめの小説
女体化したおっさんの受難
丸井まー(旧:まー)
BL
魔法省に勤めるアルフレッドは部下のコーネリーのトチ狂った魔法に巻き込まれて女の身体になってしまった。魔法をとく方法は出産すること。アルフレッドの元に戻る為のドタバタ騒ぎ。
※おっさんが女体化してます。女体化エロあります。男同士のエロもあります。エロは予告なしです。全53話です。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される
彩
恋愛
いつの間にか異世界に転移してしまった沙紀は森で彷徨っていたところを三人の騎士に助けられ、その騎士団と生活を共にすることとなる。
後半からR18シーンあります。予告はなしです。
公開中の話の誤字脱字修正、多少の改変行っております。ご了承ください。
美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について
いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。
ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎
美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる