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52・極彩色のカプリチオ

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「ジルコン、腕! 腕! 腕が!!」
「……煩い、騒ぐな。俺のことはいいから、戦いに集中しろ」
「いいわけあるかあ!」

 大騒ぎはやめないままジルコンの腕を引っ張って、戦陣から離れた場所へ連れて行く。スキアの方はミマさえいればどうにでもなる。それより今はジルコンだ。

「……っ」
「わあ!? い、痛かった!? ごめん!!」
「……痛みはない。感覚もほぼ無いが」
「……!?」

 絶望的な一言に目の前が暗くなる。白い軍服に包まれた腕は、重たげに垂れ下がったままぴくりとも動かない。俺のせいだ。俺が無茶したせいで。俺をかばったせいで。

「……そんな顔、しなくていい。深手じゃない。それにお前も知っての通り、耀燈騎士団うちには医療魔法の天才がいるだろう」
「だって……だけど……!」
「不甲斐なく思うなら、一矢報いてこい。ミマでもスキアでもどっちでもいいから、お前の手でひと泡吹かせてこい」

 右手に下げた剣を鞘に納めてから、ジルコンは木立にもたれかかる。眉間には深いしわが刻まれていて、痛みをこらえているのは明白だ。けどジルコンはその状態のまま、ふっと俺に向けて笑って見せた。いつも通りの、不敵な表情で。
 ぐっと唾を飲む。後ろをちらりと振り返って、それからまたジルコンの顔を見上げる。

「……わかった。けど無理すんなよ!? 痛かったら手ぇ上げて言うのよ!?」
「阿呆。……行ってこい」

 こんなときのジルコンはいつも、俺の背中を押し出すように叩いてくれた。でも今の彼はやられた左腕を、もう片方の手でかばうように押さえたままだ。だったら俺は俺自身で踏み出すしかない。他の誰でもない、自分だけの足で。



 流れる曲はそろそろサビに差し掛かろうとしていた。駆け足で陣に戻った俺を、ミマが一瞬横目で見やる。冷ややかな視線だ。怪我したジルコンだってお前のハーレム候補の一人だろうに、そのこと自体は別にどうでもいいらしい。くそ。じゃあやっぱりなおさら、こんなやつに負けてたまるか!

「スマラクト!」
「はい!」

 声高に答えたスマラクトの背に手を向けて、飛んできたビッツをひと弾き。ここまでならさっきと同じだ。でもこれからの俺は一味違うぜ!

「次、サフィール!」
「なっ」

 呼んだ名前に、隣のミマが明らかに動揺を見せた。サフィール自身も驚いてこちらを振り返る。構わずサフィールの周囲に早々とバリアを張った。二つの驚愕を受け止めてなお、俺はジルコンを真似るように不敵に笑う。

「おらおら、どーしたどーした! 天下の耀燈騎士団様は、戦いに私情を持ち込む軟弱者の集まりかぁ!?」
「……! き、貴様!!」
「こちとら大将やられてんだぞ! お前らいい加減根性見せやがれ!!」
「ぐっ……!」

 木陰のジルコンに目をやって、サフィールは悔しげに唇を噛んだ。そのまま何も言わずにスキアへと向き直る。青く輝くバリアに、黒いビッツがぶち当たって砕け散る。っしゃ、判定ギリギリ!!

「次、ルビーノ! アメティスタ!!」
「はっ。言ってくれたな、チュー太郎」
「……ふぅん」

 二人の体を、赤と紫のバリアが包む。呆気に取られていたミマも、ハッと両手を構え直した。そこからはもう、バリアの張り合い、奪い合いだ。

「もいっちょスマラクト! 次、ランジン!」
「トパシオ様! ルビーノ様、今です!!」

 流れる音楽とビッツの破砕音が、リズムも何もなくめちゃくちゃに混ざり合う。精度全捨ての早押し合戦。音楽としては成り立ったもんじゃない。構うもんか、ここで引くわけにはいかねーんだよ、俺は!
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