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49・お野菜たっぷりマクロビディナー
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「少し、不味いかもな」
「ん?」
いつも通りミマ不在の夕食の席で、椅子の斜め後ろに立つジルコンが唐突に呟いた。テーブルに並んだ夕食に目を向ける。メカジキのバターソテーと、揚げたレンコンが乗ったサラダと、ニンジンやブロッコリーがごろごろ入ったミネストローネ。いつもながら彩りも味も栄養面も完璧だ。不味いことなんかなんもなかったけど。
「いや、美味いけど?」
「阿呆か。俺の飯が美味いのは当たり前だ」
「わあ、自画自賛ー」
呆れた顔で言い切られてしまった。でも豪語するだけの実力はあるんだよな、こいつの場合。ムカつくわー。
「そうじゃない。明日からの話だ」
「あ、なーんだ。……え?」
「お前とスマラクトの親愛度が急激に上昇しているのは、当然ミマも気が付いているはずだ。何らかの手を打ってくるのは確実だろうな」
「うぇ……」
手にしたスプーンを取り落としかける。いや、あれは俺がちょっかいかけようとしたわけじゃなく、俺にとっても予想外の事態で……なんて言い訳、ミマには通用するわけもないだろう。
「やだなー……また親愛度塗り変えられちゃうのかよ」
「否定の余地はないな。事によれば向こうも恋愛イベントを進めてくるかもしれない。一進一退と言えばそれまでだが……ともかく明日の討伐に向けて、できる限りの気構えはしておけよ」
「ううう……」
唸り声を上げつつ、メカジキの切れ端を口に放り込む。食欲をそそるバターの香りが、なんだか急に重たい。数値を超えた想いの力とやらでどうにかできないんだろうか。無理だよなあ。課金アイテムがそんな曖昧なもんに負けたら俺だって怒るよ。返金騒動勃発不可避。
「気構え、ってのはつまり、こないだみたいにみんなにハブられるかもって話だよな」
「そうだな。そもそもスマラクト以外の親愛度は今も底辺のままだ。態度を変える理由もない」
「なんだよー……つーかさー、向こうの親愛度が上がったからって、俺との仲が下がんのおかしくない? なに、お前ら全員彼女できたとたん友達付き合い悪くなるタイプのソレですか?」
我ながら真っ当な俺のツッコミに、しかしジルコンはジト目で息を吐く。
「ハーレムがどうとか言ってた人間が何を抜かすか。お前ら灯士どもの親愛は、友情と呼ぶには邪すぎるだろうが」
「うっ……それ言われたらなんも言えねーけど。でも少なくとも俺はまだ、今はそんな下心見せてるつもりもないですけどー……」
ぶーたれながらもフォークを動かす手は止めない。あ、このレンコンうま。ドレッシングが醤油っぽい風味でイイネ。
「まあ、お前の言い分にも確かに一理はある。ゲームの仕様として俺たちは、親愛度の上下に従って生まれる好感もしくは嫌悪感に抗えない存在だからな」
「ええ……マジで呪いじゃん、そんなん……」
引くとともにちょっと同情してしまった。ハイスぺキラキラ騎士サマたち、実はかわいそうな生き物なのかもしれない。
「あー、でも、そしたら、俺がこんな冷たくされてるのって、つまりはこの世界における自然の摂理みたいなもんなんだな。俺がなんかやらかしたせいとか、ミマがなんか吹き込んだせいとか、そんなんじゃないんだな」
「そういうことだ」
「よかったぁ、いやマジそれは聞けてよかった」
ちょっとだけ心が軽くなる。俺の知らないとこでミマが俺の陰口叩いて、さらに周りみんなそれを信じてるみたいな仕様だったら、さすがの俺も心が折れてたよ。
「……あれ。そしたらつまり逆に、俺がミマの悪い噂を吹き込む余地はあるってことじゃね?」
「……お前……」
「じょ、冗談、冗談やがな」
片手を振ってごまかした。ジルコンは信じられないものを見る目で俺を見ている。な、なんだよ、マジで冗談だって。……やらないよ。マジで。
「ん?」
いつも通りミマ不在の夕食の席で、椅子の斜め後ろに立つジルコンが唐突に呟いた。テーブルに並んだ夕食に目を向ける。メカジキのバターソテーと、揚げたレンコンが乗ったサラダと、ニンジンやブロッコリーがごろごろ入ったミネストローネ。いつもながら彩りも味も栄養面も完璧だ。不味いことなんかなんもなかったけど。
「いや、美味いけど?」
「阿呆か。俺の飯が美味いのは当たり前だ」
「わあ、自画自賛ー」
呆れた顔で言い切られてしまった。でも豪語するだけの実力はあるんだよな、こいつの場合。ムカつくわー。
「そうじゃない。明日からの話だ」
「あ、なーんだ。……え?」
「お前とスマラクトの親愛度が急激に上昇しているのは、当然ミマも気が付いているはずだ。何らかの手を打ってくるのは確実だろうな」
「うぇ……」
手にしたスプーンを取り落としかける。いや、あれは俺がちょっかいかけようとしたわけじゃなく、俺にとっても予想外の事態で……なんて言い訳、ミマには通用するわけもないだろう。
「やだなー……また親愛度塗り変えられちゃうのかよ」
「否定の余地はないな。事によれば向こうも恋愛イベントを進めてくるかもしれない。一進一退と言えばそれまでだが……ともかく明日の討伐に向けて、できる限りの気構えはしておけよ」
「ううう……」
唸り声を上げつつ、メカジキの切れ端を口に放り込む。食欲をそそるバターの香りが、なんだか急に重たい。数値を超えた想いの力とやらでどうにかできないんだろうか。無理だよなあ。課金アイテムがそんな曖昧なもんに負けたら俺だって怒るよ。返金騒動勃発不可避。
「気構え、ってのはつまり、こないだみたいにみんなにハブられるかもって話だよな」
「そうだな。そもそもスマラクト以外の親愛度は今も底辺のままだ。態度を変える理由もない」
「なんだよー……つーかさー、向こうの親愛度が上がったからって、俺との仲が下がんのおかしくない? なに、お前ら全員彼女できたとたん友達付き合い悪くなるタイプのソレですか?」
我ながら真っ当な俺のツッコミに、しかしジルコンはジト目で息を吐く。
「ハーレムがどうとか言ってた人間が何を抜かすか。お前ら灯士どもの親愛は、友情と呼ぶには邪すぎるだろうが」
「うっ……それ言われたらなんも言えねーけど。でも少なくとも俺はまだ、今はそんな下心見せてるつもりもないですけどー……」
ぶーたれながらもフォークを動かす手は止めない。あ、このレンコンうま。ドレッシングが醤油っぽい風味でイイネ。
「まあ、お前の言い分にも確かに一理はある。ゲームの仕様として俺たちは、親愛度の上下に従って生まれる好感もしくは嫌悪感に抗えない存在だからな」
「ええ……マジで呪いじゃん、そんなん……」
引くとともにちょっと同情してしまった。ハイスぺキラキラ騎士サマたち、実はかわいそうな生き物なのかもしれない。
「あー、でも、そしたら、俺がこんな冷たくされてるのって、つまりはこの世界における自然の摂理みたいなもんなんだな。俺がなんかやらかしたせいとか、ミマがなんか吹き込んだせいとか、そんなんじゃないんだな」
「そういうことだ」
「よかったぁ、いやマジそれは聞けてよかった」
ちょっとだけ心が軽くなる。俺の知らないとこでミマが俺の陰口叩いて、さらに周りみんなそれを信じてるみたいな仕様だったら、さすがの俺も心が折れてたよ。
「……あれ。そしたらつまり逆に、俺がミマの悪い噂を吹き込む余地はあるってことじゃね?」
「……お前……」
「じょ、冗談、冗談やがな」
片手を振ってごまかした。ジルコンは信じられないものを見る目で俺を見ている。な、なんだよ、マジで冗談だって。……やらないよ。マジで。
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