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「さて。……それでは」
ひとしきり俺の頬をいじめ終わったあと、ジルコンの声が不意にトーンを変えた。険のある感じが取れた柔らかい声色は、俺が知っているジルコン(執事エディション)のものだ。
「チュー太郎様。次週のスケジュールをお決めください」
深々と頭を下げるジルコン。この一週間で見慣れたはずのポーズに、しかし俺の表情は自然と歪む。
「うっわ、白々しい……っていうかもはや今となってはキモい」
「……ハッ。つくづく悪態だけはいっちょ前だな」
「痛い痛い! だから世界一の硬度やめろ!!」
俺の悪態にジルコンは即座に頭を上げて、元の傲慢王子モードに戻ってしまった。この野郎。貫けよキャラを。
「いいから早くパートナーを決めろ。早くしないと強制的にミマとの対決イベントをぶち込むぞ」
「待って待ってやめて、うーん、うぅーん……」
空を睨んでしばし考える。できれば優しそうな奴がいいな。あんまり冷たくされたら心が折れそうだ。となると、行けそうなのは……
「……緑のやつ。スマラクトで」
「ほう。何故」
「だってあいつネガティブキャラっぽいし……もしなんか俺がやらかしたとしても、俺に当たるより自分を責める方に行くかなって」
「お前……」
「しょ、しょうがねえだろ! 今の俺はダメコン重視で行かなきゃカス当たりで死ぬんだよ!」
自分でもひっでえ理由だとは思うけど、俺は俺自身の心を守らなきゃいけないんだ。唯一の味方ですらこんなんだし。その冷血野郎は呆れた顔を隠しもせずに、枕元に置いていた案内板を勝手に手に取った。
「あ! 俺の案内板!」
「借りるぞ。いちいち部屋に戻るのも面倒だ」
「ヤダちょっと勝手に見ないで! ネット端末は個人情報の塊ですわよ!?」
「言っておくが、この案内板は俺の部屋にある端末と繋がっているからな」
「え!?」
初耳なんですけど。え、もしかして今週ネットで見たアレとかコレとかも把握されてたってこと? マジで!?
「もうやだこのコンプラガン無視王子!! そろそろプライバシーって概念を身につけて!?」
「贅沢を抜かすな。そもそも案内板も灯士寮も、お前に貸与しているのは他ならぬこの俺だぞ」
「お前じゃなくて運営だろうがよぉー! あーヤダこの王子様ったら、自らの特権が恵まれた境遇の賜物だと気づいてらっしゃらないタイプです!?」
「……」
ジルコンは心底嫌そうな目で、足をばたつかせて騒ぐ俺を冷たく見下ろした。ちょっとだけ腰が引ける。だが例のダイヤナックルは一向に飛んでこない。およ、珍しい。
「ナニ、図星? もしかして痛いとこ突いちゃいました?」
「何がだ。子ネズミの戯言にいちいち相手をしてちゃ、こっちの精神が持たん」
「誰が子ネズミだゴルァ!!」
「スケジュールが確定したぞ。明日からも逃げずに励むように」
「あっ、てめっ!」
ぞんざいに投げられた案内板に慌てて飛びつく。こ、こいつ! 俺の大事なインターネットちゃんを!!
顔を上げてキッと睨んだ先、ジルコンはさっさと部屋を去ろうとしている。だがドアに手をかける直前、ふとこちらを振り返って笑顔を見せた。
「では、チュー太郎様。明日に備えて、今夜はごゆっくりおやすみくださいませ。……ククッ」
「~~~~~~ッ!!!」
思わず投げつけた枕は、閉じたドアに阻まれて地に落ちる。腹立つ!! 煽り行為!! 通報はどっからすればいいんだ!!
「……通報」
あ。そうか。その手があったか。そうだ、俺には有力な対抗手段があるじゃないか。
案内板を手に取ってネットにつなぐ。いくつかのリンクをたどって、表示させたのはスマホアプリ用のダウンロードストア……の中の、このゲーム、宝石騎士のレビューページだ。5段階評価のうち☆1を選んで、コメント入力フォームをタップする。さてと。
『☆1。キャラクターの言動が酷すぎます。令和のゲームとは思えないくらいのコンプラ無視発言連発で、トキメキも何もあったもんじゃありません。特にキービジュど真ん中のダイヤモンドモチーフキャラ、こいつが最悪、鬼畜、超不愉快。ネタバレになりますがこの王子……』
そこまで書いたところで、バタンとドアが開いた。びくんと肩を揺らして目を向ける。去っていったはずのジルコンが、真顔より怖い笑顔でずんずんと寄ってくる。
「忘れたか? この端末は俺の部屋と繋がっていると言っただろう」
「痛い痛い痛い! け、検閲! 横暴! ディストピアァーッッ!!」
俺の上げた悲鳴は、分厚い石の壁に阻まれて夜の闇に消えた。
ひとしきり俺の頬をいじめ終わったあと、ジルコンの声が不意にトーンを変えた。険のある感じが取れた柔らかい声色は、俺が知っているジルコン(執事エディション)のものだ。
「チュー太郎様。次週のスケジュールをお決めください」
深々と頭を下げるジルコン。この一週間で見慣れたはずのポーズに、しかし俺の表情は自然と歪む。
「うっわ、白々しい……っていうかもはや今となってはキモい」
「……ハッ。つくづく悪態だけはいっちょ前だな」
「痛い痛い! だから世界一の硬度やめろ!!」
俺の悪態にジルコンは即座に頭を上げて、元の傲慢王子モードに戻ってしまった。この野郎。貫けよキャラを。
「いいから早くパートナーを決めろ。早くしないと強制的にミマとの対決イベントをぶち込むぞ」
「待って待ってやめて、うーん、うぅーん……」
空を睨んでしばし考える。できれば優しそうな奴がいいな。あんまり冷たくされたら心が折れそうだ。となると、行けそうなのは……
「……緑のやつ。スマラクトで」
「ほう。何故」
「だってあいつネガティブキャラっぽいし……もしなんか俺がやらかしたとしても、俺に当たるより自分を責める方に行くかなって」
「お前……」
「しょ、しょうがねえだろ! 今の俺はダメコン重視で行かなきゃカス当たりで死ぬんだよ!」
自分でもひっでえ理由だとは思うけど、俺は俺自身の心を守らなきゃいけないんだ。唯一の味方ですらこんなんだし。その冷血野郎は呆れた顔を隠しもせずに、枕元に置いていた案内板を勝手に手に取った。
「あ! 俺の案内板!」
「借りるぞ。いちいち部屋に戻るのも面倒だ」
「ヤダちょっと勝手に見ないで! ネット端末は個人情報の塊ですわよ!?」
「言っておくが、この案内板は俺の部屋にある端末と繋がっているからな」
「え!?」
初耳なんですけど。え、もしかして今週ネットで見たアレとかコレとかも把握されてたってこと? マジで!?
「もうやだこのコンプラガン無視王子!! そろそろプライバシーって概念を身につけて!?」
「贅沢を抜かすな。そもそも案内板も灯士寮も、お前に貸与しているのは他ならぬこの俺だぞ」
「お前じゃなくて運営だろうがよぉー! あーヤダこの王子様ったら、自らの特権が恵まれた境遇の賜物だと気づいてらっしゃらないタイプです!?」
「……」
ジルコンは心底嫌そうな目で、足をばたつかせて騒ぐ俺を冷たく見下ろした。ちょっとだけ腰が引ける。だが例のダイヤナックルは一向に飛んでこない。およ、珍しい。
「ナニ、図星? もしかして痛いとこ突いちゃいました?」
「何がだ。子ネズミの戯言にいちいち相手をしてちゃ、こっちの精神が持たん」
「誰が子ネズミだゴルァ!!」
「スケジュールが確定したぞ。明日からも逃げずに励むように」
「あっ、てめっ!」
ぞんざいに投げられた案内板に慌てて飛びつく。こ、こいつ! 俺の大事なインターネットちゃんを!!
顔を上げてキッと睨んだ先、ジルコンはさっさと部屋を去ろうとしている。だがドアに手をかける直前、ふとこちらを振り返って笑顔を見せた。
「では、チュー太郎様。明日に備えて、今夜はごゆっくりおやすみくださいませ。……ククッ」
「~~~~~~ッ!!!」
思わず投げつけた枕は、閉じたドアに阻まれて地に落ちる。腹立つ!! 煽り行為!! 通報はどっからすればいいんだ!!
「……通報」
あ。そうか。その手があったか。そうだ、俺には有力な対抗手段があるじゃないか。
案内板を手に取ってネットにつなぐ。いくつかのリンクをたどって、表示させたのはスマホアプリ用のダウンロードストア……の中の、このゲーム、宝石騎士のレビューページだ。5段階評価のうち☆1を選んで、コメント入力フォームをタップする。さてと。
『☆1。キャラクターの言動が酷すぎます。令和のゲームとは思えないくらいのコンプラ無視発言連発で、トキメキも何もあったもんじゃありません。特にキービジュど真ん中のダイヤモンドモチーフキャラ、こいつが最悪、鬼畜、超不愉快。ネタバレになりますがこの王子……』
そこまで書いたところで、バタンとドアが開いた。びくんと肩を揺らして目を向ける。去っていったはずのジルコンが、真顔より怖い笑顔でずんずんと寄ってくる。
「忘れたか? この端末は俺の部屋と繋がっていると言っただろう」
「痛い痛い痛い! け、検閲! 横暴! ディストピアァーッッ!!」
俺の上げた悲鳴は、分厚い石の壁に阻まれて夜の闇に消えた。
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