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30・ハイ、課金石〜
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町のどこをどう歩いたのかもわからないまま、よれよれと寮に帰り着いて。
玄関の扉を開けるのには、少し迷った。中にはミマがいるかもしれない。構造的に鉢合わせることはそうそうないだろうけど。なんだか自分の家の中に、異物が紛れ込んでいることに気づいてしまった気分だ。もっともあいつに言わせれば、俺の方こそが異物だってことになるんだろうけど。ちくしょう。
重い玄関ドアを、ほんの少しだけ開けて様子を伺った。目に入る位置に、ミマはいない。よかった。なるべく音を立てないようにドアを押し、小さな声でただいま、と呟く。と、ぱたぱたと足音が近づいてきて、食堂のドアからジルコンが顔を出した。
「お帰りなさいませ、チュー太郎様」
「ジルコン……」
「なかなかお帰りにならなかったので、心配しておりました。どうかなさったのですか」
「……う」
久方ぶりの優しさに、不覚にも涙が滲みそうになる。信じていいんだろうか。やっぱりこいつは俺の味方だって、それだけは信じてもいいんだろうか。
理性が引き留めるより先に、足が勝手に駆け出していた。声が勝手に、溢れ出していた。
「うわあぁん、ジルえもんジルえもんジルえもおぉん!! ミマゴリラが僕のこといじめるんだよおおお!!!」
「ジルえもん」
泣き喚いてジルコンの胸板にすがりつく。結構な勢いで抱きついたのに、彼はびくともせずに俺を受け止めてくれた。まあ、受け止めはしても別に抱きしめとかは発生しなかったんだけど。
「ひどいんだよあいつら! ねえジルえもん、頼むよ、あいつらをギャフンと言わせる道具出してよおぉ!!」
「道具……と言われましても。十連ガチャチケット付きのお得なジュエネルパックなら、月2回限定4980円(消費税込)で販売しておりますが」
「結局お前も金かよおおお!!!」
血も涙もないジルコンの返しに、突き飛ばすような勢いで飛び退いた。それでもジルコンはその場から一歩たりと動かない。そういやこいつも一応軍人だ。付け焼刃の筋トレじゃ太刀打ちできないのは当たり前だけど、今の俺にはその事実すらカンに障る。全部無駄かよ、俺の一週間!
「あーあーあー、どいつもこいつもカネカネカネ! 人の心が無いプログラムは融通が利かないったらねーぜ!! はあーあ、とんだクソゲーに転生しちまった件についてー!!」
「……申し訳ございません」
部屋の前で靴を脱ぎ捨てながら、当てつけがましくわめき散らす俺に、ジルコンはいつもの執事ポーズで頭を下げた。深く腰を折るその直前、彼の口端がほんの少し引きつったような気がしないでもないけれど、どうだっていい。どうせこいつも内心俺を嫌ってんだろ。今さらちょっとマイナスが増えたとこでなんだってんだ。へっ。
「寝る!!」
「ご夕食は」
「いい!!」
反抗期の中学生みたいに、バンッと音を立ててドアを閉める。そのまま扉に背を預け、ずるずると崩れ落ちて膝を抱えた。ちくしょー。ちくしょー、ちくしょーちくしょー! やっぱこうなんのかよ、俺の人生! あんな性悪ぶりっ子に金の力で蹂躙されて、ひとりぼっちの人生送るのが関の山ってか!? ふざけんな!! 俺は認めねーからな!!
などと心の中で怒鳴ったところで、打開策なんて見つけられない。だからこそ余計に、やり場のない悔しさで泣きそうになりながら、俺はただただ部屋の隅で膝を抱え続けていた。
当然──この後起きるさらなる驚天動地のことなど、知るよしもないままで。
玄関の扉を開けるのには、少し迷った。中にはミマがいるかもしれない。構造的に鉢合わせることはそうそうないだろうけど。なんだか自分の家の中に、異物が紛れ込んでいることに気づいてしまった気分だ。もっともあいつに言わせれば、俺の方こそが異物だってことになるんだろうけど。ちくしょう。
重い玄関ドアを、ほんの少しだけ開けて様子を伺った。目に入る位置に、ミマはいない。よかった。なるべく音を立てないようにドアを押し、小さな声でただいま、と呟く。と、ぱたぱたと足音が近づいてきて、食堂のドアからジルコンが顔を出した。
「お帰りなさいませ、チュー太郎様」
「ジルコン……」
「なかなかお帰りにならなかったので、心配しておりました。どうかなさったのですか」
「……う」
久方ぶりの優しさに、不覚にも涙が滲みそうになる。信じていいんだろうか。やっぱりこいつは俺の味方だって、それだけは信じてもいいんだろうか。
理性が引き留めるより先に、足が勝手に駆け出していた。声が勝手に、溢れ出していた。
「うわあぁん、ジルえもんジルえもんジルえもおぉん!! ミマゴリラが僕のこといじめるんだよおおお!!!」
「ジルえもん」
泣き喚いてジルコンの胸板にすがりつく。結構な勢いで抱きついたのに、彼はびくともせずに俺を受け止めてくれた。まあ、受け止めはしても別に抱きしめとかは発生しなかったんだけど。
「ひどいんだよあいつら! ねえジルえもん、頼むよ、あいつらをギャフンと言わせる道具出してよおぉ!!」
「道具……と言われましても。十連ガチャチケット付きのお得なジュエネルパックなら、月2回限定4980円(消費税込)で販売しておりますが」
「結局お前も金かよおおお!!!」
血も涙もないジルコンの返しに、突き飛ばすような勢いで飛び退いた。それでもジルコンはその場から一歩たりと動かない。そういやこいつも一応軍人だ。付け焼刃の筋トレじゃ太刀打ちできないのは当たり前だけど、今の俺にはその事実すらカンに障る。全部無駄かよ、俺の一週間!
「あーあーあー、どいつもこいつもカネカネカネ! 人の心が無いプログラムは融通が利かないったらねーぜ!! はあーあ、とんだクソゲーに転生しちまった件についてー!!」
「……申し訳ございません」
部屋の前で靴を脱ぎ捨てながら、当てつけがましくわめき散らす俺に、ジルコンはいつもの執事ポーズで頭を下げた。深く腰を折るその直前、彼の口端がほんの少し引きつったような気がしないでもないけれど、どうだっていい。どうせこいつも内心俺を嫌ってんだろ。今さらちょっとマイナスが増えたとこでなんだってんだ。へっ。
「寝る!!」
「ご夕食は」
「いい!!」
反抗期の中学生みたいに、バンッと音を立ててドアを閉める。そのまま扉に背を預け、ずるずると崩れ落ちて膝を抱えた。ちくしょー。ちくしょー、ちくしょーちくしょー! やっぱこうなんのかよ、俺の人生! あんな性悪ぶりっ子に金の力で蹂躙されて、ひとりぼっちの人生送るのが関の山ってか!? ふざけんな!! 俺は認めねーからな!!
などと心の中で怒鳴ったところで、打開策なんて見つけられない。だからこそ余計に、やり場のない悔しさで泣きそうになりながら、俺はただただ部屋の隅で膝を抱え続けていた。
当然──この後起きるさらなる驚天動地のことなど、知るよしもないままで。
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