21 / 200
19・修業コーデは抜け感シックなぬののふくで
しおりを挟む
部屋で湯を沸かして、濡れタオルでざっと汗だけ拭いて、それから身支度を整える。着古したTシャツ&ジャージともようやくおさらばだ。今となっては貴重な現代の名残り、洗濯して大事に取っておくことにしよう。いつかキーアイテムになるかもしれない。伝説の勇者の装備として後世に伝わっちゃったりなんかして。
代わりに支給されたのは、ゆったりした灰色の綿ズボンと、首元がばってん形の革紐で閉じられてるシャツだ。腰のあたりにも革のベルトがついていて、それでズボンを締めるようになっている。着る人が着ればかっこいいんだろうけど、俺が着ると農民その1って感じしかしない。
「お支度はお済みですか」
「おー」
「では、演習場へ向かいましょう」
ジルコンが頭を下げると、またしてもおなじみのワープが入る。これめっちゃ便利だけど、やっぱたまには自分の足で行った方がいいよなあ。地理全然把握できてねーもん。
演習場には、既にルビーノが待機していた。昨日と同じ、赤を基調にした軍服姿だが、マントやら勲章やらじゃらじゃらした飾り紐やらは取っ払われて、昨日よりはだいぶ動きやすそうな格好になっている。
「来たな、灯士様」
俺を目にしたルビーノが、木刀を片手に歩み寄ってきた。
「灯士様の第一歩たる初演習の相手に、オレを選んでくれて光栄だぜ」
「あ、はは、どーも」
差し出された手を、無意味にへこへこしながら握り返す。しかし、改めてでけーなあ、こいつ。ジルコンも俺より頭半分ぐらいは高いけど、こいつはそのジルコンより更に長身だ。横幅的には筋骨隆々って風にも見えないけど、この身長から見下ろされるとそれだけで大迫力だ。
「ではルビーノ。手筈通りに頼む」
「ん? ああ、ジルコン。なんだ、お前も来たのか」
「お前の言う通り、大事な灯士様の第一歩だからな。灯士様方のコンシェルジュとして、見届けねばなるまい」
「はは、そうだったな。コンシェルジュ、ね」
「……頼むぞ、ルビーノ」
「わかったわかった。灯士様はこのオレが立派に鍛え上げてみせるから、安心して執事業に励んでくれ」
ルビーノは余裕綽々の表情で、しっしっとジルコンを追い払う。ジルコンは何か言いたげな渋面をしていたが、結局無言のまま俺に頭を下げた。
城門方面へと向かうジルコンの背が見えなくなってから、ルビーノに聞いてみる。
「なんか……タメ口なんだな、あんたら」
「ん? ああ。昔からの馴染みなんでな」
「え、騎士サマたちってそうなの?」
「いや、子供の頃から付き合いがあるのはオレとジルコン、それにサフィールだけだ。他の連中も、顔と名前くらいなら知ってはいたが」
「へえー」
幼なじみかー。貴族間のつながりとかそういうやつかな。なんかちょっといいな。世に言うトートイ設定、ってやつか。
「そんなことより」
ルビーノの、金色の瞳がきらりと光った。反射的に体がすくむ。肉食獣っぽくてちょっとこわい。
「戦場で死なないために、日々に備える。備えるためには、鍛え上げる。それがオレのモットーだ。いかに灯士様相手といえど容赦はしないぜ。覚悟はできてるか?」
「あ……あはは、お手柔らかに……」
引きつり笑いを浮かべつつ、とは言え俺は内心たかをくくっていた。どうせ訓練っつったって、音ゲー練習か例のワープで終わるやつだろ。ゲームシステム的に走るとか戦うとかないじゃん。ないよな。ないよな?
「ではまず、オマエの体力を測らせてもらおうか。そうだな、まずはウォーミングアップとして腕立て30回!」
「……え? お、おー……」
結局。
両手両足を地に着いて、腕立ての姿勢を取らされてもなお、システムを信じて余裕ぶっこいていた俺は。
ルビーノが放った開始の号令と同時に、残酷な現実を思い知らされることになる。
「ア゛ァ゛ーッ!! 無理むりむぃむいい!! もうむーりいぃ!!!」
「はっはっは、おいおい、嘘だろ? ……嘘だろ?」
チュー太郎=ブラスワークス。
訓練初日、腕立て15回で再起不能。
代わりに支給されたのは、ゆったりした灰色の綿ズボンと、首元がばってん形の革紐で閉じられてるシャツだ。腰のあたりにも革のベルトがついていて、それでズボンを締めるようになっている。着る人が着ればかっこいいんだろうけど、俺が着ると農民その1って感じしかしない。
「お支度はお済みですか」
「おー」
「では、演習場へ向かいましょう」
ジルコンが頭を下げると、またしてもおなじみのワープが入る。これめっちゃ便利だけど、やっぱたまには自分の足で行った方がいいよなあ。地理全然把握できてねーもん。
演習場には、既にルビーノが待機していた。昨日と同じ、赤を基調にした軍服姿だが、マントやら勲章やらじゃらじゃらした飾り紐やらは取っ払われて、昨日よりはだいぶ動きやすそうな格好になっている。
「来たな、灯士様」
俺を目にしたルビーノが、木刀を片手に歩み寄ってきた。
「灯士様の第一歩たる初演習の相手に、オレを選んでくれて光栄だぜ」
「あ、はは、どーも」
差し出された手を、無意味にへこへこしながら握り返す。しかし、改めてでけーなあ、こいつ。ジルコンも俺より頭半分ぐらいは高いけど、こいつはそのジルコンより更に長身だ。横幅的には筋骨隆々って風にも見えないけど、この身長から見下ろされるとそれだけで大迫力だ。
「ではルビーノ。手筈通りに頼む」
「ん? ああ、ジルコン。なんだ、お前も来たのか」
「お前の言う通り、大事な灯士様の第一歩だからな。灯士様方のコンシェルジュとして、見届けねばなるまい」
「はは、そうだったな。コンシェルジュ、ね」
「……頼むぞ、ルビーノ」
「わかったわかった。灯士様はこのオレが立派に鍛え上げてみせるから、安心して執事業に励んでくれ」
ルビーノは余裕綽々の表情で、しっしっとジルコンを追い払う。ジルコンは何か言いたげな渋面をしていたが、結局無言のまま俺に頭を下げた。
城門方面へと向かうジルコンの背が見えなくなってから、ルビーノに聞いてみる。
「なんか……タメ口なんだな、あんたら」
「ん? ああ。昔からの馴染みなんでな」
「え、騎士サマたちってそうなの?」
「いや、子供の頃から付き合いがあるのはオレとジルコン、それにサフィールだけだ。他の連中も、顔と名前くらいなら知ってはいたが」
「へえー」
幼なじみかー。貴族間のつながりとかそういうやつかな。なんかちょっといいな。世に言うトートイ設定、ってやつか。
「そんなことより」
ルビーノの、金色の瞳がきらりと光った。反射的に体がすくむ。肉食獣っぽくてちょっとこわい。
「戦場で死なないために、日々に備える。備えるためには、鍛え上げる。それがオレのモットーだ。いかに灯士様相手といえど容赦はしないぜ。覚悟はできてるか?」
「あ……あはは、お手柔らかに……」
引きつり笑いを浮かべつつ、とは言え俺は内心たかをくくっていた。どうせ訓練っつったって、音ゲー練習か例のワープで終わるやつだろ。ゲームシステム的に走るとか戦うとかないじゃん。ないよな。ないよな?
「ではまず、オマエの体力を測らせてもらおうか。そうだな、まずはウォーミングアップとして腕立て30回!」
「……え? お、おー……」
結局。
両手両足を地に着いて、腕立ての姿勢を取らされてもなお、システムを信じて余裕ぶっこいていた俺は。
ルビーノが放った開始の号令と同時に、残酷な現実を思い知らされることになる。
「ア゛ァ゛ーッ!! 無理むりむぃむいい!! もうむーりいぃ!!!」
「はっはっは、おいおい、嘘だろ? ……嘘だろ?」
チュー太郎=ブラスワークス。
訓練初日、腕立て15回で再起不能。
1
お気に入りに追加
324
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
【BL】【完結】序盤で殺される悪役王子だと気づいたので、全力でフラグを壊します!
まほりろ
BL
【完結】自分がゲームの序盤で殺される悪役王子だと気づいた主人公が破滅フラグを壊そうと奮闘するお話。
破滅フラグを折ろうと頑張っていたら未来の勇者に惚れられてショタ同士でキスすることになったり。
主人公の愛人になりたいといういとこのフリード公子に素またされたり。エッチな目に会いながらも国を救おうと奮闘する正義感の強い悪役王子様の物語。
ショタエロ有り、Rシーンはぬるいです。
*→キス程度の描写有り
***→性的な描写有り
他サイトにもアップしています。
過去作を転載しました。
全34話、全84000文字。ハッピーエンド。
「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された
まほりろ
BL
【完結済み】闇属性の兄を救うため、光属性のボクの魔力を全部上げた。魔力かなくなった事を知った父(陛下)に、王子の身分を剥奪され侯爵領に送られた。ボクは兄上を救えたから別にいいんだけど。
なぜか侯爵領まで一緒についてきた兄上に「一緒のベッドで寝たい」と言われ、人恋しいのかな? と思いベッドに招き入れたらベッドに組敷かれてしまって……。
元闇属性の溺愛執着系攻め×元光属性鈍感美少年受け。兄×弟ですが血のつながりはありません。
*→キス程度の描写有り、***→性的な描写有り。
「男性妊娠」タグを追加しました。このタグは後日談のみです。苦手な方は後日談は読まず、本編のみ読んでください。
※ムーンライトノベルズとアルファポリスにも投稿してます。
ムーンライトノベルズ、日間ランキング1位、週間ランキング1位、月間ランキング2位になった作品です。
アルファポリスBLランキング1位になった作品です。
「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」
※表紙イラストは「第七回なろうデスゲーム」の商品として、Jam様がイラストを描いてくださいました。製作者の許可を得て表紙イラストとして使わせて頂いております。Jam様ありがとうございます!2023/05/08
【BL】【完結】「幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで」【第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品】
まほりろ
BL
【第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品】
【全122話、完結済み】
ザフィーア・アインスは異世界から現れた神子にはめられ、長年慕ってきた王太子に婚約破棄された。「エルガー様、僕は何も……!」「うるさい! 貴様の声など聞きたくない! 耳障りだ!」ザフィーアは弁明しようとするが、王太子は聞く耳を持たない。
アインス公爵は牢屋に入れられたザフィーアを「アインス公爵家の恥さらしが!」と罵り頬を叩く。
婚約者に裏切られ、親に見捨てられたザフィーアは、神子を害した悪人として国境近くの教会に幽閉されることになる。
恵みの雨を降らせ民の信仰を集める神子、その神子を害したザフィーアに民から浴びせられる言葉は冷たい。「死ね! 悪魔!」「くらえろくでなし! 天誅!」「消えろ!」「くたばれ! 化け物!」民衆から石を投げられ、失意のままた王都をあとにするザフィーア。
国境で神子の刺客に襲われたザフィーアは「剣《そんなもの》を使う必要はないよ、僕は一人で死ねるから……」崖に身を投げ自ら死を選ぶのだった…………。
婚約破棄、美青年×美少年、溺愛執着、執着攻め、ハッピーエンド。
*→性的な描写有り、***→性行為の描写有り。
ムーンライトノベルズ、pixivにも投稿しております。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
ムーンライトノベルズBL、日間ランキン1位。アルファポリス、BLランキング1位、HOTランキング4位に入った作品です。
「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」
※第9回BL小説大賞で奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様のおかげですありがとうございます。m(_ _)m
【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします
七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。
よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。
お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい
最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。
小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。
当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。
小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。
それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは?
そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。
ゆるっとした世界観です。
身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈…
タイトルもしかしたら途中で変更するかも
イラストは紺田様に有償で依頼しました。
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる