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15・また俺、何かやっちゃいました?
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「ミマサマ、もしなにかわからないことがあったり、討伐の練習をしておきたいなって思ったときは、ぜひぜひボクに教えてくださいね。あっ、ハイフェン族の力を使えば、ランプの輝きを維持するお手伝いもできちゃうですぅ、よ!」
なるほど、そういうキャラなのか、こいつ。っつってもミマって結構この世界のことに詳しいし、あんまり必要ないような気もするけど。
「いいなー。ミマだけナビキャラつきかよ」
「欲しいならあげるけど」
「あっいいです」
片手を突き出してノーサンキューを宣言する。いくら便利キャラとは言ったって、こんなですぅに付きまとわれちゃこの先の人生に支障が出る、いろいろと。
「まあまあ。チュー太郎様もご不明な点があれば、いつでも私をお呼びつけください」
「おー、そうだな。俺はそうさせてもらうわ」
「はい。灯士様のため、我が使命のため、全力でお仕えさせていただきます。この命に代えましても」
「お、おお? お、お願いします?」
言ってジルコンは、俺の足元にひざまずいた。真っ白な軍服の膝が汚れるのも、まったく気にする様子はない。ちょっとどぎまぎしてしまう。執事喫茶に通っちゃう女子って、ひょっとしてこんな気持ちなのかしらん?
「……ッ!!」
ギリッ!! と、なにかがきしむような音が聞こえた。反射的に振り向くと、ミマが射殺さんばかりの目で俺を睨んでいる。え、怖い。俺またなんかやっちゃいました?
「あ……あの、ミマ、さん……?」
「……チュー君。やっぱり君はまだ、この世界のことがよくわかっていないみたいだね」
「え? あ、ハイ……」
萎縮しながら答えると、ミマはまたしても数度、大きく息を吸ってから吐いた。そして再び俺に向けた顔は、ぞっとするくらいにいつもの笑みを取り戻している。
「一週間」
「え?」
「一週間経ったら、僕が君にこの世界の仕組みを教えてあげる。それまでは、いいよ」
「い、いい、って……」
「君は君の好きに振る舞えばいいよ。僕も僕のやり方でやらせてもらう。……これからどうぞよろしくね、チュー君。ふふっ」
「お、おう……」
ハートのつかない「ふふっ」と共に、俺に向かって片手が差し出される。不穏な空気を感じつつ手を取った。握った左手に、心なしかだいぶ強い力が込められていたのは……多分、俺の勘違いでは、ない。
手を離したすぐあとに、ミマはジルコンに向き直る。呆然とする俺なんか、もはや眼中にないみたいだ。
「ジルコン様、僕少し疲れちゃったみたいです。寮のことはあとでコラルに教えてもらうので、先にお部屋で休んでもいいですか?」
「もちろん。何かご入り用な物などございますでしょうか」
「ありがとう、大丈夫。ジルコン様は優しいね。……ふふっ♡」
伏し目がちなその「ふふっ♡」には、端で見ていただけの俺でもドキッとするほどの、なんというか、色気のようなものが込められていた。だが直撃を食らったジルコンに動じた様子はない。ミマは鼻先でふっと息を漏らすと、ぺこりとひとつお辞儀をした。そして(「はわわぁ、待ってくださぁい!」と後を追うコラルは当然のごとく無視して)分厚い玄関ドアの向こうに消えていく。
後に残されたのは立ち尽くす俺と、深々と頭を下げたままのジルコンだけだ。
「……あの。俺、本当になんか悪いことした?」
「そうですねえ……」
恐る恐る尋ねると、ジルコンは顎に片手をやって思案を始めた。心当たりがないのか、それともありすぎるけど言い方に迷ってるのか。前者であってくれ。後者な気がするけど。いやでも、あそこまで切れられるほどの言動は……してない、とは言い切れないけど……
すがるような思いでジルコンを見上げる。虹色の反射光がまぶしく目に刺さる。ぱちぱちとまばたきを繰り返していると、俺より頭半分高い位置にある、銀色をした瞳と目が合った。
「……そもそも、チュー太郎様は……」
「俺?」
言いかけたところで言葉を止め、ジルコンは軽く首を横に振る。
「いえ。やめておきましょう、今は」
「な、何。気になんだけど」
「いずれわかることです。それよりも」
言いながらジルコンは、重たげな玄関ドアを開けて室内に掌を向けた。
「まずは灯士寮のご案内と、今後のスケジュールのご相談をさせていただけませんか。案内板の使い方もお教えしますよ」
「行くっ!」
文字通り秒で飛び付いた俺の耳に、くすりと小さな笑い声が聞こえた。
なるほど、そういうキャラなのか、こいつ。っつってもミマって結構この世界のことに詳しいし、あんまり必要ないような気もするけど。
「いいなー。ミマだけナビキャラつきかよ」
「欲しいならあげるけど」
「あっいいです」
片手を突き出してノーサンキューを宣言する。いくら便利キャラとは言ったって、こんなですぅに付きまとわれちゃこの先の人生に支障が出る、いろいろと。
「まあまあ。チュー太郎様もご不明な点があれば、いつでも私をお呼びつけください」
「おー、そうだな。俺はそうさせてもらうわ」
「はい。灯士様のため、我が使命のため、全力でお仕えさせていただきます。この命に代えましても」
「お、おお? お、お願いします?」
言ってジルコンは、俺の足元にひざまずいた。真っ白な軍服の膝が汚れるのも、まったく気にする様子はない。ちょっとどぎまぎしてしまう。執事喫茶に通っちゃう女子って、ひょっとしてこんな気持ちなのかしらん?
「……ッ!!」
ギリッ!! と、なにかがきしむような音が聞こえた。反射的に振り向くと、ミマが射殺さんばかりの目で俺を睨んでいる。え、怖い。俺またなんかやっちゃいました?
「あ……あの、ミマ、さん……?」
「……チュー君。やっぱり君はまだ、この世界のことがよくわかっていないみたいだね」
「え? あ、ハイ……」
萎縮しながら答えると、ミマはまたしても数度、大きく息を吸ってから吐いた。そして再び俺に向けた顔は、ぞっとするくらいにいつもの笑みを取り戻している。
「一週間」
「え?」
「一週間経ったら、僕が君にこの世界の仕組みを教えてあげる。それまでは、いいよ」
「い、いい、って……」
「君は君の好きに振る舞えばいいよ。僕も僕のやり方でやらせてもらう。……これからどうぞよろしくね、チュー君。ふふっ」
「お、おう……」
ハートのつかない「ふふっ」と共に、俺に向かって片手が差し出される。不穏な空気を感じつつ手を取った。握った左手に、心なしかだいぶ強い力が込められていたのは……多分、俺の勘違いでは、ない。
手を離したすぐあとに、ミマはジルコンに向き直る。呆然とする俺なんか、もはや眼中にないみたいだ。
「ジルコン様、僕少し疲れちゃったみたいです。寮のことはあとでコラルに教えてもらうので、先にお部屋で休んでもいいですか?」
「もちろん。何かご入り用な物などございますでしょうか」
「ありがとう、大丈夫。ジルコン様は優しいね。……ふふっ♡」
伏し目がちなその「ふふっ♡」には、端で見ていただけの俺でもドキッとするほどの、なんというか、色気のようなものが込められていた。だが直撃を食らったジルコンに動じた様子はない。ミマは鼻先でふっと息を漏らすと、ぺこりとひとつお辞儀をした。そして(「はわわぁ、待ってくださぁい!」と後を追うコラルは当然のごとく無視して)分厚い玄関ドアの向こうに消えていく。
後に残されたのは立ち尽くす俺と、深々と頭を下げたままのジルコンだけだ。
「……あの。俺、本当になんか悪いことした?」
「そうですねえ……」
恐る恐る尋ねると、ジルコンは顎に片手をやって思案を始めた。心当たりがないのか、それともありすぎるけど言い方に迷ってるのか。前者であってくれ。後者な気がするけど。いやでも、あそこまで切れられるほどの言動は……してない、とは言い切れないけど……
すがるような思いでジルコンを見上げる。虹色の反射光がまぶしく目に刺さる。ぱちぱちとまばたきを繰り返していると、俺より頭半分高い位置にある、銀色をした瞳と目が合った。
「……そもそも、チュー太郎様は……」
「俺?」
言いかけたところで言葉を止め、ジルコンは軽く首を横に振る。
「いえ。やめておきましょう、今は」
「な、何。気になんだけど」
「いずれわかることです。それよりも」
言いながらジルコンは、重たげな玄関ドアを開けて室内に掌を向けた。
「まずは灯士寮のご案内と、今後のスケジュールのご相談をさせていただけませんか。案内板の使い方もお教えしますよ」
「行くっ!」
文字通り秒で飛び付いた俺の耳に、くすりと小さな笑い声が聞こえた。
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