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4・花は花でも壁の花
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壇上の、顔の見えない一人を除いた騎士サマたちは、儀式を終えて各々バラけはじめていた。近くまで行くと、頭のあたりに名前が浮かんでいるのが見える。おお、やっぱいいな、この機能。リアルでもこういうのあったら、俺の人間関係もちょっとはマシになったかも……いや、過ぎ去ったことを考えるのはよそう。
中の一人、赤く輝く髪をした背の高いイケメンに、ミマは人懐っこい笑顔を浮かべて近寄っていく。おいマジか。わりと細身揃いのイケメンたちの中では、一番怖そうな見た目なんだけど。物怖じしねえな、こいつ。
「こんにちは、ルビーノ様。これからよろしくお願いしますね」
「ああ、水晶の灯士様か。なんだ、もうオレの名を覚えてくれたのか?」
「もちろんですよ、守護隊長様。ね、チューくん」
「へ? あ、お、おう、もちろん」
もちろん俺は覚えるどころかろくに儀式を見てすらなかったが、こいつがルビーノだと言うことは名前表示を見りゃわかる。ので、尻馬に乗って話を合わせる。便利!
「えっ、じゃあオレは? オレのこともちゃんと覚えてくれてる?」
「覚えてますよ、トパシオ様。ついでにこちらがランジン様。その奥から、アメティスタ様、スマラクト様、サフィール様、ルビーノ様……そして、ディアマンテ殿下。ですよね」
「えっ、すごーい! おれなんかみんなの名前覚えるの、三か月くらいかかりましたよ!?」
「ランジン。それはちょっとキミの揮発性が高すぎだねぇ」
「私ごときの名前に記憶を割くなんて、そんなもったいないことしなくてもいいのに。でも、ありがとうございます」
「いや、騎士と灯士は命を預け合う戦友だ、スマラクトの名も覚えてもらわなくては困る。その点においてミマは実に模範的だ。俺も見習わねばな」
いつの間にかミマの周りに人が集まって、なんだかごちゃごちゃしてきた。俺はと言えばヒトガイッパイイテコワイ、のでさりげなく後ずさりして輪から外れている。ミマも騎士サマ方も、俺が遠ざかったことになんかまるで気づかず談笑を続けている。初対面とは思えない馴染みぶりだ。こういうのも一種の特殊技能だよな。陰の世界で生きてきた俺には無理な芸当だ。
けど、会話を聞いているうちにひとつだけ気づいた。こいつらたぶん、モチーフの宝石と髪の色や名前が合わせてあるっぽい。そうとわかれば少なくとも、見分けがつかなくなることはないだろう。宝石ネタなら俺もジュエぷり絡みで多少は知ってるし。これなら俺でももうちょっと、他人とコミュニケーション取れるようになるかも。なるかな。どうかな……
「さ、おしゃべりはこれくらいにしておこうぜ」
ルビーノが軽く手を叩くと、ざわめきがぴたりと止まる。殿下とやらを除けばこいつがリーダー格なのかな。そういやミマが守護隊長とか言ってたっけ。
「まずは演習場に向かおう。演習後、ジルコンが寮の案内をするそうだ。あまり待たせるのも悪い」
「ああ……」
ルビーノが出した名前に、青い髪のサフィールが一瞬だけ苦笑した。ジルコン? 新キャラか。少なくとも今この場には、その名前が表示されている人間はいない。また登場キャラが増えるのかあ。まあ、でも、名前表示機能がある限り俺は大丈夫だ。怖いものなんて何もない。今のところは。
さっきのオープニングと同じように、今度は目の前が白い光に覆われていく。目を細めてからあたりを見回せば、なんと俺と騎士様たちは屋外に移動している。おお、またしても便利機能。石造りの回廊や、綺麗に刈り込まれた植木に取り巻かれたここは、どうやら城の中庭だろうか。
「オレたちと灯士様方……耀燈騎士団の面々は、ここで演習を行うことになる。灯士様方は戦闘なんて初めてだろう? 王国軍と一緒に訓練するわけにもいかないからな」
「戦闘……って、俺も戦うの!?」
「そうだよ。大丈夫大丈夫、慣れたら楽しいよぉ」
いや楽しいとかそういうこと以前に、俺高校の体育以来運動すらやってないんですけど。顔を引きつらせる俺の肩を、遥か高みから下ろされた手がぽんと叩く。
「心配は要らない。貴方の身の安全は、俺が全力で守る」
「ええ。私の命に代えても」
「イケメ……じゃない、騎士様……」
サフィールとスマラクトの微笑みに、ドキーンと心臓が高鳴った。うわ、ヤバいわこれ。ただでさえ生まれてこのかた見たことないレベルの美形が、この至近距離で「全力で守る」とか。男の俺でもそりゃクラッと来ちゃいますよ。いかんいかん、正気に戻れ俺!
中の一人、赤く輝く髪をした背の高いイケメンに、ミマは人懐っこい笑顔を浮かべて近寄っていく。おいマジか。わりと細身揃いのイケメンたちの中では、一番怖そうな見た目なんだけど。物怖じしねえな、こいつ。
「こんにちは、ルビーノ様。これからよろしくお願いしますね」
「ああ、水晶の灯士様か。なんだ、もうオレの名を覚えてくれたのか?」
「もちろんですよ、守護隊長様。ね、チューくん」
「へ? あ、お、おう、もちろん」
もちろん俺は覚えるどころかろくに儀式を見てすらなかったが、こいつがルビーノだと言うことは名前表示を見りゃわかる。ので、尻馬に乗って話を合わせる。便利!
「えっ、じゃあオレは? オレのこともちゃんと覚えてくれてる?」
「覚えてますよ、トパシオ様。ついでにこちらがランジン様。その奥から、アメティスタ様、スマラクト様、サフィール様、ルビーノ様……そして、ディアマンテ殿下。ですよね」
「えっ、すごーい! おれなんかみんなの名前覚えるの、三か月くらいかかりましたよ!?」
「ランジン。それはちょっとキミの揮発性が高すぎだねぇ」
「私ごときの名前に記憶を割くなんて、そんなもったいないことしなくてもいいのに。でも、ありがとうございます」
「いや、騎士と灯士は命を預け合う戦友だ、スマラクトの名も覚えてもらわなくては困る。その点においてミマは実に模範的だ。俺も見習わねばな」
いつの間にかミマの周りに人が集まって、なんだかごちゃごちゃしてきた。俺はと言えばヒトガイッパイイテコワイ、のでさりげなく後ずさりして輪から外れている。ミマも騎士サマ方も、俺が遠ざかったことになんかまるで気づかず談笑を続けている。初対面とは思えない馴染みぶりだ。こういうのも一種の特殊技能だよな。陰の世界で生きてきた俺には無理な芸当だ。
けど、会話を聞いているうちにひとつだけ気づいた。こいつらたぶん、モチーフの宝石と髪の色や名前が合わせてあるっぽい。そうとわかれば少なくとも、見分けがつかなくなることはないだろう。宝石ネタなら俺もジュエぷり絡みで多少は知ってるし。これなら俺でももうちょっと、他人とコミュニケーション取れるようになるかも。なるかな。どうかな……
「さ、おしゃべりはこれくらいにしておこうぜ」
ルビーノが軽く手を叩くと、ざわめきがぴたりと止まる。殿下とやらを除けばこいつがリーダー格なのかな。そういやミマが守護隊長とか言ってたっけ。
「まずは演習場に向かおう。演習後、ジルコンが寮の案内をするそうだ。あまり待たせるのも悪い」
「ああ……」
ルビーノが出した名前に、青い髪のサフィールが一瞬だけ苦笑した。ジルコン? 新キャラか。少なくとも今この場には、その名前が表示されている人間はいない。また登場キャラが増えるのかあ。まあ、でも、名前表示機能がある限り俺は大丈夫だ。怖いものなんて何もない。今のところは。
さっきのオープニングと同じように、今度は目の前が白い光に覆われていく。目を細めてからあたりを見回せば、なんと俺と騎士様たちは屋外に移動している。おお、またしても便利機能。石造りの回廊や、綺麗に刈り込まれた植木に取り巻かれたここは、どうやら城の中庭だろうか。
「オレたちと灯士様方……耀燈騎士団の面々は、ここで演習を行うことになる。灯士様方は戦闘なんて初めてだろう? 王国軍と一緒に訓練するわけにもいかないからな」
「戦闘……って、俺も戦うの!?」
「そうだよ。大丈夫大丈夫、慣れたら楽しいよぉ」
いや楽しいとかそういうこと以前に、俺高校の体育以来運動すらやってないんですけど。顔を引きつらせる俺の肩を、遥か高みから下ろされた手がぽんと叩く。
「心配は要らない。貴方の身の安全は、俺が全力で守る」
「ええ。私の命に代えても」
「イケメ……じゃない、騎士様……」
サフィールとスマラクトの微笑みに、ドキーンと心臓が高鳴った。うわ、ヤバいわこれ。ただでさえ生まれてこのかた見たことないレベルの美形が、この至近距離で「全力で守る」とか。男の俺でもそりゃクラッと来ちゃいますよ。いかんいかん、正気に戻れ俺!
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