69 / 71
君がゾンビになっても、愛してます以上の言葉を贈りたい。 その4
しおりを挟む
お二人と挨拶を交わしてる間にも、隣でそわそわし続けている奏。
大好きで尊敬する先輩。彼女が目の前で倒れ込んだのに、何も出来なかったこと。来る日も来る日も後悔し続けていた。
あの夜は、ずっと泣き続けていたし、数日は笑顔が戻ってこなかった。
救いだったのは、田中さんが珍しく電話をしてきてくれたこと。
「きっと喜ぶから電話してやってくれ」
この一言に奏は救われた。
電話で声は聞けたものの、そのまま産休を取ることになった松岡さんとは、会えずじまい。
『もう大丈夫なんですか?』
「うん、大丈夫。飲み会以来だもんね。ご心配お掛けしました」
『お腹は?』
「無事」
「いやぁ、本当あの時はどうなることか」
田中さんの話を遮るように「チッ!」っと双方からハッキリと聞こえた舌打ち。松岡さんは眉間にしわを寄せ、奏は鼻頭にしわを寄せて軽く睨みつけていた。
「話させてよ」
うん、別にこれくらい割って入っても良いんじゃないかと、黙って聞いていた。
「正月くらい黙ってろ。なっ?」
でもきっと、こちらが正解なんだろう。
「大月さんのことだから、心配し続けてくれてたんだろうし、このバカから話聞いてたからさ。早目に会いたいなとは考えてたんだけどね。私も自分のことで一杯になっちゃってて。ごめんね」
『いえ、そんな全然いいんです。松岡さんが謝ることなんて、これっぽっちもありません』
「あ、そうだ大月さん。歯医者ちゃんと行ってる?」
『ん、えっ、なんで知ってるんですか?』
こいつ。と左手で軽く指をさした先にいる田中さん。
『話したことない!』
「いや、ほら、事務所で話してたの聞こえててさ。あきも大月さんのこと気にかけてたから」
『うおおおおおおおおお!』
スーパー座敷童子、誕生。
こりゃ入っていく余地ないわぁと、一歩下がったところで話を聞いていたが、なかなかに面白い組み合わせだ。
松岡さんが奏のことを気にしてくれていたことへの興奮と、田中さんへの怒り。なんだかよく分からないけど、奏に面白いスイッチが入った気がした。叫んでる勢いで踊り出すかもしれん。
歯医者さんの機械音が大嫌いで、念には念を入れてってくらい、歯磨きに時間を費やす我が家の座敷童。
残念なことに、いくら磨いても、いくら歯間ブラシをかけても、周期的に虫歯に襲われる。
先日も、被せ物が欠けて食べ物が詰まるからと、渋々歯医者に行くと、中が虫歯になっていたんだそうだ。もちろん削られて、本気で泣いて帰ってきた二十六歳。
「もう慣れましたかー?」
なんて衛生士さんに声を掛けられる二十六歳。
今、定期的に通っている歯医者さん。十分に下調べをして『あそこは当たりだよー』と、初日は笑顔で帰宅してきた奏。
ところが、担当してくれている院長先生は、治療が怖すぎて足をバタバタさせてるいる二十六歳に、咳払いや「んん!」と低い唸り声を上げるんだそうだ。
先日も
「静かにしようか」
と軽く怒られ、ビート板が必要なくらいバタ足が激しくなる奏は、衛生士さんに手を握られた状態で治療を続け、号泣して帰ってきた。
マイルドに接してくれたのは初日だけ。
通う度に、そんな院長先生に親知らずのことを指摘される。体の一部を無理矢理引っこ抜かれるだなんて、想像するだけで頬を赤らめ、涙が溢れて泣き出してしまうほどに怖い。
「院長先生、お昼頃に用事で抜けるから、昼過ぎに予約してもらえたら女性の先生になりますよ」
歯医者が嫌いな小学生と同等くらいな扱いをしてくれる優しい受付のお姉さんが、小声で教えてくれる。
『じゃあ、お昼過ぎでお願いします。あ、いや院長先生が苦手なわけじゃないんですよ』
「いいんですよ苦手でも」
そう笑って返してくれる受付のお姉さんを含め、今ではスタッフ間で、ちょっとした有名人と化した大月奏。
大好きで尊敬する先輩。彼女が目の前で倒れ込んだのに、何も出来なかったこと。来る日も来る日も後悔し続けていた。
あの夜は、ずっと泣き続けていたし、数日は笑顔が戻ってこなかった。
救いだったのは、田中さんが珍しく電話をしてきてくれたこと。
「きっと喜ぶから電話してやってくれ」
この一言に奏は救われた。
電話で声は聞けたものの、そのまま産休を取ることになった松岡さんとは、会えずじまい。
『もう大丈夫なんですか?』
「うん、大丈夫。飲み会以来だもんね。ご心配お掛けしました」
『お腹は?』
「無事」
「いやぁ、本当あの時はどうなることか」
田中さんの話を遮るように「チッ!」っと双方からハッキリと聞こえた舌打ち。松岡さんは眉間にしわを寄せ、奏は鼻頭にしわを寄せて軽く睨みつけていた。
「話させてよ」
うん、別にこれくらい割って入っても良いんじゃないかと、黙って聞いていた。
「正月くらい黙ってろ。なっ?」
でもきっと、こちらが正解なんだろう。
「大月さんのことだから、心配し続けてくれてたんだろうし、このバカから話聞いてたからさ。早目に会いたいなとは考えてたんだけどね。私も自分のことで一杯になっちゃってて。ごめんね」
『いえ、そんな全然いいんです。松岡さんが謝ることなんて、これっぽっちもありません』
「あ、そうだ大月さん。歯医者ちゃんと行ってる?」
『ん、えっ、なんで知ってるんですか?』
こいつ。と左手で軽く指をさした先にいる田中さん。
『話したことない!』
「いや、ほら、事務所で話してたの聞こえててさ。あきも大月さんのこと気にかけてたから」
『うおおおおおおおおお!』
スーパー座敷童子、誕生。
こりゃ入っていく余地ないわぁと、一歩下がったところで話を聞いていたが、なかなかに面白い組み合わせだ。
松岡さんが奏のことを気にしてくれていたことへの興奮と、田中さんへの怒り。なんだかよく分からないけど、奏に面白いスイッチが入った気がした。叫んでる勢いで踊り出すかもしれん。
歯医者さんの機械音が大嫌いで、念には念を入れてってくらい、歯磨きに時間を費やす我が家の座敷童。
残念なことに、いくら磨いても、いくら歯間ブラシをかけても、周期的に虫歯に襲われる。
先日も、被せ物が欠けて食べ物が詰まるからと、渋々歯医者に行くと、中が虫歯になっていたんだそうだ。もちろん削られて、本気で泣いて帰ってきた二十六歳。
「もう慣れましたかー?」
なんて衛生士さんに声を掛けられる二十六歳。
今、定期的に通っている歯医者さん。十分に下調べをして『あそこは当たりだよー』と、初日は笑顔で帰宅してきた奏。
ところが、担当してくれている院長先生は、治療が怖すぎて足をバタバタさせてるいる二十六歳に、咳払いや「んん!」と低い唸り声を上げるんだそうだ。
先日も
「静かにしようか」
と軽く怒られ、ビート板が必要なくらいバタ足が激しくなる奏は、衛生士さんに手を握られた状態で治療を続け、号泣して帰ってきた。
マイルドに接してくれたのは初日だけ。
通う度に、そんな院長先生に親知らずのことを指摘される。体の一部を無理矢理引っこ抜かれるだなんて、想像するだけで頬を赤らめ、涙が溢れて泣き出してしまうほどに怖い。
「院長先生、お昼頃に用事で抜けるから、昼過ぎに予約してもらえたら女性の先生になりますよ」
歯医者が嫌いな小学生と同等くらいな扱いをしてくれる優しい受付のお姉さんが、小声で教えてくれる。
『じゃあ、お昼過ぎでお願いします。あ、いや院長先生が苦手なわけじゃないんですよ』
「いいんですよ苦手でも」
そう笑って返してくれる受付のお姉さんを含め、今ではスタッフ間で、ちょっとした有名人と化した大月奏。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる