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ぽっちゃりな君が好きと言われたら?

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 それは…突然だった。

私が、学校から帰る途中の駅の改札でそれは起きた。

「あの、あ、あの…これを、僕の、僕の気持ちです! 受け取って下さい!!」

多分…となり町の男子校の制服だった。平凡を絵に描いたような真面目そうなその彼は、私に向かって顔を真っ赤にしてピンクの封筒を差し出していた。

(ちょっとちょっと! これって、もしかして? もしかするの?)

初めての出来事に、差し出された封筒を緊張で手が震えてしまって、なかなか受けとれず…やっとの思いで私が受け取ると、彼は唇を震わせながら声を大にして私に向かって叫んだ。

「おおおお、お返事待ってます! 宜しくお願いします!!」

彼は真っ赤な顔をして、鞄を胸に抱えて駅の改札を勢い良く走って出て行ってしまった。

生まれて初めて、男子から恋文ラブレターなんて貰ってしまった…。

家に帰ってからじゃ、魔王に見つかって何をされるかわかったもんじゃない。

私は冷静になって、帰り道にある公園のベンチで封筒を開けてみた。

『ポッチャリな君がたまらなく好きです。友人からでも構わないので僕と付き合って下さい。宜しくお願いします。 淀北工2年北村勇二きたむらゆうじ

封筒の中身は、間違いなく恋文ラブレターだった。

「ポッチャリな君が好きだって~♪ やだ~♪ 恥ずかしい~~」

しかし…良く考えてみなくても、私は魔王の監視下の中でダイエット中だった。
こんなことで喜んでる場合じゃない。もしも、このことを魔王が知ったら?

「…やばくない?」

我に返った私は、慌てて封筒を学校の英語の教科書に挟んでから、何も無かったかの様に何時も通りを装って帰宅した。

********************

 現在の体重は、72キロ。ダイエットを開始して、やっと3ヶ月が過ぎていた。
私は当初の体重から26キロの減量に成功していたのだ。

それもこれも、魔王のダイエットに対する熱意の賜物だった。

「オイ! そろそろ、身体が軽くなって来たようだから…ウォーキングから、少し軽目のジョギングって奴にしても良さそうだぜ。今夜から、軽く走ってみろよ」
「走るの~? うそでしょ? 2時間だよ? ウォーキングが良いよぉ~~!!」

私がジョギングを拒否すると、魔王はまた目を吊り上げて横っ腹の贅肉をギュぅっと掴んで引っ張った。

「いたっ~~~~~~い! やめてよ~~~!!」
「お前が生意気な口利くからだろっ! ジョギング! ジョギングやれ!」

魔王は、横っ腹を力一杯引っ張りあげてから手を離して私に苦痛を与えて喜んでいた。

「それからバストアップの体操も絶対忘れんな! その巨乳が小さくなったら意味ね~からな。ガンバレよ♪」
「だから~、それってセクハラ! 魔王でも許さないからね。変態!!」

魔王ったら、事あるごとにバストアップを私に強調しては、ニヤニヤ楽しそうに笑っている。確かに魔王に言われた通りにやっていたので、バストの大きさは以前とあまり変わりは無かったけど、魔王はかなりの巨乳好きのスケベなただのド変態なのかもしれない。

夕食の後、魔王と一緒にジョギングに出ると魔王がひたすら揺れるバストを食い入るように眺めてイヤらしい顔でムフムフしていたことで、私は更にそれを確信していた。


「それから、お肌がスベスベになるボディオイルってやつを手に入れて来てやったから、シャワーの後で使ってみろよ♪」

更にすっごく高そうなボディオイルの入ったボトルを渡されて、私は唖然としていた。どんどん魔王は、私に磨きをかけて楽しんでいるようで少し怖いくらいだ。

魔王というだけに、手を掛けて自分好みに仕上げて最後には磨き上げた私の身体や魂をやっぱり喰らってしまうのだろうか?

あれこれ考え過ぎた結果、底知れない不安に苛まれてその夜は良く眠れなかった。

******************

 翌朝になって、寝不足の目を擦りながらジョギングを済ませて家に帰ると、魔王がニヤニヤ笑って私の目の前にピンクの封筒をヒラヒラさせてちらつかせてきた。

「これはいつどこで、手に入れたんだ? 美乃里ちゃ~ん?」
「あああああ。ちょっと! 勝手に人の鞄の中身を触らないでよね!」

私が慌てて恋文を取り返そうとしたら、魔王は手に持っていた封筒をビリビリと破いてしまった。

「ポッチャリな君が好きだと? ダイエット中にこんな惚けたこと言いやがる男なんて相手にすんな! 邪魔なだけだ! わかったな! 絶対だぞ! じゃなきゃコイツ殺すぞ!!」
「あううううううう~! 酷い~~! 破くこと無いのに~~」

 魔王にビリビリと細かく破かれた恋文は、母親がせっせとホウキとちりとりで片付けてしまった。

「オレ様も、今日から学校って所に付き合ってやる。美乃里に変な虫が付いたらオレ様の今までの苦労が水の泡だからな。オレ様が全て追い払ってやる!!」
「えっ? 学校って、どうやって?」

私が驚いている間に魔王は、学生服を着て鞄まで持って用意を済ませていた。

「やだ~! 学校くらいは、自由で居たいのに~~! ついて来ないで!!」
「お前に拒否権は無いって言ってんだろ! 既にお前は、オレ様のモンなんだから!」

背筋が寒くなる様なことを魔王に言われて、私は魔王を召喚したことを心の底から後悔していた。

******************

 魔王は、私にピッタリと寄り添って登校して学校では、転校生だと紹介されて私のクラスに担任に連れられて教室に入って来た。
魔王がいつでも人間を操れると言うことを、この時私は改めて思い出していた。

そうなんだ。
いつでもどこでも、魔王なんだから自由自在に自分の思うままに、人間を操り人形の様に動かせるんだ。

「学校って所も悪くないな♪ 色々と楽しませてもらえそうだ。フフフフフ♪」
「ちょっと! 変なことはしないでよね!」

そんな私の願いは届くこと無く、その日の内に魔王は私の許嫁という噂が学校中に広まっていた。

「いつの間にこんな噂広めちゃったのよ~! もう~~!!」
「嘘ってわけでもないだろ? ダイエットに成功したら、お前はオレ様のものなんだから!」
「確かに最初に召喚した時にそれらしいことは言ったような気はするけど。許嫁って…」

魔王には、スリムになったら合コンへ参加するという私の細やかな夢も断ち切られてしまった。

そして…下校中の駅の改札で、昨日の彼が姿を見せたが。
私の腰に手を回して、ピッタリと寄り添う魔王を見た彼は何も言わずに改札を走って出て行ってしまった。

その姿を私が肩を落として見ていると魔王が私の両肩をギュっと掴んで真剣な顔をしていた。

「な、何? どうしたのよ?」

「…お前は、お前は、オレ様を召喚したその日から…オレ様のモンなんだ。だからお前はオレ様だけのものってことだ!」

 魔王はそう言って、顔を近付けて軽くキスをして満足そうに笑っていた。

そして、突然の行為に私は心臓が飛び出してしまいそうな位ドキドキが止まらなかった。
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