オカンの店

柳乃奈緒

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オカンの店と縁結び

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◇◇◇◇◇ 

残暑が厳しい9月の終わりに

会社の先輩に連れて行ってもらってから
時々、仕事帰りに立ち寄る『オカンの店』で、
久しぶりに合う、幼馴染みの京子と舞と3人で
女子会をすることになった。

「予算は1人4000円までで、夜定食を入れてもらって
他のお料理は、特に誰も好き嫌いが無いので。オカンが
作って出してくれるものなら、何でも大丈夫です♪」

私が、カウンターに座ってオカンに
予算等を伝えると、オカンは嬉しそうに
ニコニコ笑って、頷いてくれていた。

「皆、お酒はどれ位飲むんやろか? 生ビールとか
酎ハイでええなら、その金額で3時間位なら飲み放題やな! 
料理も普段通りで済むみたいやし、大丈夫や♪」

たまに寄るだけの私みたいな客にでも
オカンは、とても親身になってくれる優しい人だった。

「そや! どうせなら、その日はみんな4000円で
生ビールとか酎ハイなら、3時間飲み放題って事にしよう!
 料理も大皿や大鉢に作っといて食べ放題にしよ!」

横で聞いていた
オカンの娘さんの比奈さんが、
パチンと両手を叩いて
思いついたことを口にしていた。

「そうやな! お客様感謝デーって事にしようか?
 おもろいな! やろやろ~♪」

オカンは、ケラケラ笑って
比奈ちゃんの提案に同意していた。

「ほ、ホンマにええの? そんな軽いノリで? もの凄く
私らは助かるけど、店の儲けとかも一応考えて下さいね。
オカンの店が無くなったら困りますんで…」

私が慌てて、比奈さんとオカンにお願いすると
2人は、顔を見合わせて笑っていた。

悠里ゆうりちゃんは、真面目でええ子やなぁ~♪ 
大丈夫、大丈夫! 頭の中で、いつも電卓叩いてる比奈が
言い出したんやから! 儲けは、ちゃんと考えてるよ!」

オカンが心配してる私に笑って答えると、
比奈ちゃんも横で、大きく頷いていた。

座敷では、相変わらず看板猫のがんもちゃんと
1ヶ月位前からいる、ミケちゃんが
常連客の浩二さんや、宗次郎さんたちの側で
のんびりと寛いでいて、見てるだけでも
凄く私は、癒されていた。

「悠里ちゃんも猫が好きなんやな♪ がんもが来てから
良く寄ってくれるようになったもんなぁ!」

オカンに言われて、
私はへへへと笑って頷いていた。

「小さい頃、実家におった猫にがんもちゃんが良く似てて
ついつい会いたくなって、休みの前日に会社を出ると
必ず足が、この店を目指してるんです♪(笑)」

私が、少し照れながら答えてると
横で呑んでいた亞夜子ママが
フフフと笑って、会話に入ってきた。

「そうやってねぇ、この店にドップリと浸かっちゃうのよ~
 毎日、来たくなっちゃうようになったら…大変なんよ! 
気をつけなさいよ~♪」
「毎日、顔出し始めたら…あそこに混ざることになるやろな! 
あそこに混ざったら、もう抜け出せんようになるんやで(笑)」

亞夜子ママと一緒に呑んでいた男性が、
座敷の浩二さんたちの方を見て、クスクスと笑っていた。

「まだまだ、浩二さんたちには混ざれないですよ~! 
月に3日か4日位しか、寄れてないですからね。残念です…」

私がフフフと笑って時計を見ると、
そろそろ終電の時間だったので、慌てて
お勘定を済ませてから、その日は店を後にした。

◇◇◇


女子会の当日は、会社の近くのカフェで
2人と待ち合わせをして『オカンの店』に
行くことになっていたので、仕事を終えると
メイク室でメイクを直して
急いで会社を出て、カフェに向かった。

私が店の中に入ると、一番広い
6人掛けのテーブル席で、京子と舞が
知らない男性3人と一緒に待っていて、
私に気付いて手を振っていた。

「悠里~~! こっちやで~~!」

私が状況を把握しきれずに
唖然としていると、舞がへへへと
舌を出して笑って謝っていた。

「ごめ~ん! 今日なぁ~。女子会やなくて
合コンと言う事で…よろしく~♪(笑)」

舞はそう言うと、私を座らせて
3人の男性の紹介を始めた。

「彼が、松田徹士まつだてつじ君。会社の同僚で24歳。
で、その隣の彼は先輩の宇都宮徹うつのみやとおるさん。
32歳で、もちろん独身。来月から、新しい部署の部長さんに
なるんやで! 最後に、彼が3日前から私とお付き合いする事に
なった櫻井誠人さくらいまことさん。2つ歳上の26歳で~す♪」

舞がふざけた調子で、男性3人を
紹介し終えると、すぐに京子に私は
手を引かれて、化粧室まで連れて行かれていた。

「舞ったら! 3日前に彼と付き合うようになって、
今日の女子会の事を彼に話して、私と悠里の写真を
見せたらしいわ! そしたら、一緒に見てた彼の先輩と
同僚に紹介してくれって、頼み込まれたらしくて
断り切れんかったらしいねん。その代わりに今日は
全部奢ってくれるらしいで! 急に3人増えても大丈夫?」

こうなった経緯を京子は私に
詳しく説明をして、店のことを心配していた。

「多分大丈夫やとは思うねんけど。オカンに聞いてからやわ。
それにしても、京子はええん? 合コンやなんて。久々の
女子会やって思ってたから、私はちょっとショックやわ」

3年前に付き合っていた彼と別れてから、
男っ気が全く無かったので、ショックというか
なんか緊張してしまって、今すぐ帰りたい気分だった。

「悠里は、男性不信やからなぁ…私は、徹士君がめっちゃ
好みのタイプやから、全然大丈夫やで♪(笑)話も
してみたけど、良い感じやし♪」

京子は、私に手を合わせて頭を下げていた。
わざわざ化粧室まで、私を連れて来て
何がしたかったかって…そういうことやってんね。

私は、帰るのは諦めて
京子の頼みを了承して、化粧室を出た。

「そろそろ約束の時間やから、店に行くけど、
最初の予定が3人やったから、断られるかも…
 舞も、そのつもりでどうするか考えといてな!」

私は、少し舞に冷たい態度を取って
荷物を持って、店を出て『オカンの店』に向かった。
舞と京子は、そんな私を気にする様子もなく
男性陣と一緒に、楽しそうに付いて来ていた。

ゆっくりと、私が店の戸を開けて中に入ると
オカンが、ニコニコ笑って出迎えてくれた。

「おかえり~! 悠里ちゃん待ってたよ! 座敷空けてるで!」
「すんません。3人増えてしまったんですけど…良いですか?」

私が、オカンに恐る恐る尋ねると
オカンは、ケラケラ笑って頷いていた。

「大丈夫やで! 座敷席なら6人座れるから、はよ入って座り♪」

オカンに了解をもらえたので、
ホッと胸を撫で下ろして、座敷に5人を案内した。

「ほんまや! 猫がおる♪ 可愛い~♪」

舞は、嬉しそうにがんもちゃんと
ミケちゃんを見て、声を上げていた。

「何からにする? 夜定食は、6人分でええんかな?」

オカンは、冷たいお絞りを持って来てくれて
皆に注文を聞いてくれていた。

「あっ、6人分でお願いします。それから、取り敢えず
生ビールやけど? みんなは、生で良かったんかな?」

6人の中で、一番年配の徹さんが
オカンの注文に答えてくれていた。

「楽しみにしてた女子会の邪魔をしてしまって
申し訳ないんですが、今日は俺の奢りと言うことで
勘弁して下さい! 宜しくお願いしま~す!」

舞の彼氏の櫻井君が、なんとか場の空気を良くしようと
明るく挨拶してくれて、やっと少し場が和んだ。

京子は、すでに徹士君の横にベッタリ
張り付いて、2人の世界に入っていたので
奢りで3時間飲み放題やし、明日は
公休日ということもあって、久し振りに
私は、羽目を外してやる事にした。

私が、生ビールを4杯と酎ハイを
5杯平らげて、6杯目を注文しようと
した時に、徹さんからストップがかかった。

「少しペース早すぎちゃうかな? 大丈夫?」

横で一緒に呑んでいた徹さんが、心配そうに
私が酎ハイを注文しようとしてる手を止めて聞いていた。

「まだまだ、大丈夫ですよ~! 」

大丈夫と言いつつも、かなり酔いが回って
気持ちが良くなっていた私は、徹さんの
手を振り切って、立ち上がろうとして
足がふらついて、徹さんに抱きついてしまった。

「ほら、やっぱりアカンで! 飲み過ぎやわ!
 ちょっと冷たい水貰って、酔い覚まそう!」

徹さんは、冷たい水をオカンから
貰ってくれて、私を抱えて飲ませてくれていた。

冷たいお絞りも貰って来てくれて、
顔に当てられて、少し酔いが和らいだ私は
慌てて徹さんから、離れてお礼を言った。

「ありがとう…。だいぶ酔い…覚めたみたい」

私はドキドキしながら、お礼を言って
もう少し、時間があったのでゆっくり徹さんと
仕事や趣味の話をしながら、今度はのんびり呑んでいた。

気が付くと座敷には、私と彼だけになっていた。
私が慌ててオカンに聞くと、舞と彼氏は
お勘定を済ませて、さっさと2人で店を出たらしい。

そして、その後を追うように
京子と徹士君も、店を出て行ったと
オカンは笑いながら、私に教えてくれていた。

2人の幼馴染みは、女同士の友情よりも
男を…自分らの恋愛を優先したようやった。(溜息)

私がどうしようかと悩んでいたら、
店の戸が開いて、たまに浩二さんたちと
一緒に騒いでいるカップルが入って来て、
彼氏の方が、こっちを見て驚いた様子で向かって来た。

「やっぱり、 徹やんけ! なんでここにおるん? お前に
オカンの店のこと教えてたか?」
「真斗! お前…最近、付き合い悪いと思ったら、
そういう事やったんか!!」

立ち上がった徹さんの攻撃を交わして、
真斗さんが、肩を組んで絡んでじゃれ合っていると
彼女に割って入られて、大人しく座敷へ一緒に座った。

「あれ? 悠里ちゃんやん! 今日は、徹とデートやったん? 
と言うか…二人は付き合ってたん?」

どうも2人に誤解されているようなので、
事の次第を私が話して、誤解を解いていた。

「そうやったんや! 悠里ちゃんは、彼氏おらんの? 
もし、良かったらやけど。徹のことは、悪友の俺が保証するで!
 こいつな。めっちゃ、仕事も出来るし優しいんやで!」
「ちょっと、真斗さん! 悠里ちゃんが、困ってるやろ? 
こういう事は、じっくり時間が必要な時もあるんやで! 
うちらは、こうちゃんらとあっちで一緒に座ろ!」

彼女さんは気を使ってくれて、
浩二さんたちのおるテーブルへ
真斗さんを連れて行って、座らせていた。

「まさかやけど? 真斗って…ここの常連? で? 
あれは、彼女? 最近、付き合い悪いと思ってたら、
いつの間にか、あいつ…あんな可愛い彼女とこんなこと」

徹さんが、真斗さんを見ながら
ブツブツ言っていると、

また、店の戸が開いて
入って来たのは、宗次郎さんと美花ちゃんだった。
すると宗次郎さんは、すぐにこっちを見て驚いていた。

「徹先輩!! どうしたんですか? とうとう真斗さんに
白状させて、ここまで連れて来させたんですか?」

徹さんは、宗次郎さんに聞かれて
立ち上がって声をあげた。

「そうや~~! そう言えば、何か見たことある様な
顔触れがおるから、何でやろうって思ってたんやけど。
そうや! お前の披露宴の時に見たんや! オカンもおったわ~!」

宗次郎さんの披露宴の事を
思い出した徹さんは、宗次郎さんの
首を軽く腕で絞めて、ふざけて絡んでいた。

「お前ら2人揃って、俺に黙っていつの間にかこんな
楽しい事を、隠れてコソコソと! 今度、絶対にこの
埋め合わせはしてもらうからな!」

徹さんに責められていた宗次郎さんは
笑いながら、徹さんの攻撃を交わして反撃していた。

「先輩かて、つい最近まで僕らを無視して彼女さんと
よろしくやってたでしょ? 残念ながら捨てられちゃった
みたいですけど…(笑)」
「男同士って、ほんま暑苦しいよね。 所で、悠里ちゃんは
徹さんと付き合ってるの?」

じゃれあっている男2人を、苦笑しながら
眺めていた美花ちゃんに、唐突に徹さんと
付き合ってるのかと聞かれたので、私はまた
最初から、事の次第を説明して誤解を解いていた。

「そやけど、面白いから付き合ってみたら? 最初は
お友達からでもええやん!」

美花ちゃんにそう言われて、私は確かに
こんな機会は、そんなに無いと思って
徹さんのことを前向きに考え始めていた。

「友達からで、会うのは絶対このお店と言う条件なら…」

私が、笑いながら美花ちゃんの提案に
答えていると、徹さんが驚いて私に詰め寄っていた。

「ほんまに!? 次もここで会ってくれる?  悠里ちゃんと
また会えるんやったら、何でもええねん! 嬉しいわ!」

ドサクサに紛れて、彼が喜びのあまり
いきなり私に抱きついたら、いつの間にか
彼の横で控えていた真斗さんが、彼を後ろから
羽交い締めにして、私から引き剥がしていた。

「悠里ちゃん! 気を付けてや! こいつな、良い奴なんやけど
酔うとめっちゃ抱きついたり、キスしたり大変やねん!」

真斗さんが、徹さんを羽交い締めにしたまま
笑って酒癖を暴露すると、徹さんも負けまいと
真斗さんを振り切って、立ち上がって叫んでいた。

「男はな、好きな女には誰でも触れたいと思うもんなんや!」

かなりお酒が入ったまま暴れていたので
一気に酔いが、回ってしまったようで、徹さんは
そのままフラフラと座敷に倒れ込んでしまった。

「なんか面白い人やね。私の周りにはおらんタイプやわ」
「悠里ちゃんも、満更でもないみたいで良かったわ。
これで、呑み仲間がまた増えて楽しくなるわ♪(笑)」

彼女さんが、嬉しそうに話してると
カウンターへ避難して、呑んでいた
浩二さんと健さんが、私と徹さんを見て笑っていた。

「なんか、ほんまに。この店はカップル成立率高いよなぁ! 
この店には、縁結びの神さんでも住んではるんちゃうか?」
「ほんまに住んでるかも知れへんで? 私も前から思っててん。(笑)」

2人にオカンは、縁結びの神さんが
おるんちゃうかと言われて、うれしそうに笑っていた。
それを聞いて、私はこの縁が良い縁やったら
良いなと思って、天井を見上げて手を合わせると
白髪の長い顎髭のお爺さんの姿が
天井の角に、一瞬やけど視えたような気がした。

あの後、座敷に倒れ込んで眠ってしまった
徹さんは、閉店時間になって叩き起こされて
真斗さんと宗次郎さんに連れられて、無事に
家に帰ったそうです。私は、酔いが冷めていたので
いつもの様に終電で、家まで無事に帰りました。
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