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1章 スローライフ、始めますっ!

8、禁じられた魔法

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ファンタジー系の世界には、お決まりのように魔法という要素が存在する。

 魔法は基本、あらゆる物理法則を捻じ曲げる事ができ、人類が進化と共に手にした「科学」では到底追いつけないものである。

 例を挙げるとすれば、何もないところから炎や水を生み出したり、怪我や病気を瞬時に治したり……ケースにもよるが、人を蘇らせることもできる。そんな、「非科学的」な存在の魔法は、不可能を可能にするのだ。


 過去に戻りたいと言って時間をさかのぼり、逆に未来に行ったり……と「時間」を移動すれば、歴史の改変が可能である。また、瞬間移動や空中歩行……移動の「制限」を無視することで、人類は自らの足で海を渡ることも可能になるのである。


 果たして、ここまでの自由が許されていいのだろうか。答えは否。許されていいわけがない。だから魔法を手にした人類は、きちんとルールを作ることにしたのだ。


「こんな感じで出来たのが<禁忌魔法>……という認識でいい?」


 受付嬢さんの説明が20分以上もあり、長かったのでざっくりとまとめてみた。一緒に説明を聞いた隣の琴音ちゃんも、感心している表情をしていた。


 それを補足するように、受付嬢が説明を続けたのだ。


「えっと……現在<禁忌魔法>に指定されているものをいくつかご紹介します」


 若干不安そうな顔で説明する受付嬢に、私も釣られて不安を感じてしまう。それは、<禁忌魔法>が非常に危険な物だと示唆しているからであろう。だが、説明する時ぐらいは不安にさせないよう、プロ精神を見せて欲しいと思ったのだ。


「発動した瞬間に相手の息の根を止める事ができる【即死魔法】。物を瞬時に移動させる事ができる【ディメンション・ムーヴ】。対象を自分の思うがままに操る事ができる【心変わり】」


 説明される<禁忌魔法>に私は恐怖しか覚えなかった。まさに、チート魔法……こんな魔法を使われたら、どんな相手も敵わないであろう。むしろ、そんな魔法の存在自体が、バランス崩壊を起こすのではと考えていた。


「時を止める系の物。過去や未来と言った「時間」を移動する物」


 インフレ度が前半の比ではなかった件。やはり、時間に干渉する系の魔法は、何かと制限とかされるのだ。


「あとは、天候操作系の魔法……ですね」

「???」

 他のと比べてなんかめっちゃふんわりした単語に、私の直感が警笛を鳴らした。

【天候操作系の魔法】

 私が異世界<エルタニア>で農家として過ごしていたころ、作物の成長面などでよくお世話になった。普通に使ってもそこまで危険性はないような気がする。


「天候操作系の魔法は、太陽で土地から水分を消滅させたり、大雨や洪水で都市を水没させる……等々、間違った使い方をすれば普通に災害を起こせますよ」


 笑顔でさらりと怖い事を説明する受付嬢に、私の顔は引きつってしまう。でも言われてみれば、雨とか風とか暑すぎるとか寒すぎるとか……天気って人々の生活に大きな影響をもたらしてるような気がする。こうして聞くと、天候操作って結構強力な魔法に聞こえるのだ。


 天候魔法の説明後、沈黙が周囲を支配していた。その沈黙に耐えきれず、琴音ちゃんが質問を投げかけたのだ。


「<禁忌魔法>とやらに、代用の物はあるのじゃろ?」


 <禁忌魔法>は、強力な魔法を規制するためにある「法律」なのだが、その同名の「能力」を琴音ちゃんは持っている。こう発言をした異世界出身の彼女は、そういう系のチート能力があると使いたくなるらしい。


「はい! それらは<秘術能力>と呼ばれており、<禁忌魔法>を物凄く弱体化させたものとなっていますよ」

「それって、普通の『能力』とは何が違うの?」


 厨二くさい名前に私は苦笑してしまう。


「使用者によって、その力が変わるということですね。 具体的には……使用者の魔力量が多いほど効果が強力になるのですよ」

「つまり、魔力が最大値までカンストしている琴音ちゃんの場合だと……?」

「<禁忌魔法>とほとんど変わらない威力のものが使えますね」


 つまり、琴音ちゃんが使えば<禁忌魔法>と変わらない……。すなわち、使ってしまうと、色々な問題が発生するのでアウトとなるのだ。絶対に……いや、万が一の時以外は使うなと、念を押したのである。


「琴音ちゃん、それ緊急時以外で絶対に使っちゃダメだよ。いい?」


 私は先生のような口調で、琴音ちゃんに念を押す。何か起こる前に釘を刺した。起こってからでは、何もかもが遅すぎるのだ。


「……分かったのじゃ」


 少し不服そうではあるが、琴音ちゃんはうつむきながら納得したのである。だが、本当に分かっているのか、不安が私の中にあった。なぜなら、『魔王の血が騒ぐのじゃ~』とか言い、突然<禁忌魔法>を使ってしまいそうだからである。私はそれが心配だった。


 =====


「ふと思ったのじゃが、ヒナのステータスってどうなってるのじゃ?」


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