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1章 スローライフ、始めますっ!

6、冒険者登録

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「ふわぁぁぁ……どうして、朝のこんな早い時間帯に冒険者ギルドなんかに行こうと思ったのじゃ?」


 <クトゥリア>という私達の家の近くの村の手前で、魔王ちゃんが聞いてくる。

 どうやら、まだ寝足りないみたいであった。しかし、12時間寝ても、寝足りないなどあるのかと思っていた。


「これから私達は、冒険者登録……いや、就職をするの。その時にステータスが高いってことが他の人に知られてしまった場合、確実に変なことに巻き込まれるからよ」


「……スローライフをするためには、己の力を隠す必要があるのじゃな?」

「正解~!」


 今の私達には、のんびりとスローライフをしたいという共通の目的がある。仲良くやっていくため、なんとしても平穏を守らなければならないのだ。


 そして歩くこと約10分……私達は目的の冒険者ギルドに到着した。外観は普通の店で、入口に「冒険者ギルド」の木札が掛かっている。建物自体が古そうで、昔の酒場をそのままギルドに変更したと簡単に推測出来たのだ。


 出来るだけ人に会いたくない私は、心の中で人が少ない事をねがっていた。そして、私は木製の少し古びたドアを押したのだ。


 『ぎぃぃぃぃぃっっっ』


 今のこの世界の日の出の時間が少し早くなっているのか、ギルドの中はほんのりと朝日に照らされており、暗示系の能力を使わなくても奥の方に受付の女性らしき人が2、3人ほど見える。中を見渡しても、他の冒険者の姿は見当たらない。


「ほら、(ロリ)魔王ちゃん、入るよ」


 私はそういいながら、寝ぼけているロリ魔王の手を引っ張ったのである。

ここ、<クトゥリア>の冒険者ギルドは、入って正面に受付カウンター、左右に依頼クエストの紙が数枚ほど貼られた掲示板がある。


「ここって本当に田舎なんだなぁ」

「冒険者ギルド<クトゥリア>支部へようこそ! 本日はどのようなご要件でしょうか?」


 私達に気付いた黒髪ぱっつんの受付嬢さんが笑顔で聞いてきた。時間は朝の四時前にも関わらず、眠そうな素振りを全く見せていなかった。


 というかピンク髪セーラ服という結構派手な私の外見を見ても何もツッコまないの、凄いな……

「冒険者登録をしたいのですけど、お願いできますか?」

「はい! 大丈夫ですよ~」


 私の頼み事に対し、明るい声で受付嬢が答えてくれる。その声を聞く限り、残業している様には見えなかった。


「……それでは最初に、冒険者名を決めてください」


 その言葉に私は戸惑いを隠せなかった。冒険者名とはいったい……まるでゲームの世界にいるような感覚に襲われる。まさか、ここでは自分の名前を冒険者名とでも言うのだほうか。しかし、<エルタニア>にはそんなものなかったはずだ。

 私は無言で、魔王ちゃんの方を向いてみるも……ロリ魔王は首を横に振り知らないようであった。


「あの、それって本名以外でも大丈夫ですか?」

「はい! ですが一度名前を決めると、特定の条件を満たさない限り、変更することが出来ませんので、そこは気をつけてくださいね」


 まるでネットゲームのような内容に、思わず心でツッコミを入れてしまう。

 (一度アバター名を決めると、課金しなければ変更できない系のネットゲームかっ)

 そんな脳内ツッコミはさておき……私は本名である「御坂陽菜」の「陽菜」をカタカナにした「ヒナ」が良いと思った。理由は特にない。強いていえば、それ以外思いつかなかったから……かな。


 私の方はこれでいいのだが……隣の、ロリ魔王ニーナは一体どうするのだろう

 流石に(ロリ)魔王の名前そのままっていう訳にはいかない。すると、ロリ魔王が自分の冒険者名を口にしたのである。


「我、名前を「柊琴音」にするのじゃ」


 その名前に私の思考は停止した。どう考えても、本名ではないはず。ではいったい、どこからその名前を持ってきたのか疑問であった。


「それ、本名じゃないよね?」


 私は興味本意ではあったが、念のため聞いてみたのだ。


「別に本名ではないのじゃ。ただ……我が一度だけあったことがある、【勇者】の名前なのじゃ」

「え……【勇者】? あっちの世界にいたの?」

「名乗るだけ名乗って我に瞬殺されたから、そいつの顔は覚えてないのじゃがな」


 けろっとそんなことを言うロリ魔王。やっぱり、この子ヤバいと私は思ったのだ。だが、『琴音』という名前に少し可愛さを覚えてしまった。


「あ、私は「ヒナ」でお願いします」


 私も、もうちょっと考えればよかったと、少し後悔していた。この名前の可愛さに差がある事に、なんとも言えない感情が湧き上がっていたのだ。


「それでは、「ヒナ」様と、「柊琴音」様 で冒険者名を登録させて頂きますね」

「分かりました~」

「よろしくなのじゃ~」


 二者二様の返事をする私「ヒナ」と、ロリ魔王改め「柊琴音」。これから二人で仲良くやっていきたいと、決意をしたのであった。


「……ステータス、見たいですか?」


 なんか不穏な単語が聞こえたような……


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