まさか魔王が異世界で

小森 輝

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7 勇者の帰還

まさか魔王が異世界で 49

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 魔獣を求めて、道なき道を歩いていくと、いつの間にか、森を抜けてしまった。
「あれ……もう反対側に……」
 魔獣と遭遇することなく、俺たちは森を突き抜けてしまったようだ。
「案外、この森は広くないんだな」
 俺たちが拠点にしている町ほどの広さもなさそうだ。まあ、土地は狭いが、肥えているので農地にはいいだろう。後のことは、人間の仕事だ。
「でも、魔獣がいないってことを報告したら、木材もそうだし、切り開いて農地にしたり、この周辺に村を作れたり、いいことだらけだね。報酬も弾んでくれそう」
「まあ、人間には都合がいいことだがな」
「ん? 何か魔族に不都合があるの?」
 含みのある言い方を魔王である俺がしたので、魔族に不都合があると感じたのだろう。だが、この世界に住んでいるのは人間と魔族だけではない。
「魔族に不都合があるわけじゃない。この森の生態系にどんな影響が出るのか不安なだけだ」
 種の絶滅。それは生態系に影響し、絶滅した種だけではなく連鎖的に他の種も絶滅する可能性があること。
「例えば、人間が絶滅したら、人間の感情を餌にしている魔族も連鎖的に絶滅してしまう」
「なるほど……」
 単純なことだと、種が絶滅するとその種を餌にしていた種が絶滅するという部分だが、もっと間接的に絶滅へと結びつく場合もある。例えば、絶滅した種に捕食されていた種は、天敵が居なくなることにより数を増やし、そして数が増えることにより餌の消費量が増え、餌の方を食い尽くして絶滅させるパターン。その他にも、水生生物であれば種の絶滅による水質の汚染など、種の絶滅は連鎖的に起こる可能性がある。
「この世界の自然は広大で懐が深い様に見えて、実は繊細で奇跡的なバランスで支え合っているんだ。そして、このバランスを崩すのが人間だ。つまり、人間はこの世界にとって例外的な存在と言ってもいい」
 絶滅の原因は環境の変化と言うのもあるが、それは環境の変化についてこれずに淘汰された種。しかし、人間が絶滅させた種も数多くいる。狩猟はもちろん、本来は生息しない生物を持ち込み生態系を壊すこともある。俺がいた世界では数種が人間によって絶滅していた。俺が魔王になり、食い止めはしたが、少し遅かった。この世界でも過剰な狩猟は行われているだろう。正常な自然環境を維持するためにも、早くこの世界を掌握しなければならない。
「でもさ、ここの魔獣を殺し尽くしたのって、アペ君じゃない? 人間関係ないよね?」
「うっ……」
 確かに、その通りだ。魔獣があの場にいたのなら、そうなる。
「だが、あれは不可抗力……」
 言い掛けて、ミラがジト目で見ているのに気づいた。
 人間だって食べ物や衣服の為に仕方なく狩りをすることもある。森を切り開いて田畑にする事も。何度も行き来する事で、草木が育たない土が固められた道になることもある。それらは不可抗力だと言いたいのだろう。今の俺のように。
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