予知部と弱気な新入生

小森 輝

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予知部と欠けた情報

予知部と弱気な新入生 82

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 二人とも黙ってしまったのだが、そんな静寂を破るように図書準備室のドアが開いた。
「邪魔するぞ」
 泉ちゃんが戻ってきたのかとも思ったが、そうではなかった。ドアを開けたのは生徒ではない大人の女性。
「すいませんが、今は本当に邪魔だから帰ってください」
「なんだ。先客がいたのか。それなら仕方がない。私はここで待っているから、話を済ませてくれ」
 なんか、図々しい人が来てしまった。年上なので強く言えないし、追い払うことはできなさそうだ。でも、とりあえず、誤解だけは解いておきたい。
「私は予知部の新入部員なので、先客ではありませんよ」
「そうなのか? だが、予知部の入部届は来てないが……」
「なんだ、まだ入部届を出していなかったのか?」
「さっき、雷山会長が来たときに渡しました」
「そうか……破り捨てられていなければいいんだがな……」
「雷山会長はそんなことしませんよ。偏見が過ぎます」
 愛先輩の中では、雷山会長は鬼畜として認識しているようだ。
「入部届の件は把握した。後で確認しておこう。それで、先客がいないのなら、用件を話したいのだが、いいかな?」
「……仕方ない。先にそっちの話を聞こう」
 悪霊の問題を先に解決したいのだが、先に話を聞かないと帰ってくれそうにない。
「最近の話なんだが、生徒間での不満が耐えなくてな……。これがその資料だ」
 愛先輩の前に、十数枚のプリントが並べられた。
「これは?」
「不満を訴える生徒の資料だ。一週間でこの量だ。異常すぎる」
 普通の量というのが分からないが、これだけの生徒が不満を持っているのは事実だ。
「これを全て解決しろと?」
「難しいことじゃない。これら全ての不満は、共通して登下校時の問題だ。それも、歩行者から自転車への不満だ。今はまだ接触事故は起きていないが、いつ怪我人がでても不思議ではない。早急に問題の解明をしてほしい」
 話を聞いて、愛先輩の目の色が変わった。
「まさか……学校と駅の間で起きたことじゃないだろうな?」
「なんだ。すでに調査していたのか」
「そこに被害者がいるからな」
「そうか、なら話が早い。今日中にとは言わないが、来週には解決しておいてくれ。資料は貸し出しておくが、解決したら返してくれ。それじゃあ、頼んだぞ」
 話を終えた女性は、そそくさと帰ってしまった。
「あの……さっきの方は?」
 結局、誰か聞きそびれてしまったし、自分の名前も名乗りそこねてしまった。
「さっきのは波多先生。数学教師で予知部の顧問もしてくれている教師だ」
 あの人が予知部の顧問だったのか。道理で遠慮なく図書準備室に入ってくるわけだ。
「まさか、すでにここまでの被害がでていたとはな……」
 私が呪われていると思っていたがそうではなかった。今回の悪霊は、この学校の生徒たち全員の問題だったようだ。
「私が呪われてるって勘違いだったんですね。問題は解決してないですけど、ちょっと安心です」
「勘違い……。そうか、最初から勘違いしていたんだ。なら、他にも勘違いしているところも……」
 愛先輩が悩んでいるので、私もさっき書いたメモをみながら意見を出してみる。
「実は悪霊じゃなかったとか?」
「いや、悪霊で間違いない。ちゃちゃ丸が断言したのなら間違いない」
「じゃあ、悪霊が事故を起こしてないとかですか? 泉ちゃんも悪霊は悪くないって言っていたし……」
「泉さんか……泉さんの情報は他にないか?」
「えっと……3組で、いつもは学食で、自転車が嫌いで、犬好きで、それで、悪霊の肩を持つ感じでした。悪霊はその場所に近づかないようにしてくれているんだって言ってました」
「自転車が嫌い……もしや、立花泉は被害者か……でも、それなら、なぜ今になって……この一週間で変わったことといえば、やはり新入生。だが、それは毎年のこと。今年だけの特別な変化……」
 そこまで行き着くと、愛先輩の周りの空気がざわついた気がした。私が持っているロケットペンシルも、周りの空気に呼応して震えている。目に見えない精霊が愛先輩の周りに集まっている気がする。肌で感じ取れる神秘的な空気は一瞬で、持っているロケットペンシルの震えも止まった。
 なにが起きたのかと、不安になる私だが、愛先輩は黙って椅子に座っている。
「……見えた」
 その一言に対して「なにが」と聞く前に、愛先輩は勢いよく立ち上がった。
「急ぐぞ! まだ間に合うかもしれない」
「は、はい」
 なにがなにやら分からないが、急ぐと言われたので、私も急いで愛先輩について行った。
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