予知部と弱気な新入生

小森 輝

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予知部と二人の初任務

予知部と弱気な新入生 66

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「ちなみに、その悪霊を見たって奴は信用できる奴なのか?」
「その……私が見たんです」
 私の言葉を聞いて、あからさまな嫌な顔をされた。
「そ、そんな顔しないでくださいよ」
「本当に気のせいじゃないのか?」
「そうかもしれないですけど……。私にも自信がないんですから」
「不安な目撃証言だな……」
 口まで開けて、嫌な顔をされた。よくネットの動画で臭い靴下の匂いを嗅いだ猫が変な顔をしているが、それと同じような顔をしている。ちゃちゃ丸さんは、私のことを胡散臭く思っているのかもしれない。
「まあ、どこの誰とも知れない誰かよりはましか……。それで、見た場所はどこなんだ?」
「はい。えっと……」
 駅とか国道なんて言っても伝わらないだろうから言葉を考えて話さなければならない。
「この学校を出てからですね……あ、出るって言っても正門からですよ。そこから真っ直ぐ進んで、車が通る大きい道に出たら、そこを右に曲がって、そしたら大きい十字路があるんですけど、そこまでは行かないんですけど、その手前あたりですね」
「あぁ、国道の手前か」
 国道とか分からないだろうから気を使って話していたのに、無駄な努力だった。
「もう少し要領よく説明できないのか?」
「すいません……」
 これは私の落ち度なので、何も弁解はできない。
「まあ、いい。場所は分かった訳だし。それで、見たものの話なんだが」
「はい。えっと……黒い煙みたいなのが固まってて、それがフワフワ浮いていた感じです」
「なるほど、やはりか」
「何か、分かったんですか?」
 ちゃちゃ丸さんは何やら知っていることがあるようだ。
「俺たちも、それについては観測している。場所も一致しているし、悪霊で間違いないだろう」
「やっぱり、見間違いじゃなかったんですね……」
 できれば見間違いで終わって欲しかったのだが、残念ながらそうはいかないらしい。
「そんなに悩むことなのか? 俺たちはこの周辺を縄張りにしているから、あれをどうにかしたいんだけど、お前たちはそこまで被害はないんじゃないのか? 学校の中での出来事じゃないわけなんだし」
「そういうわけにもいかないんですよ。あの場所、電車通学の人たちの通学路と近いんですよね。車道を挟んだ反対側の歩道なんですよ」
「なるほど、それで、解決したいということか」
「そうなんですけど……難しそうですか?」
「普通の悪霊なら難しいだろうが……なんかおかしいんだよな」
「おかしいって、どういうことですか?」
 渋い声のちゃちゃ丸さんは何でも知っている感じだったが、分からないことも当然あるってことか。
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