予知部と弱気な新入生

小森 輝

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予知部と繋がる講義室

予知部と弱気な新入生 39

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「それで、次はどこに行くんですか?」
「当然、上だ」
 そう言って、階段を上がっていく。
 社会科準備室でネズ吉くんの話を聞いている限りだと、この校舎の三階か四階に精霊がいる可能性が高い。ただ、三階か四階のどの教室かまでは分からない。ならば、推理して答えを導き出せばいいと考えがちなのだが、こればかりは仕方がない。私では、この問いに対する情報が不足している。
「あの、三階と四階には何の教室があるんですか?」
「ん? あぁ、そうか。新入生にこっちの校舎はまだ覚えられないか」
「流石にまだ……。他にも覚えることは多いですから」
「そうだろうな。関係ないことまで覚えていては頭が持たない」
 流石に、職員室も事務室もないこっちの校舎に何があるのか把握し切れていない。
「そうだな……。とりあえず、ここの一番上、四階には音楽室がある」
「音楽室は、この校舎にある教室の中でも、唯一、私が知っている教室ですよ」
 音楽室は学校の中でも有名というのもあるが、一番の理由は他にある。
「吹奏楽部の演奏、一階からも聞こえていましたし」
 放課後、音楽室は吹奏楽部が使っている。その演奏は、校舎全体に響きわたっている。
「他には何があるんですか?」
「四階にある音楽室の隣には美術室がある」
「美術室ですか……。音楽室の隣にあるって、どうなんですかね?」
「まあ、うるさいって不満が出ていないのをみる限りだと、適度な雑音で集中できているんじゃないか?」
「雑音って……。吹奏楽部の演奏はいいじゃないですか。まあ、ロックが好きな人だと、芸術性の違いとか言い出しそうですけど。それも、イヤホンで別の音楽を聴けばいい話ですからね」
「そういうことだ。ちなみに、音楽室の下、三階には……っと、三階に着いてしまったな」
 気が付けば、もう三階に着いていた。そして、音楽室の下に何があるのか言わないあたり、自分の目で確かめろと言うことだろう。ただ、そこに何があるのか見て、私は呆れてしまった。
「書道室って……」
 この校舎を特定の専用教室を集めた塔にしようと考えたのだろうが、流石に、音楽室と一番近い教室に美術室と書道室を配置するのは悪意があるように見える。
「この校舎を立てるときに、美術部と書道部は何か悪いことでもやらかしたんですかね?」
「さあ、どうだろう。聞いた話じゃ、二十年前以上前の改装工事をするときに、美術部と書道部の部員が不祥事を起こしたって聞いたが。まあ、それと関係があるかどうかは知らないがな。私がその話を聞いた教師は移動してしまって、今は別の学校で教師をしているだろう」
 美術室と書道室が近くにあって、図書室が近くにないのを考えると、あながち間違った話ではないような気がする。
「そうなんですね。意外と理由があったりするんですね」
「まあ、悪意と言っても、理由のない悪意はそんなに存在しないからな。何事も裏があるものだよ」
「でも、二十年前の出来事で今の部員が損するのは、なんだか理不尽ですね」
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