予知部と弱気な新入生

小森 輝

文字の大きさ
上 下
21 / 86
予知部と精霊探索

予知部と弱気な新入生 21

しおりを挟む
「おや? 誰かと思えば、予知部の部長の……えぇっと、名前は何だっけ」
「愛仙七郎です。いい加減、覚えてくれませんかね」
「いやぁ、すまないね。仕事柄、人の名前を聞くのが多くてさ。覚えるのが大変なんだよ。本当に申し訳ないと思っているよ、予知部の部長さん」
 部屋の中にいた一人の男子生徒と話している愛先輩は呆れた様子だ。おそらく、愛先輩は何度もこの人と会っているんだろう。それなのに、名前を覚えてくれないのだろう。愛仙なんて名前は珍しくて覚えやすいと思うのだが、この人には関係ないのかもしれない。
「それで、何の用かな。もしかして、何かネタになる話でも持ってきてくれたのかい?」
 この男子生徒が求めているのは、話のネタのようだ。その理由は見れば分かる。
 この社会科室は授業を行う場所だ。本来なら。
 今、この教室では授業は行われていない。それは当たり前だ。もう授業は終わり、時間は放課後なのだから。では、ここで生徒たちは何を行っているのか。放課後に生徒が別の教室に集まる理由など決まっている。部活動だ。そして、この教室では、机を合わせ、そこに紙を乗せて何かを書き込んでいる。それだけでも答えは分かるのだが、私はもっと的確なものをみていた。昨日、どの部活にするか悩んでいたときに私は目にしたのだ。この社会科室を部室にしている部活を。それは新聞部だ。
「いいえ。新聞部に提供するようなネタはないし、新聞部から情報を聞き出すような依頼も来ていませんよ」
「それなら、談笑をしにきたのか? こっちは大歓迎だよ。予知部は宝の宝庫だからね」
「無駄話をするつもりはありませんよ。新聞部に用事があるわけじゃなくてね」
 そう言って、愛先輩は入り口近くのフックに吊り下がった鍵を手にした。
「鍵? 流石に、この教室を貸すわけにはいかないんだけど。今は今週の新聞を作っている最中なんだ。新入生が始めてみる学校新聞だから気合いが入ってるんだ。だから、すまないね。譲れないんだ」
 もし、この教室の中に精霊がいるのだとしたら、新聞部の人たちには、一度教室から出てもらう必要がある。でも、見るからに新聞部の人たちは忙しそうだ。理由もなく排除する事は出来ないだろう。だからといって、説明するわけにも行かない。愛先輩はどう言いくるめるのだろう。
 そう考えていたが、結末はあっけなかった。
「いえ、用があるのは社会科室じゃなくて社会科準備室の方ですよ」
「そうか。それなら話は別だ。社会科準備室なら好きに使ってくれ。鍵さえ返してくれれば問題ない」
「ありがとうございます」
 一礼して、教室を出ようとした。
「あ、ちょっと待ってくれ
 新聞部の男子生徒がまだ用事があったようで引き留めてきた。
「なんですか?」
「物は持って行かないでくれよ。紛失物があったらこっちが怒られることになるからさ」
「分かってますよ」
 最後の忠告を了承して、教室から出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

冥府の花嫁

七夜かなた
キャラ文芸
杷佳(わか)は、鬼子として虐げられていた。それは彼女が赤い髪を持ち、体に痣があるからだ。彼女の母親は室生家当主の娘として生まれたが、二十歳の時に神隠しにあい、一年後発見された時には行方不明の間の記憶を失くし、身籠っていた。それが杷佳だった。そして彼女は杷佳を生んですぐに亡くなった。祖父が生きている間は可愛がられていたが、祖父が亡くなり叔父が当主になったときから、彼女は納屋に押し込められ、使用人扱いされている。 そんな時、彼女に北辰家当主の息子との縁談が持ち上がった。 自分を嫌っている叔父が、良い縁談を持ってくるとは思わなかったが、従うしかなく、破格の結納金で彼女は北辰家に嫁いだ。 しかし婚姻相手の柊椰(とうや)には、ある秘密があった。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

最後の封じ師と人間嫌いの少女

飛鳥
キャラ文芸
 封じ師の「常葉(ときわ)」は、大妖怪を体内に封じる役目を先代から引き継ぎ、後継者を探す旅をしていた。その途中で妖怪の婿を探している少女「保見(ほみ)」の存在を知りに会いに行く。強大な霊力を持った保見は隔離され孤独だった。保見は自分を化物扱いした人間達に復讐しようと考えていたが、常葉はそれを止めようとする。  常葉は保見を自分の後継者にしようと思うが、保見の本当の願いは「普通の人間として暮らしたい」ということを知り、後継者とすることを諦めて、普通の人間らしく暮らせるように送り出そうとする。しかし常葉の体内に封じられているはずの大妖怪が力を増して、常葉の意識のない時に常葉の身体を乗っ取るようになる。  危機を感じて、常葉は兄弟子の柳に保見を託し、一人体内の大妖怪と格闘する。  柳は保見を一流の妖怪退治屋に育て、近いうちに復活するであろう大妖怪を滅ぼせと保見に言う。  大妖怪は常葉の身体を乗っ取り保見に「共に人間をくるしめよう」と迫る。  保見は、人間として人間らしく暮らすべきか、妖怪退治屋として妖怪と戦うべきか、大妖怪と共に人間に復讐すべきか、迷い、決断を迫られる。  保見が出した答えは・・・・・・。

精霊美女たちと緑の指を持つ俺の日常~奇術師は千年桜を咲かせるか~

中村わこ
キャラ文芸
鬱蒼と茂る朝顔に、大蛇のごとく地面をのたうつプチトマト。植物をやたらと成長させてしまう俺は友人からマジシャンとからかわれ、園芸とかかわる機会を避けて生きてきた……大学に入るまでは。祖父の残した家で一人暮らしを始めた俺が引っ越し初日に出会ったのは、木の精霊だと名乗る三者三様に魅力的な女性たちだった。おっとりとした癒し系お姉さんの日向さんに、読書以外興味がないクール美少女の実紅、そして普段は食欲の化身だが、植物の精神を人の形にして引き出す『精霊化』の力を持った智恵。三人に囲まれてのほほんと平和な日々を送っていたが、咲かない千年桜のニュースを見たことで変わらない日常が少し動き出す。 しっくりこなかったためタイトルを変更しました。旧タイトルは『奇術師は千年桜を咲かせるか』です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

投稿インセンティブで月額23万円を稼いだ方法。

克全
エッセイ・ノンフィクション
「カクヨム」にも投稿しています。

処理中です...