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 レイの回し蹴りは、俺の頭上を空振った。
 次はどんな攻撃が来るのだろうかと身構えたが、俺の予想とは反して、レイは俺から距離を取った。
「目で追えておらんはずじゃったんじゃが……」
 レイは自分の攻撃が当たらず不服という様子だったが、すぐに気分をリセットした。
「まあ、よい。何度もやればいつかは当たろう。それより、ジン、避けるのはうまいようじゃが、攻撃せねば私は倒せぬぞ?」
 レイはそう言って俺を挑発してきた。おそらく、俺が攻撃してくるところを狙ってカウンターを決めるつもりだろう。
「お主の攻撃を待ってやろう。私はここから動かぬ故、好きな間合いから攻撃してくるがよい」
 明らかに俺の攻撃を誘っているのだが、攻撃しなければ勝てないというのも真実だ。しかし、俺は攻撃的な能力を一切持っていない。
「ほれほれ、どうした? 早く攻撃してみんか」
 攻撃的な能力でなくても間接的に攻撃へと転用できる能力はないだろうか。時間停止でも透明化でもない。触手、丸飲み、服だけ溶かす粘液、媚薬、感度上昇、催眠、精力上昇、亀甲縛り……拘束系や催眠系は観客に違和感を与えそうだし……。あと、相手に与える能力は、母乳、産卵、オナホ化……オナホ化ではなく、オナホと感覚を共有する能力なら……いや、それよりも、離れていても相手の膣内に指や男性器を入れる能力がある。
 その名前は、ワームホール!
 自分の男性器のみを相手の膣内に転送したり、逆に相手の女性器だけをこちらに転送し、舐めたりして悪戯ができるという能力だ。
 もちろん、今はそんなふしだらな行為に使う訳ではない。
「よし、いける……」
 重要なのは、転送する位置だ。俺の想像通りに能力は働いてくれるだろうが、使う本人が目測を誤れば失敗してしまう。
「来るか……。来い! ジン! お前の攻撃を見せてみろ!」
 レイも攻撃を受ける準備ができているようだ。
 サラリーマンだった俺は、人を殴ったことがない。だから、殴り方なんて分からないのだが、せめて、格好だけはつけようと、片足を引き、腰を捻らせ、思いっきり拳を振り抜いた。
 視界の端で見えたレイは、俺の挙動に眉をひそめて理解ができていない様子だ。それも当然だ。俺とレイの間には10メートルほどの距離がある。その距離を詰めることなく拳を振るっているのだから当然だ。
 しかし、俺の拳は届く。
 ワームホールにより、拳に一番力が伝わる位置とレイの目の前の位置を空間ごと繋げてしまったのだ。
 レイはこの事態を予見できていなかったのだろう。
「ふぐぅっ……」
 俺の空間を飛んだ拳は、レイの顔面にクリーンヒットした。
 ただ、後ろへとよろけたレイを見て、申し訳なく感じた。
「あっ……ごめん……」
 人を殴ったことがなかったとは言え、女の子の顔面に全力パンチをしてしまったのだ。今更だが、罪悪感がこみ上げる。
「ふっ……ふふっ……。この私に攻撃を与えるとは……」
 やっぱり、怒らせてしまったのだろうか。そう思ったが、どうやら違うらしい。
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