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 背後では触手から解放されたトロールが無傷でいるだろう。だから、早く逃げなければならない。
 そんなことを説明する必要もなく、俺たち全員は全力で走っていた。
 暑さと湿度で肺が締め付けられる思いをしながらダンジョンに入り口に置いてきた馬車まで戻ってきた。
 当然、俺の到着は最後だったのだが、先に着いていた4人は肩で息をしながら、逃げ切れたことに安堵していた。
「よかった……。逃げ切れたか」
 流石に、命の危機から全力で逃げてきたのでみんな疲れている。散々、体力お化けとバカにしてきたが、こう言うときはちゃんと疲れているようで安心した。
「しかし、完全に予想外だった。トロールが来たのも予想外だったけど、まさかあんなところがボスモンスターの住処だったなんてな」
「それよりも、ここのボスがトロールを丸呑みにするぐらい強いなんて聞いてないわよ」
「意識を失ったのも予想外だった」
「でも、全員無事だったんですから、不幸中の幸いって感じですね」
 みんな運良く逃げられたと思っているのだろう。真実は違うが、話す必要はないだろう。
「運って訳じゃない。俺たちが生きて逃げられたのはジンのおかげだ」
 エルビーのその言葉に、心臓がひときわ大きく鼓動した。
 まさか、あれが触手だと気づいて、しかも、それが俺の能力によるものだと分かっているのかと焦ったが、そんなことはあり得なかった。
「あのとき、最初に川の中から遠距離攻撃を受けていたとき、あのときにジンも意識を失っていたら、全滅していただろう。全員で逃げられたのは、ジンのおかげだ」
 どうやら、助かったというのは、触手やトロールの前の話のようだ。
「でも、なんでみんな意識を失ってしまったんでしょうか?」
「毒、じゃない? きっとどこかで毒を盛られたんだよ」
「ですが、毒であれば私が気づいたはず……」
 コウランの疑問に答えたのはエルビーだった。
「おそらく、アルコールとか、その類だと思う。少量なら問題ないが、大量に接種すると意識を失う。そう言った魔力が流れていたんだろう」
「それで……」
「あぁ。俺はダンジョンに入ったらいつでも攻撃されていいように物理耐性と魔力耐性を上げている。そのおかげで、俺は意識を保てたんだろう」
「でも、それじゃあ、ジンさんは……」
「おそらく、体質なんじゃないか?」
「なるほど……」
 コウランは納得しているが、、俺はそうではないと思っている。俺が意識を失わなかったのは、おそらく、体質ではない。何かしらの能力が働いたのだ。ただし、単純な回復や解毒ではないだろう。
 どんな能力だったのかは分からないし、そこは重要ではない。
「俺は……何もできなかったよ。俺が起きていたところで何もできなかった。俺がいなくても結果は……」
 変わらなかった。そう言おうとしたがそれをエルビーが止めた。
「いいや。ジンがいなければ全員死んでいた。俺たちのパーティーにジンは必要だったんだよ」
「そう、かな……」
 確かに、このパーティーを全滅から救ったのは俺の能力だ。でも、それは俺の力ではない。だから、その賞賛は少し不服だ。
「とりあえず、今日はもう帰りましょう。稼ぎはないけど、これ以上の探索は危険だわ」
「そうだな。このことをギルドに報告する必要もあるだろうからな」
 俺たちは1勝をする事もなく、ダンジョンを後にすることを決めた。
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