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 異世界の料理は大味で、アメリカの料理を彷彿とさせる味だった。量も多く、カロリーも高そうなのに、みんな肥満体型ではないのを見ると、如何に冒険者のエネルギー消費量が激しいのかが分かる。
 転生してからこれといった運動もしていなかったせいか、食べ過ぎで少し気持ちが悪い。
「それじゃあ、俺はコウランを宿まで送ってくる」
「おう! また明日な!」
 そう言って、エドムとコウランは一緒に帰って行った。
「俺たちも帰るか。ジンさんの宿はどこなんだ?」
「それは……」
「宿の場所を教えても大丈夫よ。こいつに寝込みを襲うなんて度胸はないんだから」
 そう言われても、宿なんてないので答えられない。お金が入るまで冒険者ギルドで寝泊まりはできないのだろうか。
 そう悩んでいると、俺の事情をカナは察してくれた。
「じゃあ、私の宿に泊まったらどうかな? 明日、一緒に行くわけだし、少し話も聞いておきたいから。だめかな?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「決まりね! 今日はお泊まり会だ!」
「明日も狩りに行くんだから、あんまりはしゃぎすぎるなよ」
「分かってる分かってる。さっさと帰りましょ」
 まさか宿にまで泊めてくれるとは思わなかった。カナには感謝しかない。
 エルビーに送ってもらい、俺とカナは二人で宿の中に入った。女の子と部屋の中で二人っきりなんて、30年間の人生の中で一度もなかった。とはいっても、部屋の中は女の子っぽいピンクの部屋でもないし、ラブホテルのようなロマンチックな部屋でもない。靴を履いてないとささくれが足に刺さりそうな木の床に、寝心地が悪そうな古いベッドが置かれている。
「狭い宿だけど、好きにくつろいで」
 そう言いながら、カナは身につけていた装備を外していた。
 冒険者登録を手伝ってくれて、ご飯に宿までカナには感謝してもしきれない。しかし、それが疑問でしかない。
「あの……何でそんなに親切にしてくれるんですか?」
 これも俺が女だからなのだろうか。そう思ったが、こう言うのは男性が女性にやるものであって、カナは男性ではない。もしかして、百合の趣味があるのだろうかとも疑っているのだが、そうではなかった。
「その……違ったら聞き流してもらってかまわないんだけど……あなたって、日本ってところから来たんじゃないかなって……」
 その言葉に俺は目を見開いた。
「に、日本って、い、今、日本って」
「やっぱりそうなんだ。よかった……」
 カナは自分が思っていることが当たって安堵しているようだが、俺は同様を隠しきれなくなっていた。独りぼっちだと思っていた世界に仲間がいたのだから当然だ。
「じゃ、じゃあ、カナも日本から……?」
「いや、私は違うの。お母さんがそう言っていただけだから」
「そっか……」
 どうやらカナが異世界転生をしたわけではないらしい。でも、この世界に仲間がいると分かっただけでも勇気は貰えた。
「でも、なんで俺が日本から来たって分かったんだ?」
「ジンって名前が珍しかったから、かな。ただそれだけ」
 そんな理由だけで俺を助けてくれたなんて、考えもしなかった。
「でもよかった。あなたのおかげでお母さんが本当のことを言っていたって分かったから。あなたに声をかけたのは正解だったわ」
 そりゃあ、異世界から来たなんて言っても誰も信じないだろう。そう言う意味では、俺はカナに少しぐらいは恩を返せたのだろうか。
「それじゃあ、休みましょう。明日も狩りに出かけるんだから」
 異世界転生という隠し事を共有してくれる仲間ができたことを喜びながら、俺は明日に備えて休んだ。
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