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 階段を下りきると、そこには教会の地下とは思えないほどの大きな空間が広がっていた。そして、そこでは、ここを出入りしているローブ姿の人たちが、炎を操り、水を吹き出させ、地面をせり上げていた。
「こ、これって、本当に、魔法じゃん!」
 目を輝かせながら地下で行われている魔法の鍛錬のようなものを見ていると、一人の女性と目があった。
「あぁん? 何だお前。うちの門下生じゃねぇなぁ。何もんだぁ?」
 気怠そうなジト目でこちらを睨んでいるのは、赤いショートヘヤーにくわえ煙草でそれだけ見ればただのヤンキーなのだが、くたびれた白のローブが白衣のように見え、それがジト目とその下にある深い隈と相まってマッドサイエンティストみたいな女性だった。
「おい! 私が質問しているんだ。何か言ったらどうなんだ?」
「あ、あの、ここって魔術師ギルドであってますよね?」
「そうだけど。質問に質問で返すなんて失礼だとは思わないのか?」
「す、すいません。あの、ここに魔術を習いに来たんですけど……」
「習いに……? あぁ、そうか。お前、うちの門下生になりに来たのか。そうかそうか」
 訝しむ目を向けていたマッドサイエンティストは、僕が魔術を習いに来たと知ると、急に笑顔になって近づいてきた。
「なんだなんだ、それならそうと早く言ってくれればよかったのに。私はこの魔術師ギルドのギルド長。リティ。よろしく」
 手を差し出されたので、僕はそれを握り返した。どうやらこの世界にも握手という文化はあるようだ。
「よろしくお願いします」
 見た目はマッドサイエンティストなのだが、話してみれば物腰は柔らかそうだ。
「そうと分かれば、話は早い。ほれ、何でもいいからまずは魔術を使ってみろ」
「いや、それは……」
「なんだ、嫌なのか? 暴発の危険があるとかなのか?」
「そうではなくて……」
「じゃあ、何だ」
「僕、魔術の使い方を教わりに来たんです」
 そう言うと、ギルド長のリティさんは困った顔をした。
「あのな……魔術っていうのは才能がないと使えないんだ。いくら勉強したとしても使えない人間が急に使えるようになることはないんだ。無駄足だったな。門前払いできなくてすまなかった」
 急に興味を失ったようにリティさんは踵を返してしまった。
 このまま魔術が使えなければ、助けてくれたあの二人に戦力不足と言われ同行を拒否されてしまう。いくらここ異世界で冒険者ギルドで魔物退治とかして稼いでいけるとはいっても知人も親もいない頼れる人がいないこの世界で生きていけるとは思えない。
 だから、何とかして振り向かせなければならない。
「そ、その、僕、記憶喪失で……知人の話では魔術が使えていたということなので……」
「記憶喪失……。つまり、才能があった、ということか。なるほど、興味深いな」
 振り向かせるのは、案外、簡単だった。
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