オートマーズ

小森 輝

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10章 火星人との邂逅

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 私たちがワイヤーで降りてきた場所は、私が竜巻に飛ばされ崖に落ちたときの場所とは少し離れています。オートマーズが機能停止した場所は不吉だとか、そんなオカルトな理由ではありません。単純に、ワイヤーを巻き付けるのに都合が良さそうな岩がなかったからです。そのため、降りてからも暗い崖の底を歩かなければなりません。
 足下に落とし穴がないかなど、注意して歩くのですが、少し緊張感にかける部分があります。
「しっかし、こんだけ降りてきたってのに、代わり映えしないな……」
 マリさんがつまらなそうに呟いています。
 ここは崖の底ではありますが、暗いこと以外は火星の地上とあまり変わりません。
「これだけ深いなら、地球だと川ができていたりするんだけど、こっちは川どころか地面が湿ってもいない」
「地下水ですか……。確か、火星の地下に水があるって説もありましたよね?」
「この様子だと、その説も怪しくなってくるな……」
 そんなマリさんと彦君の会話に大葉部長も加わりました。
「ここだけ地下水が流れていないという可能性も否定はできません。最初から諦めていたらないのと同じですよ」
「そうだよな……。もっと深い場所にはあるかもしれないし、硬い岩が水道管みたいになっていて中で水が流れているかもしれない。それは実際にやってみないとな」
「そうですね。でも、私たちは探索よりも植物の育成がメインなんですけど」
「そうだけど……」
 その歯がゆそうなマリさんの様子を見るに、基地の近くで植物の水やりをするよりも火星の大地を自由に歩き回りたいのでしょう。
 そんな活発なマリさんですが、もちろん、植物を育てることの重要さは理解しているはずです。水が見つかれば植物の育成にも役立つでしょうが、その他の探索、地層の調査や化石の発掘、生物の調査や火星人の捜索なんかは植物の育成には役に立ちませんし、人類が火星へと移住するのには必要ではないことです。それでも、間接的に役に立つ可能性もあるので、大葉部長は強い口調で批判はしないのでしょう。
 マリさんはそんな大葉部長のことを理解しているので、話を逸らそうとしていました。
「ほら、今回みたいにアクシデントで探索に出ることもあるわけだし、実際、こんな深い崖の底まで来たんだしさ。もしかして、これだけ深い場所まで行ったのって、私たちが初めてじゃない?」
「どうでしょう。こっちは標高がそもそも高かったですし……。確か、標高0を目指している火星探査部がいたはずですから、そちらに比べれば、まだまだなんじゃないですかね」
「そっか……。じゃあ、自慢できるようなことでもないし、ここに水がないからって諦めるようなことでもないか」
「探せば、きっとどこかにありますよ。でも、水よりも先に火星人が見つかりそうですけど」
 そう言って、大葉部長とマリさんは顔を見合わせてクスっと笑いました。
「しっかし、火星人か……。本当にいたのか?」
「いましたもん!」
「そんなトトロいたもんみたいに言われてもなぁ……」
「信じてもらえなくてもいいですよ。どうせもうすぐですから」
 そう言った瞬間、私たちの足は止まりました。
 目の前に火星人がいたわけではありません。私たちの行方を大きな岩が塞いでいたのです。
「もうすぐなんですけど……。この上か、それともこの先か。岩の大きさにもよりますね……」
「じゃあ、登るしかないか……」
 ボルダリングで鍛えてはいますが、できればその力は温存しておきたいです。というか、楽をしたいです。なので、全力で登らない方法を探していると、見つけることができました。
「ここ! ここって通れそうじゃないですか?」
 岩と崖の隙間に人が通れそうな場所があります。
「ここなら通れそうですね。風も来ていますし、向こう側と通じている可能性が高いです」
「でも、緋色が落ちたのが岩の上だったら登った方がよくないか?」
 この不確定な道を通るよりは登った方が良さそうな気もします。ですが、登りたくはないので、なにか理由を考えていると、落ちたときのことを思い出しました。
「そう言えば、私、落ちたとき、底に着いたと思ったら、そこからまた少し落ちたんです。たぶん、この岩に落ちた後に下に落ちたんだと思います」
「確かに、下は砂場でクッションになりそうですからオートマーズが壊れるには疑問が残っていました。緋色さんの言葉を信じましょう」
「私は登ってもいいんだけど……。まあ、無駄に力を使ってバッテリーを消耗するわけにはいかないか」
 マリさんも私の意見に同意してくれました。
 いよいよ、前回の火星探査で私が力つきた場所へとたどり着きそうです。
 崩落の危険も考えていたのですが、そんな危険はなく、岩と崖の隙間を無事に通り抜けました。
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