26 / 72
4章 赤い大地
26
しおりを挟む
「それじゃあ、水やりの準備をしましょうか。鷲斗君はバケツとスコップを持ってきてください」
「了解しました」
彦君は疑問の言葉など口にすることもなく、バケツとスコップを取りに基地の中へと消えていきました。その姿を見て、私の疑問よりも何か手伝いをしなければという気になります。
「えっと……私は?」
「緋色さんは私と一緒に。まだまだ説明する事はありますから」
そう言われたので、大葉部長について行ったのですが、そこには何もありませんでした。
「この辺に……」
大葉部長はしゃがみ込んで地面の砂をかき分けています。その姿を見て気づいたのですが、この火星の大地は砂漠のようだと思っていましたが、どうやらそうではないようです。赤い砂は表面だけで、その下には砂と同じ色をした堅そうな岩があります。どうやら、砂漠と言うよりは荒野の方が例えとしては正しいようです。つまり、この堅い地面を掘って基地の空間を作ったということです。どうせならもう少し広い方がなんて、私はとんでもない贅沢を言っていたようです。このことは城山先生には絶対に言わないようにしておきましょう。
そう心に決めているときに、大葉部長の探しものは見つかったようです。
「あった。これです」
大葉部長の手には、何の変哲もないホースが握られていました。
「部長! 持ってきました!」
そして、ちょうどよく彦君も手にバケツを持って帰ってきました。小走りをしているあたり、もう気分もよくなったようです。
「じゃあ、鷲斗君、お願いできる?」
「分かりました!」
大葉部長にバケツを手渡した彦君は、ホースの付け根部分の砂をかき分けると、そこからレバーのようなものを引っ張り出しました。一時代前の自転車の空気入れのようです。
「それじゃあ、見ていてください」
大葉部長がホースの先をバケツの中に入れると、彦君が引っ張り出したレバーを上下に動かし始めました。やはり自転車の空気入れのようです。
それから一時、彦君が頑張っていると、ようやくホースの先から水が出てきました。ただ、勢いはよくありません。ちょろちょろと水が流れています。
「彦君、もうちょっと頑張ってよ。男でしょ?」
「これが限界だ!」
確かに、楽をしている様子はありません。つまり、この水の勢いは彦君のせいではないと言うことです。
「火星では、水は貴重なんですよ」
確かに、火星はまるで荒野のようで、水が貴重なんだと分かります。しかし、火星の水不足はそんな規模ではありませんでした。
「火星には、海がありません。湖はありますけど、年中凍ってます。この水は大気中の水分を凝縮して作ったものなんです。それでも、これぐらいにしか……」
バケツの中を見ると、うっすらとバケツの底を這うほどしか水がありません。
「鷲斗君、もういいですよ」
「は、はい」
彦君は息を上げています。それだけ頑張ってもこれだけ。火星での水やりは、私の想像を遙かに越えるほど過酷なようです。
「了解しました」
彦君は疑問の言葉など口にすることもなく、バケツとスコップを取りに基地の中へと消えていきました。その姿を見て、私の疑問よりも何か手伝いをしなければという気になります。
「えっと……私は?」
「緋色さんは私と一緒に。まだまだ説明する事はありますから」
そう言われたので、大葉部長について行ったのですが、そこには何もありませんでした。
「この辺に……」
大葉部長はしゃがみ込んで地面の砂をかき分けています。その姿を見て気づいたのですが、この火星の大地は砂漠のようだと思っていましたが、どうやらそうではないようです。赤い砂は表面だけで、その下には砂と同じ色をした堅そうな岩があります。どうやら、砂漠と言うよりは荒野の方が例えとしては正しいようです。つまり、この堅い地面を掘って基地の空間を作ったということです。どうせならもう少し広い方がなんて、私はとんでもない贅沢を言っていたようです。このことは城山先生には絶対に言わないようにしておきましょう。
そう心に決めているときに、大葉部長の探しものは見つかったようです。
「あった。これです」
大葉部長の手には、何の変哲もないホースが握られていました。
「部長! 持ってきました!」
そして、ちょうどよく彦君も手にバケツを持って帰ってきました。小走りをしているあたり、もう気分もよくなったようです。
「じゃあ、鷲斗君、お願いできる?」
「分かりました!」
大葉部長にバケツを手渡した彦君は、ホースの付け根部分の砂をかき分けると、そこからレバーのようなものを引っ張り出しました。一時代前の自転車の空気入れのようです。
「それじゃあ、見ていてください」
大葉部長がホースの先をバケツの中に入れると、彦君が引っ張り出したレバーを上下に動かし始めました。やはり自転車の空気入れのようです。
それから一時、彦君が頑張っていると、ようやくホースの先から水が出てきました。ただ、勢いはよくありません。ちょろちょろと水が流れています。
「彦君、もうちょっと頑張ってよ。男でしょ?」
「これが限界だ!」
確かに、楽をしている様子はありません。つまり、この水の勢いは彦君のせいではないと言うことです。
「火星では、水は貴重なんですよ」
確かに、火星はまるで荒野のようで、水が貴重なんだと分かります。しかし、火星の水不足はそんな規模ではありませんでした。
「火星には、海がありません。湖はありますけど、年中凍ってます。この水は大気中の水分を凝縮して作ったものなんです。それでも、これぐらいにしか……」
バケツの中を見ると、うっすらとバケツの底を這うほどしか水がありません。
「鷲斗君、もういいですよ」
「は、はい」
彦君は息を上げています。それだけ頑張ってもこれだけ。火星での水やりは、私の想像を遙かに越えるほど過酷なようです。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~
アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」
中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。
ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。
『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。
宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。
大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。
『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。
修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
世界で唯一の天職【配信者】と判明した僕は剣聖一家を追放される〜ジョブの固有スキルで視界を全世界に共有したら、世界中から探し求められてしまう〜
マグローK
ファンタジー
「リストーマ。オマエは追放だ!」
天職がジョブという形で天から才能が授けられる世界。
主人公であるリストーマは、ジョブが剣聖でないとわかった瞬間、父親から追放を言い渡されてしまう。
さらには、実の子じゃなかった、万に一つのギャンブルだった、剣聖として人並みの剣の才すらないゴミなどという言葉をぶつけられた挙句、人がほとんど足を踏み入れることのできていないダンジョンに捨てられてしまう。
誰からも求められず、誰にも認められず、才能すらないと言われながらも、必死で生き残ろうとする中で、リストーマはジョブ【配信者】としての力に覚醒する。
そして、全世界の視界を上書きし、ダンジョンの魔獣を撃退した。
その結果、リストーマは、真っ先にヴァレンティ王国のセスティーナ姫に探知され、拾われ、神や悪魔、魔王の娘たちも、リストーマの存在を探るため、直々にやってくる
「僕は、姫のための配信者になります」
しかし、リストーマは、セスティーナ姫に拾われた恩から、姫のため、未知なるダンジョンの様子を配信することを決意する。
これは、家族と信じた者たちに捨てられ自信をなくした少年が、周囲の温かさを頼りに少しずつ自信を得ていく物語。
この小説は他サイトでも投稿しています。
魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”
どたぬき
ファンタジー
ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。
なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。
通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~
フルーツパフェ
ファンタジー
エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。
前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。
死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。
先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。
弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。
――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる