オートマーズ

小森 輝

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4章 赤い大地

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「それじゃあ、水やりの準備をしましょうか。鷲斗君はバケツとスコップを持ってきてください」
「了解しました」
 彦君は疑問の言葉など口にすることもなく、バケツとスコップを取りに基地の中へと消えていきました。その姿を見て、私の疑問よりも何か手伝いをしなければという気になります。
「えっと……私は?」
「緋色さんは私と一緒に。まだまだ説明する事はありますから」
 そう言われたので、大葉部長について行ったのですが、そこには何もありませんでした。
「この辺に……」
 大葉部長はしゃがみ込んで地面の砂をかき分けています。その姿を見て気づいたのですが、この火星の大地は砂漠のようだと思っていましたが、どうやらそうではないようです。赤い砂は表面だけで、その下には砂と同じ色をした堅そうな岩があります。どうやら、砂漠と言うよりは荒野の方が例えとしては正しいようです。つまり、この堅い地面を掘って基地の空間を作ったということです。どうせならもう少し広い方がなんて、私はとんでもない贅沢を言っていたようです。このことは城山先生には絶対に言わないようにしておきましょう。
 そう心に決めているときに、大葉部長の探しものは見つかったようです。
「あった。これです」
 大葉部長の手には、何の変哲もないホースが握られていました。
「部長! 持ってきました!」
 そして、ちょうどよく彦君も手にバケツを持って帰ってきました。小走りをしているあたり、もう気分もよくなったようです。
「じゃあ、鷲斗君、お願いできる?」
「分かりました!」
 大葉部長にバケツを手渡した彦君は、ホースの付け根部分の砂をかき分けると、そこからレバーのようなものを引っ張り出しました。一時代前の自転車の空気入れのようです。
「それじゃあ、見ていてください」
 大葉部長がホースの先をバケツの中に入れると、彦君が引っ張り出したレバーを上下に動かし始めました。やはり自転車の空気入れのようです。
 それから一時、彦君が頑張っていると、ようやくホースの先から水が出てきました。ただ、勢いはよくありません。ちょろちょろと水が流れています。
「彦君、もうちょっと頑張ってよ。男でしょ?」
「これが限界だ!」
 確かに、楽をしている様子はありません。つまり、この水の勢いは彦君のせいではないと言うことです。
「火星では、水は貴重なんですよ」
 確かに、火星はまるで荒野のようで、水が貴重なんだと分かります。しかし、火星の水不足はそんな規模ではありませんでした。
「火星には、海がありません。湖はありますけど、年中凍ってます。この水は大気中の水分を凝縮して作ったものなんです。それでも、これぐらいにしか……」
 バケツの中を見ると、うっすらとバケツの底を這うほどしか水がありません。
「鷲斗君、もういいですよ」
「は、はい」
 彦君は息を上げています。それだけ頑張ってもこれだけ。火星での水やりは、私の想像を遙かに越えるほど過酷なようです。
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