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3 妖精の賢者

アルスター 21

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「はっ! 閃きましたぞ! エルフの魔法でも無理。ドワーフの技術でも無理。人間の科学でも無理。ならば、その他に頼ればよろしい」
「その他と言われてもな……この大陸には、人間、ドワーフ、エルフの他にはいないんじゃがな……」
 人類王の言うとおり、この大陸にはその三種族しかいない。もちろん、牛や馬みたいな動物はいるが、残念ながら動物にどうにかできる問題じゃない。
「だから、この大陸ではない場所でござるよ」
「海を渡れと? 命がけじゃぞ。それも、渡ったところで、その先に文明が発展しとる保証もない。かなりギャンブルじゃないかのう」
「いえいえ、人類王。考えが甘いですぞ。海を渡らずとも、近くに他の大陸があるではないですか」
 そう言いながら、ベリルさんは指で上を示していた。その姿に、ここにいる三人全員が上を見上げた。そこには天井が広がっている。
「言わずもがな、天井ではござらぬよ。この大陸の上にあるものでござる」
「上……」
 村の上には、青空。そして雲。雨の日には雨雲が。夜には星が満ちている。何かがあるようなことは……。
「空の上にある大陸……浮遊大陸……もしや、龍の巣か?」
「ドワーフ王殿にはいささか簡単な問題でしたかな?」
 どうやら、正解のようだ。でも、空の上に大陸が浮いている姿なんて見たことがない。
「アルスター氏は知りませぬか。この大陸の上を浮遊するもう一つの大陸のことを」
「……すいません」
 むしろ、今まで見上げてきた空が龍の巣という大陸だったのではないのだろうか。
「小さな村出身のアルスター氏が分からないのはしかたありませぬか。浮遊大陸・龍の巣というのは、その名の通り、龍種が住んでいる土地なのでござる。普段はドワーフの領土の上空を浮遊しているからして、アルスター氏が見ることはなかったのでござろうな」
「俺たちドワーフが地底暮らしをしているのは、奴らドラゴンがいるからなんだ。そういや、数年に一度、龍の巣が人間の領土に近づく時期があったな」
「10年前じゃったかな……ドラゴンが都市部まで攻め込んできて、それはそれは大変じゃったよ」
 10年前。もう僕は生まれているのに、自分の国でそんなことがあったなんて知りもしなかった。
「しかし、なんでまたドラゴンなんぞに? 奴らに知恵というものはないように思ったが……」
「それが違うのですぞ、人類王殿。文献によりますると、龍種は叡智を司る万物の祖となっておるのですよ。地上の全ての知恵は龍種から備わったものだと」
「いや、しかし、現に……」
「これは小生の仮説なのですが、地上に降りてくる龍種ははぐれ者だと考えまする。地上の種同様、罪を犯した龍種を国外追放しているのではなかろうかと」
「しかし、本当にドラゴンは賢いのか?」
「文献では、エルフ、ドワーフ、人間、全てにおいて、龍種から知恵を授かったという記述が残っているので、解釈違いという可能性は0でありまするよ」
 しゃべり方は独特なのだが、素晴らしい説得力だった。これを聞いて、ベリルさんの話が嘘だとは到底思えない。賢者の名はしかるべき人が授かったようだ。
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