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3 妖精の賢者
アルスター 20
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「散らかっていてごめんなさい。好きなように座ってくつろいでいいから。兄さん! お茶でも出して上げて」
「しょ、承知いたしまする!」
メリルに顎で使われ、エルフの青年は別の部屋へと消えていった。
僕たちは、好きなように座っていいと言われたので、爆発で散らかった部屋の中から転がっていた椅子を見つけ、それに座った。
「ところで、妖精女王、彼はもしやあなたの兄君なのですかな?」
人類王がそう聞いたが、それは僕も気になっていたことだ。
「そうよ。あれは血の繋がった私の愚兄」
「そう! 小生はあの妖精女王の兄! ベリル・トリアーナ! あ、これ、粗茶ですが、よければ」
「あ、あぁ、かたじけない」
メリルの紹介に便乗して名乗ったメリルの兄、ベリルさんはみんなにお茶を振る舞っていた。
乾燥させた茶葉で抽出されたお茶は、とても薫り高く上品な味がした。
「しかし、まさか兄君がいたとはな……。エルフの王は女王という決まりでもあるのか?」
「いいえ、そう言うわけではないわ。ただ……」
メリルが自分の兄を見て肩を落とした気がする。
「まあ、小生は王などと、そう言う柄では……。能力的にも小生よりも我が妹の方が優れているのは当然であるからして……」
その笑顔が少しだけ引きつっているのが分かる。王位継承、いや、もっと昔から、妹の方が優れていると周りから軽蔑されてきたのだろう。小さな村で貧しく暮らしていた僕は、貴族が羨ましく思っていたのだが、貴族にも辛い人生を強いられる人はいくらでもいる。
「す、すいませぬ。小生の話ばかりしてしまって。それで、王と村人がどうして一緒に……いやいや、身の上を聞くのは失礼でござるな。それでは、改めて、小生になんのご用ですかな?」
「いろいろあるんだけど、とりあえず、私の体を元に戻す方法を探していて、兄さんなら何か知っているかなって」
メリルの言葉にベルルさんは嬉しそうに変な声を上げた。
「うひょっ! いつも素っ気ないツンツン妹がついにデレを……小生、感激でござるよ!」
「そう言うのはいいから。それより何か分かる?」
「そうでござるな……」
ベリルさんは妙な唸り声を出しながら首を捻った。
「ぐぬぬ……宝石になった妹を元に戻す方法でござるか……。妹が小生を頼ると言うことは魔法ではどうにもならないと言うこと……。この! 小生の頭よ! 異端の賢者という名を今ここで発揮せずしていつ発揮する!」
そう言いながら、自分の頭を手のひらで叩いたり拳で殴ったりしていた。とても、奇妙な行動だ。だけど、それよりも気になることがあった。
「異端の賢者って?」
「兄の呼び名よ。昔から兄は悩むと、今みたいな奇行をする。それが異端者に見えるから……。でも、頭脳だけは誰よりも賢い。それだけはみんな分かっている。だから賢者と呼ばれているの。でも、兄は異端の方を気にしていて……。本当は兄が王位を継承するべきだったのに、辞退してしまって、こんな辺境で一人暮らし。エルフの国の最大の悲劇よ。次代の賢王を失ってしまったとね」
もしかしたら、聞くべきではなかったのかもしれない。ベリルさんやエルフの国とってはもちろん、メリルにとっても嫌な過去なのだろう。だって、今までのベリルさんとのやりとりで仲がいいことは分かった。それに、こんな宝石に変えられた時、真っ先に頼るのは兄だということから、最も尊敬しているということも。
「しょ、承知いたしまする!」
メリルに顎で使われ、エルフの青年は別の部屋へと消えていった。
僕たちは、好きなように座っていいと言われたので、爆発で散らかった部屋の中から転がっていた椅子を見つけ、それに座った。
「ところで、妖精女王、彼はもしやあなたの兄君なのですかな?」
人類王がそう聞いたが、それは僕も気になっていたことだ。
「そうよ。あれは血の繋がった私の愚兄」
「そう! 小生はあの妖精女王の兄! ベリル・トリアーナ! あ、これ、粗茶ですが、よければ」
「あ、あぁ、かたじけない」
メリルの紹介に便乗して名乗ったメリルの兄、ベリルさんはみんなにお茶を振る舞っていた。
乾燥させた茶葉で抽出されたお茶は、とても薫り高く上品な味がした。
「しかし、まさか兄君がいたとはな……。エルフの王は女王という決まりでもあるのか?」
「いいえ、そう言うわけではないわ。ただ……」
メリルが自分の兄を見て肩を落とした気がする。
「まあ、小生は王などと、そう言う柄では……。能力的にも小生よりも我が妹の方が優れているのは当然であるからして……」
その笑顔が少しだけ引きつっているのが分かる。王位継承、いや、もっと昔から、妹の方が優れていると周りから軽蔑されてきたのだろう。小さな村で貧しく暮らしていた僕は、貴族が羨ましく思っていたのだが、貴族にも辛い人生を強いられる人はいくらでもいる。
「す、すいませぬ。小生の話ばかりしてしまって。それで、王と村人がどうして一緒に……いやいや、身の上を聞くのは失礼でござるな。それでは、改めて、小生になんのご用ですかな?」
「いろいろあるんだけど、とりあえず、私の体を元に戻す方法を探していて、兄さんなら何か知っているかなって」
メリルの言葉にベルルさんは嬉しそうに変な声を上げた。
「うひょっ! いつも素っ気ないツンツン妹がついにデレを……小生、感激でござるよ!」
「そう言うのはいいから。それより何か分かる?」
「そうでござるな……」
ベリルさんは妙な唸り声を出しながら首を捻った。
「ぐぬぬ……宝石になった妹を元に戻す方法でござるか……。妹が小生を頼ると言うことは魔法ではどうにもならないと言うこと……。この! 小生の頭よ! 異端の賢者という名を今ここで発揮せずしていつ発揮する!」
そう言いながら、自分の頭を手のひらで叩いたり拳で殴ったりしていた。とても、奇妙な行動だ。だけど、それよりも気になることがあった。
「異端の賢者って?」
「兄の呼び名よ。昔から兄は悩むと、今みたいな奇行をする。それが異端者に見えるから……。でも、頭脳だけは誰よりも賢い。それだけはみんな分かっている。だから賢者と呼ばれているの。でも、兄は異端の方を気にしていて……。本当は兄が王位を継承するべきだったのに、辞退してしまって、こんな辺境で一人暮らし。エルフの国の最大の悲劇よ。次代の賢王を失ってしまったとね」
もしかしたら、聞くべきではなかったのかもしれない。ベリルさんやエルフの国とってはもちろん、メリルにとっても嫌な過去なのだろう。だって、今までのベリルさんとのやりとりで仲がいいことは分かった。それに、こんな宝石に変えられた時、真っ先に頼るのは兄だということから、最も尊敬しているということも。
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