上 下
20 / 55
3 妖精の賢者

アルスター 20

しおりを挟む
「散らかっていてごめんなさい。好きなように座ってくつろいでいいから。兄さん! お茶でも出して上げて」
「しょ、承知いたしまする!」
 メリルに顎で使われ、エルフの青年は別の部屋へと消えていった。
 僕たちは、好きなように座っていいと言われたので、爆発で散らかった部屋の中から転がっていた椅子を見つけ、それに座った。
「ところで、妖精女王、彼はもしやあなたの兄君なのですかな?」
 人類王がそう聞いたが、それは僕も気になっていたことだ。
「そうよ。あれは血の繋がった私の愚兄」
「そう! 小生はあの妖精女王の兄! ベリル・トリアーナ! あ、これ、粗茶ですが、よければ」
「あ、あぁ、かたじけない」
 メリルの紹介に便乗して名乗ったメリルの兄、ベリルさんはみんなにお茶を振る舞っていた。
 乾燥させた茶葉で抽出されたお茶は、とても薫り高く上品な味がした。
「しかし、まさか兄君がいたとはな……。エルフの王は女王という決まりでもあるのか?」
「いいえ、そう言うわけではないわ。ただ……」
 メリルが自分の兄を見て肩を落とした気がする。
「まあ、小生は王などと、そう言う柄では……。能力的にも小生よりも我が妹の方が優れているのは当然であるからして……」
 その笑顔が少しだけ引きつっているのが分かる。王位継承、いや、もっと昔から、妹の方が優れていると周りから軽蔑されてきたのだろう。小さな村で貧しく暮らしていた僕は、貴族が羨ましく思っていたのだが、貴族にも辛い人生を強いられる人はいくらでもいる。
「す、すいませぬ。小生の話ばかりしてしまって。それで、王と村人がどうして一緒に……いやいや、身の上を聞くのは失礼でござるな。それでは、改めて、小生になんのご用ですかな?」
「いろいろあるんだけど、とりあえず、私の体を元に戻す方法を探していて、兄さんなら何か知っているかなって」
 メリルの言葉にベルルさんは嬉しそうに変な声を上げた。
「うひょっ! いつも素っ気ないツンツン妹がついにデレを……小生、感激でござるよ!」
「そう言うのはいいから。それより何か分かる?」
「そうでござるな……」
 ベリルさんは妙な唸り声を出しながら首を捻った。
「ぐぬぬ……宝石になった妹を元に戻す方法でござるか……。妹が小生を頼ると言うことは魔法ではどうにもならないと言うこと……。この! 小生の頭よ! 異端の賢者という名を今ここで発揮せずしていつ発揮する!」
 そう言いながら、自分の頭を手のひらで叩いたり拳で殴ったりしていた。とても、奇妙な行動だ。だけど、それよりも気になることがあった。
「異端の賢者って?」
「兄の呼び名よ。昔から兄は悩むと、今みたいな奇行をする。それが異端者に見えるから……。でも、頭脳だけは誰よりも賢い。それだけはみんな分かっている。だから賢者と呼ばれているの。でも、兄は異端の方を気にしていて……。本当は兄が王位を継承するべきだったのに、辞退してしまって、こんな辺境で一人暮らし。エルフの国の最大の悲劇よ。次代の賢王を失ってしまったとね」
 もしかしたら、聞くべきではなかったのかもしれない。ベリルさんやエルフの国とってはもちろん、メリルにとっても嫌な過去なのだろう。だって、今までのベリルさんとのやりとりで仲がいいことは分かった。それに、こんな宝石に変えられた時、真っ先に頼るのは兄だということから、最も尊敬しているということも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

おっチャンの異世界日記。ピンクに御用心。異世界へのキッカケは、パンツでした。

カヨワイさつき
ファンタジー
ごくごく普通のとあるおっチャン。 ごく普通のはずだった日常に 突如終わりを告げたおっチャン。 原因が、朝の通勤時に目の前にいた ミニスカートの女性だった。女性の ピンク色のナニかに気をとられてしまった。 女性を助けたおっチャンは車にはねられてしまった。 次に気がつくと、大きな岩の影にいた。 そこから見えた景色は、戦いの場だった。 ごくごく普通だったはずのおっチャン、 異世界であたふたしながらも、活躍予定の物語です。 過去の自身の作品、人見知りの作品の 登場人物も、ちょっと登場。 たくさんの方々に感謝します。 ありがとうございます。

処理中です...