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3 妖精の賢者

アルスター 16

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 それからもまた、沈黙が続いた。続いたのだが、特に話題もなく、そして、夜から村を出ていたので、疲れと脱出できた安心感で僕はいつのまにか眠ってしまっていた。
「アルスター、そろそろ付くわよ」
 メリルに起こされて目を覚ますと、外はもう暗くなっていた。
「ごめん……寝てたみたい」
「見れば分かるわよ。気持ちよさそうに寝ていたのに悪いわね。そこの二人も起こしてくれない?」
 隣を見ると、数秒前の僕のように人類王とドワーフ王の二人は眠っていた。
「全く、緊張感がない二人ね。追われて命を狙われているっていうのに」
 僕以外、国を追われた元王。きっとずっと気を張っていたに違いない。それなのに、メリルはずっと起きて魔法を使い荷馬車を動かしていたのだろう。
「ありがとう、メリル」
「へぇ……そ、そんなこと言っても何も出ないんだからね!」
 お礼を言われて照れたのだろうか。顔は見えないが、宝石が少し赤みを帯びた気がする。妖精女王と言っても、それを差し引けばエルフの女の子。そんな可愛い一面をみれた僕は幸運なのかもしれない。
「ほ、ほら、早く二人を起こしなさいよ」
「分かってるよ」
 あまり長く眺めるのも失礼なので、仕方なく、二人の王を起こした。
「すっかり眠っておったわ……」
「俺も、まさかこんなに寝るとは……」
 二人ともよく眠れたようだ。
「二人とも、しっかり目を覚ましなさい。もうすぐエルフの国に着くわよ」
「なんじゃと!?」
 メリルの言葉に驚いたのは人類王だった。
「エルフの国は人間の領土から東にかなり行ったところじゃったはず。馬車でも3日はかかるはずじゃ。儂の間隔では3日も眠りこけていた気はせんのじゃが」
「そんなに長い間眠っていたら私が叩き起こしていたわよ」
「じゃあなぜ……」
「外を見れば分かるわ」
 そう言われ、僕とドワーフ王も含めた3人で荷馬車の外を除いてみると、とても速い速度で風景が流れていた。
「な、なんじゃこのスピードは!?」
 馬では考えられないスピードで荷馬車が進んでいた。
「まあ、私にかかればこんなものよ」
 エルフの魔法のすさまじさを改めて認識した。だが、僕には少し気がかりがある。
「こんなスピードで馬車を走らせて、メリルは大丈夫なの? 休んでもないみたいだし……」
 3人が寝ている間もメリルは魔法を使って馬車を走らせていた。その疲労は僕に想像もできないほどだろう。
「大丈夫よ。不思議と、この宝石の体だと眠気や疲労も感じないし。ただ、魔力を消費しているという間隔はあるわ。まあ、この程度で魔力がなくなる私じゃないんだけどね。心配してくれてありがとう、アルスター」
「そんな……お礼を言われるほどじゃないよ」
 僕も顔が少し赤みを帯びた気がする。でも、女王様にお礼を言われて嬉しくない者なんていないはずだ。
「それじゃあ、この森を抜けたら到着よ!」
 その宣言の数秒後に森が開けて、夜なのに明かりが差し込んできた。
「ようこそ、エルフの国へ!」
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