上 下
7 / 55
2 元三王協定

アルスター 7

しおりを挟む
「この4人で世界を救うのはいいんだが、まずはこの状況をどうするかだな。残念ながら、俺たちは全員パンツ一丁。戦うにも素手ではな……」
「儂は素手でも戦えるぞ?」
「人類王、お主も歳だろ? 自分の体を少しは考えろ」
 武道の達人のような気迫を放つ人類王をドワーフ王が軽くあしらっていた。
「あら、武器が欲しいなら出してあげるわよ」
 僕の手の中ある宝石、メリルがしゃべると同時に、目の前の空間が歪み、そこから綺麗な棒が出てきた。
「引き抜きなさい、アルスター」
 言われるがままに、空間から飛び出ている棒を引き抜くと、そこから薄暗い牢屋の中でも光り輝くような綺麗な刀身が出てきた。
「おぉ! それが噂に聞く妖精界の宝剣か!」
「ええっ!?」
 ドワーフ王の言葉に思わず滑りそうになった手を慌てて握りなおした。
「そ、そんなもの、どうして……」
「世界を救うのよ? それに見合う剣なんてこれしかないでしょ」
「いやでも……」
 これを持つには、僕は力不足にしか思えない。もっと相応しい人間、例えば、人類王とか。
「これは僕が持つべきではないですよ。じ、人類王、あなた様が持つに相応しい」
「無理じゃ無理じゃ。儂にはその剣は重すぎる」
「い、いえいえ、そんなことはないですよ! この剣はまるでガラス細工のように軽く、風のように自由に動きますよ!」
 宝剣と言うだけあって、村でもらった剣に比べるととても扱いやすい。おそらく、切れ味もかなりいいのだろう。
「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、私はその剣をアルスター、あなたに託したのよ。それを気軽に他の者に渡したりしないでちょうだい」
「あ……すいません……」
 宝剣なんだから誰にでも渡せるようなものではない。メリルは僕を選んで渡してくれたんだ。その妖精女王の意志を蔑ろにしてはいけない。
「いいのよ。別に。どうせ手放そうとしても簡単には手放せないから。試しにその剣をその辺に捨ててみなさい」
「い、いいんですか? 床、石ですよ? 傷ついたりしますよ」
「大丈夫よ。妖精女王の私が言っているんだから信じて手を離しなさい」
「分かりました……」
 握っている手から力を抜くと、手から剣が離れ自由落下し、そして、石の床に甲高い音を響かせる。と思ったのだが、甲高い音を響かせることはなかった。
 剣は床に落ちることはなく、手から放れると、まるで幻だったのかのように消えてしまった。
「剣が、消えた……。え、ぼ、僕、何かまずいことしましたか? ただ手を離しただけなんですけど」
 僕のせいで妖精界の宝剣を消してしまったと焦ったが、どうやら違うようだ。
「所有者の手から放れると妖精界に戻る仕組みなの。盗難防止には最適でしょ?」
 自分のせいで消えてしまったわけではなくて安心した。
「それで、次に出すときにはどうするんだ? まさか、一々、妖精女王が出す訳じゃないだろ?」
 ドワーフ王の言う通りだ。一々出すのに時間がかかっては使い勝手が悪い。
「今から話すところ。せっかちなのは嫌いよ、ドワーフ王」
「妖精女王に好かれる気はないから早く説明してくれ」
「分かったわよ」
 妖精女王も気が強いが、ドワーフ王もなかなかに気が強いようだ。気が強くないと王の責務を全うできないのだろうか。
 そう思っていると、メリルの強気な声が僕の名前を呼んだ。
「アルスター、剣を握りなさい」
「剣って言われても……」
 周りに剣なんてものはない。
「空想、想像でいいの。そこに剣があると思って握ってみなさい」
 おそらく、それであの宝剣が出てくるのだろうが、信じられない。信じられないのだが、メリルを信じて言われたとおり空想の剣を握ると、本当に宝剣が出てきた。
「おっと……」
 出てくるかもしれないと覚悟はしていたが、いざ出てきたら落とすことはなかったが、刀身は傾いた。
「妖精女王の権限でアルスター、あなたに我らが宝剣の所有権を移譲しているの。だから、あなたの意志で宝剣は動いてくれる」
「ほほう。妖精女王の権限ね……」
 ドワーフ王の含みのある言い方は、おそらく、元妖精女王なのに妖精女王の権限なんてあるはずがないといいたいのだろう。
「妖精女王は終身在位。なぜなら、妖精女王としての力は死なない限り継承はされないから。だから、まだ私には妖精女王としての権限は残っている。でも、権限って言っても、宝物庫からものを出し入れしたり、禁書庫への立ち入りができたりするぐらい。そこまで、便利じゃないから」
「お国柄って奴か。お互い、大変だな……」
 ドワーフ王がよくメリルに噛みつくので、ドワーフはエルフが嫌いなのかと思っていたのだが、そういうことでもないようで安心した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...