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 今までは学園の中でしか過ごしていなかったので、外がこんなに治安が悪いなんて思いもしなかった。流石は異世界だ。
 しかし、今の状況を対岸の火事だと思ってはいけない。襲われている馬車は前を進んでいるので、盗賊に止められてしまえば、いずれ同じ現場に遭遇してしまう。
 そのことに一番危機感を持っているのは御者だった。
 正面の窓が遠慮なしに叩かれ、慌ててノワールが窓を開けた。
「お嬢さん、悪いんだがこのままこの道を進むのはお勧めできません。前の馬車がどうも様子がおかしくてな。道は悪くなりますが、迂回してもよろしいでしょうか」
 俺もこの御者さんの意見に賛成だ。盗賊に襲われているのを助けるなんて、いかにも異世界転生した主人公って感じなのだが、俺は扇子だ。颯爽と現れることはできない。
 しかし、ノワールだけは違った。
「いいえ。そのまま進んでください」
「えっ、えぇっ? このまま進むんですか? ありゃどう見ても山賊ですぜ? 間違いなく襲われますよ?」
「分かっています。世の乱れを正すのも貴族の勤めです。彼らを退け、襲われている方を助けなければ。私が貴族である意味がない」
「いいですけど、俺は知りませんからね? 襲われたら馬車おいて逃げますからね?」
 俺だって知らないし逃げたいのだが、扇子の体では好き勝手に動くことはできない。今この場でノワールに逆らえる人はいないので、進路を変更することはなかった。
 せめて、護衛がいたりしたら話は簡単だったのだが、学校を出るときにそんな人がついてくる気配はなかった。御者さんは逃げるといっているし、強そうには見えない。俺は扇子なので強いとか弱いとか、そんなレベルではない。残るはノワールなのだが、強いと感じたことはない。運動神経だって、悪い方だ。だから、ここは異世界だから、異世界なりの特殊能力をノワールが持っていると賭けるしかない。
 そんなことを考えているうちに、前方の馬車は片方の車輪が外れ、ついに止まってしまった。
 周りを取り囲んでいた盗賊は馬を下り、どう調理してやろうかと馬車のドアを開けようとしたとき、ノワールたちが乗っている馬車も到着した。
 そして、馬車が止まると同時にノワールと俺は馬車から飛び出した。
「私はノワール・エル・ジャンバロ。今すぐ、その馬車から離れなさい」
 盗賊たちはどんな騎士様が出てくるのだろうかと警戒していたのだろうが、出てきたのが女性だと分かると、その反応はカモがネギを背負ってきたという感じだ。
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