転生したら悪役令嬢の扇子でした

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　俺はごくごく普通の日本人だったのだが、事故に遭い、異世界に転生して扇子になってしまった。生物ではない扇子では身動き一つできない。そう思いこんでいたのだが、実際は少し違った。めちゃくちゃ力を入れたら、例えば、ベンチプレスで自分がもてる最大重量を上げる時のような、それほど力を入れれば、１ミリほど動くことができた。
　でも、たった１ミリ動くことができたところで何ができるんだと思うだろう。しかし、これがノワールが持っているときに真価を発揮する。それがまさに、ノワールがリースの机を削り、達成感と疲労感の中、俺である扇子で仰いでいる時だ。俺はノワールの行いに呆れ、動けもしないのに頭を叩こうとした。すると、顔の前で仰いでいた手がさらに顔へと近づき、そのままの勢いでノワールを叩いたのだ。そう、たった１ミリしか動くことができないが、ノワールが持っているときだけは腕が動く範囲だけ自由に動くことができるのだ。ただ、自由に動けるからといって常に動き回ることはできない。考えても見てほしい。持っている扇子が自分の意志に反して動き回るのを。俺だったら絶対に捨てる。なので、気軽には動けない。動くときはここぞというときだけだけだ。ただ、ノワールの場合、ここぞというときは頻繁に訪れた。それが虐め現場を阻止するときだ。
　今日も今日とて、リースへの虐めはなくならない。今回の現場はトイレの中だ。今は扇子とはいえ元は男。女子トイレに入ってはいけないとは思うが、ノワールの所持品なので、これも仕方がないことだ。
　そんなことよりも、リースへの虐めだ。今回はリースがトイレの中に入っていて、それに対して、水を止めるという何とも陰湿なものだ。ただ、これに対してノワールがやろうとしていることがどうしようもない。
「お水を止められたら、流すことができなくなってしまうではありませか。これは大問題ですわ。私がどうにかいたしませんと。そうですわ。水が出ないのでしたら、私が上から流して差し上げればいいんですわ！」
　ノワールはリースが入っているトイレに上から水をかけようとしていた。
　そりゃあ水をかければ流れるでしょうよ。ただ、それではリースがびしょ濡れになってしまう。
　恋とは盲目と言うが、ここまで盲目にはなってほしくない。
　うきうきでバケツに水を貯めるノワールだが、まずはこれをどうにかしなければならない。