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 それは、まさかの俺の持ち主ノワールだった。
 いったい、何をするのかとドキドキしていると、ノワールは迷わず一直線にリースの元へと向かった。
 そして、リースの真横で立ち止まると、先ほどまで周りの視線に気がつかなかったリースもノワールのことに気がついたようだ。
 椅子に座って見上げるリースと、堂々と立つノワール。これから何が起こるんだと冷や冷やしてみていると、俺の視界がすごいスピードで動いた。そして、何かにぶつかった感触。ノワールは扇子である俺で何かを叩いたのだ。まさかリースの顔を叩いたのかとも思ったが、ぶつかった感触は人の顔のような柔らかさはなく、堅かった。それに、実際に何を叩いたのかは見ていないが、目の前の光景を見たら分かる。
 先ほどまでリースの目の前に広げられていたお弁当が、今はノワールの足下に広がっていた。
 そう、ノワールはリースのお弁当を床にぶちまけたのだ。
 流石は悪役令嬢というべきか。やることがえげつない。
「ここは私たち貴族が使用する食堂。そのような何が入っているかもわからないものを口にしていい場所ではなくてよ」
 そして、このセリフ。悪役令嬢ポイントはマックスだ。
 しかし、ノワールの悪役令嬢ポイントはこんなものでは満足しない。
 落ちた弁当を我慢しながら黙って拾い集めようとしたリースに対して、ノワールはコップの水を落ちているお弁当にかけた。これではもう、食べるのは難しいかもしれない。
「ゴミがついているご様子なので洗って差し上げましたのよ。感謝なさい」
 もうやめて! とっくにノワールの悪役令嬢ポイントはマックスよ!
 目を覆いたくなる光景だが、残念ながら覆うための手がない。
 そんな俺とは違い、ノワールはやりきったというような満足した顔をして、その場を去っていった。
 それからも、ことあるごとに、ノワールはリースに対して突っかかっていった。教科書を破ったり、後ろから押して転けさせたり、立ちはだかって通せんぼうをしたりと、様々だ。そして、そのどれもが誰かがいる場所で行っており、決して1対1でノワールが仕掛けることはなかった。貴族で自分の方が立場が上だと思っていてもやり返されるのは怖いのだろう。
 そんな悪役令嬢っぷりを胃もたれするぐらい見せられ、何もしていないのに疲弊しきって、俺は自分が買われたノワールの部屋へと戻ってきた。
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