英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 30

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 これだけ長い列に並んでいたら昼休みが終わってしまうという不安はもちろんあるが、私は別のことを危惧していた。
 日替わり定食は、普段、それほど人気はない。つまり、普段から作られる量が少ないのではないのかということだ。作られる量が少ないのに、これだけの生徒が押し寄せると、当然、足りなくなるわけだ。私と雛ノ森さんは他の生徒と比べると、並んだのは遅かった。私たちの目の前で売り切れになる覚悟はできていた、のだが、私たちの順番まで回ってきて、さらに、目の前には、ちゃんと決められた中華定食が何一つ欠けることなく揃っていた。心配していたフカヒレの中華スープにフカヒレが入っていないかもしれないという悲しい結末にもならなかった。
「今日の日替わり定食は賑やかですね」
 日替わり定食を受け取った私に話しかけてきたのは、ちょうど食事を終えて食器を返しに来た平川先生だった。
「すいません。なんか、私の話が広まってしまったみたいで……」
「聞いています」
 生徒同士だけでなく、教師の方々へも情報網は張り巡っているようだ。しかも、よりにもよって平川先生の耳にまで届いているとは……。
「……すいません」
「謝ることではありません。私は嬉しいのですから。私はこの学校に勤務して、もうすぐ30年になるのですが、こんな光景は初めてです」
 そう言われて、恐る恐る平川先生の顔を窺うと、そこにはナイフのように鋭い眼光はなく、口元はかすかに緩んでいた。平川先生でも笑うときがあるんだと失礼ながらも思ってしまった。
「この学校の定食は、生徒の栄養バランスを第一に考えて作られています。それなのに、生徒からの注文は少なく、毎日余っていた状況でした。量を減らそうにも、学費として支払われた費用なので、減らすわけにいかず……。まさか、こんな解決方法があるなんて、思いもしませんでしたよ。少々、動機は不純なようですが、それぐらいは目を瞑ってあげましょう」
「……ありがとうございます」
 なぜ私がお礼を言っているのか分からないが、自分が褒められていることには変わりないのだから間違ってはいないはずだ。
「色々と大変でしょうが、頑張ってください」
「はい。日々、精進いたします」
 「色々」という言葉には、先日の白骨死体のことも含まれているのだろう。初めての教師だというのに、私にはまだまだ問題が山積みされている。
「あまり長話をしては、せっかくのご飯が冷めてしまいますからね。私はこれで」
 食器を返した平川先生は、最後に笑顔を見せたように見えたが、私の見間違いだったのかもしれない。
「平川先生、今日はとてもご機嫌な様子でしたね。何か楽しいお話でもしていたんですか?」
「いいえ。お嬢様には世話がかかるというお話です」
「なんですか、その話!」
 突っかかってくる雛ノ森さんの相手はすることなく、私は今日もおいしそうな日替わり定食を持って開いている席へと座った。
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