英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 9

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 ゴミ捨てを終え、協力を約束した雛ノ森さんと別れた私は、職員室で少しだけ後悔していた。
 協力を約束した以上、私はどうにかして3年生全員分の顔写真を獲得しなければならない。
「どうしたものか……」
 一か八か3年生を担当している教師の方に聞くという方法もあるのだが、それは最後に取っておこう。まだ、他の方法があるかもしれない。それこそ、私が最初に提案した集合写真なんかは良さそうだ。
 そういえば、最近、3年生のクラス写真を撮ると言う話を聞いたような気がする。確か、卒業アルバム用の写真だとかなんとか。
 一応、私も教師だし、新人教師として卒業アルバムがどうやって作られているのか気になるという体で写真を貸してくれるかもしれない。
 そうと決まれば、実行あるのみ。
 立ち上がり周りを見渡す。
 放課後は始まってしまったので、数名の教師の方は部活動の顧問などで居ないようだ。
 それなら、まずは、残っている3年生を担当している教師の方々の中で、一番温厚そうな人を見つけだそう。
 ただ、私の勝手な妄想なのだが、3年生を担当している教師の方々は、歴戦の猛者のようなオーラを身にまとっているように見えてしまう。
 正直、話しかけて睨まれるようなことにはなってほしくないのだが、意を決するしかない。
 とりあえず、雛ノ森さんと同じ考えで、若そうな人が一番優しいかもしれないので、その人に話しかけてみよう。
「あの……今、お時間よろしいですか?」
「いいですけど、なにか?」
 敵意を感じる声音だが、心をガムテープで縛って折れないように心がける。
「その……ですね」
 もちろん、目の前にいる女性教師の名前は知らない。なので、横目でチラリと机を見て名前を確認する。
 梅本美咲。机のネームプレートにはそう書いてある。
「梅本先生は3年生の教師の方ですよね?」
「まあ、ここは3年生教師の区画ですから。それがなにか?」
「あの……卒業アルバムってどうやって作ってるのかなって」
「唐突に何ですか?」
「最近、卒業アルバムようにクラス写真を撮ったと聞いて、気になりまして……」
「まあ、いいですけど。そんなことを聞いて、どうするんですか?」
 疑心の目は消えていないが、教えてくれる気にはなってくれたようだ。これならもう一押しでいけそうだ。
「いえ、他意はないんです。純粋に気になっただけで……私、今年初めて教師になったばかりで実際にどうやって作ってるのか気になってですね……」
「なるほどね。まあ、私も最初は気になっていたのは事実ですし。それに、教師になると誰もが通る道ですからね」
 よかった。私の目に狂いはなかった。そして、梅本先生は私と気も合いそうだ。これから仲良くできる気がする。
「教えて上げますけど、あんまりがっかりしないでくださいね」
「がっかり、ですか?」
「この学校、写真部とかないんです。だから、生徒が自分たちで卒業アルバムの写真を撮ることはありません。ですから、全てプロのカメラマンを雇って写真を撮っています。そして、その写真を直接で卒業アルバムを作成してくれる業者に送ってもらって、それで、卒業アルバムが出来るんです。ですから、私たち教師が何かをすることはないんですよ」
 教師として、ためになる話だったのだが、都合が悪い話も聞いてしまった。
「写真をアルバム業者に直接送るってことは、手元にクラス写真はないってことですか?」
「そうなんですよね。クラス写真をパソコンのデスクトップに出来ないのは、少し寂しいですよね」
「そう、ですね……」
 集合写真の類は諦めた方が良さそうだ。残るは、生徒手帳の顔写真。でも、梅本先生とは話が合う感じがしているし、疑いの目も今はないように見える。これなら、もしかすると生徒手帳の顔写真一覧を見ることが出来るかもしれない。
「あの」
「そうだ」
 私の自信のない声を梅本先生が完全にかき消してしまった。
「明日の放課後、3年生の学年写真を撮るんです。校庭にある広い階段のところで。それを見に来たらどうですか?」
 学年写真と言うことは、3年生が全員集まる。写真ではないが、これなら、見落とすことはないはずだ。
「ありがとうございます! 必ず、お伺いさせていただきます!」
「そ、そう。喜んでくれて何よりです」
 私の予想外の食いつきに引き気味の梅本先生だが、これが喜ばずにはいられない。私の首が飛ぶこともなく先に進めるのだから。
 このことを今すぐにでも知らせたいのだが、雛ノ森さんも聞き込みをしたりしているだろうから、確実に会える授業の後に学年写真のことを教えておこう。
 私としては、これで一息つけそうだ。
「ありがとうございます、梅本先生」
「いえ、聞きたいことがあればいつでもどうぞ」
 学年写真のことも大きな収穫だが、私にとっては、梅本先生と仲良くなれたことが一番の収穫だった。
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