9 / 53
英華女学院の七不思議 9
しおりを挟む
ゴミ捨てを終え、協力を約束した雛ノ森さんと別れた私は、職員室で少しだけ後悔していた。
協力を約束した以上、私はどうにかして3年生全員分の顔写真を獲得しなければならない。
「どうしたものか……」
一か八か3年生を担当している教師の方に聞くという方法もあるのだが、それは最後に取っておこう。まだ、他の方法があるかもしれない。それこそ、私が最初に提案した集合写真なんかは良さそうだ。
そういえば、最近、3年生のクラス写真を撮ると言う話を聞いたような気がする。確か、卒業アルバム用の写真だとかなんとか。
一応、私も教師だし、新人教師として卒業アルバムがどうやって作られているのか気になるという体で写真を貸してくれるかもしれない。
そうと決まれば、実行あるのみ。
立ち上がり周りを見渡す。
放課後は始まってしまったので、数名の教師の方は部活動の顧問などで居ないようだ。
それなら、まずは、残っている3年生を担当している教師の方々の中で、一番温厚そうな人を見つけだそう。
ただ、私の勝手な妄想なのだが、3年生を担当している教師の方々は、歴戦の猛者のようなオーラを身にまとっているように見えてしまう。
正直、話しかけて睨まれるようなことにはなってほしくないのだが、意を決するしかない。
とりあえず、雛ノ森さんと同じ考えで、若そうな人が一番優しいかもしれないので、その人に話しかけてみよう。
「あの……今、お時間よろしいですか?」
「いいですけど、なにか?」
敵意を感じる声音だが、心をガムテープで縛って折れないように心がける。
「その……ですね」
もちろん、目の前にいる女性教師の名前は知らない。なので、横目でチラリと机を見て名前を確認する。
梅本美咲。机のネームプレートにはそう書いてある。
「梅本先生は3年生の教師の方ですよね?」
「まあ、ここは3年生教師の区画ですから。それがなにか?」
「あの……卒業アルバムってどうやって作ってるのかなって」
「唐突に何ですか?」
「最近、卒業アルバムようにクラス写真を撮ったと聞いて、気になりまして……」
「まあ、いいですけど。そんなことを聞いて、どうするんですか?」
疑心の目は消えていないが、教えてくれる気にはなってくれたようだ。これならもう一押しでいけそうだ。
「いえ、他意はないんです。純粋に気になっただけで……私、今年初めて教師になったばかりで実際にどうやって作ってるのか気になってですね……」
「なるほどね。まあ、私も最初は気になっていたのは事実ですし。それに、教師になると誰もが通る道ですからね」
よかった。私の目に狂いはなかった。そして、梅本先生は私と気も合いそうだ。これから仲良くできる気がする。
「教えて上げますけど、あんまりがっかりしないでくださいね」
「がっかり、ですか?」
「この学校、写真部とかないんです。だから、生徒が自分たちで卒業アルバムの写真を撮ることはありません。ですから、全てプロのカメラマンを雇って写真を撮っています。そして、その写真を直接で卒業アルバムを作成してくれる業者に送ってもらって、それで、卒業アルバムが出来るんです。ですから、私たち教師が何かをすることはないんですよ」
教師として、ためになる話だったのだが、都合が悪い話も聞いてしまった。
「写真をアルバム業者に直接送るってことは、手元にクラス写真はないってことですか?」
「そうなんですよね。クラス写真をパソコンのデスクトップに出来ないのは、少し寂しいですよね」
「そう、ですね……」
集合写真の類は諦めた方が良さそうだ。残るは、生徒手帳の顔写真。でも、梅本先生とは話が合う感じがしているし、疑いの目も今はないように見える。これなら、もしかすると生徒手帳の顔写真一覧を見ることが出来るかもしれない。
「あの」
「そうだ」
私の自信のない声を梅本先生が完全にかき消してしまった。
「明日の放課後、3年生の学年写真を撮るんです。校庭にある広い階段のところで。それを見に来たらどうですか?」
学年写真と言うことは、3年生が全員集まる。写真ではないが、これなら、見落とすことはないはずだ。
「ありがとうございます! 必ず、お伺いさせていただきます!」
「そ、そう。喜んでくれて何よりです」
私の予想外の食いつきに引き気味の梅本先生だが、これが喜ばずにはいられない。私の首が飛ぶこともなく先に進めるのだから。
このことを今すぐにでも知らせたいのだが、雛ノ森さんも聞き込みをしたりしているだろうから、確実に会える授業の後に学年写真のことを教えておこう。
私としては、これで一息つけそうだ。
「ありがとうございます、梅本先生」
「いえ、聞きたいことがあればいつでもどうぞ」
学年写真のことも大きな収穫だが、私にとっては、梅本先生と仲良くなれたことが一番の収穫だった。
協力を約束した以上、私はどうにかして3年生全員分の顔写真を獲得しなければならない。
「どうしたものか……」
一か八か3年生を担当している教師の方に聞くという方法もあるのだが、それは最後に取っておこう。まだ、他の方法があるかもしれない。それこそ、私が最初に提案した集合写真なんかは良さそうだ。
そういえば、最近、3年生のクラス写真を撮ると言う話を聞いたような気がする。確か、卒業アルバム用の写真だとかなんとか。
一応、私も教師だし、新人教師として卒業アルバムがどうやって作られているのか気になるという体で写真を貸してくれるかもしれない。
そうと決まれば、実行あるのみ。
立ち上がり周りを見渡す。
放課後は始まってしまったので、数名の教師の方は部活動の顧問などで居ないようだ。
それなら、まずは、残っている3年生を担当している教師の方々の中で、一番温厚そうな人を見つけだそう。
ただ、私の勝手な妄想なのだが、3年生を担当している教師の方々は、歴戦の猛者のようなオーラを身にまとっているように見えてしまう。
正直、話しかけて睨まれるようなことにはなってほしくないのだが、意を決するしかない。
とりあえず、雛ノ森さんと同じ考えで、若そうな人が一番優しいかもしれないので、その人に話しかけてみよう。
「あの……今、お時間よろしいですか?」
「いいですけど、なにか?」
敵意を感じる声音だが、心をガムテープで縛って折れないように心がける。
「その……ですね」
もちろん、目の前にいる女性教師の名前は知らない。なので、横目でチラリと机を見て名前を確認する。
梅本美咲。机のネームプレートにはそう書いてある。
「梅本先生は3年生の教師の方ですよね?」
「まあ、ここは3年生教師の区画ですから。それがなにか?」
「あの……卒業アルバムってどうやって作ってるのかなって」
「唐突に何ですか?」
「最近、卒業アルバムようにクラス写真を撮ったと聞いて、気になりまして……」
「まあ、いいですけど。そんなことを聞いて、どうするんですか?」
疑心の目は消えていないが、教えてくれる気にはなってくれたようだ。これならもう一押しでいけそうだ。
「いえ、他意はないんです。純粋に気になっただけで……私、今年初めて教師になったばかりで実際にどうやって作ってるのか気になってですね……」
「なるほどね。まあ、私も最初は気になっていたのは事実ですし。それに、教師になると誰もが通る道ですからね」
よかった。私の目に狂いはなかった。そして、梅本先生は私と気も合いそうだ。これから仲良くできる気がする。
「教えて上げますけど、あんまりがっかりしないでくださいね」
「がっかり、ですか?」
「この学校、写真部とかないんです。だから、生徒が自分たちで卒業アルバムの写真を撮ることはありません。ですから、全てプロのカメラマンを雇って写真を撮っています。そして、その写真を直接で卒業アルバムを作成してくれる業者に送ってもらって、それで、卒業アルバムが出来るんです。ですから、私たち教師が何かをすることはないんですよ」
教師として、ためになる話だったのだが、都合が悪い話も聞いてしまった。
「写真をアルバム業者に直接送るってことは、手元にクラス写真はないってことですか?」
「そうなんですよね。クラス写真をパソコンのデスクトップに出来ないのは、少し寂しいですよね」
「そう、ですね……」
集合写真の類は諦めた方が良さそうだ。残るは、生徒手帳の顔写真。でも、梅本先生とは話が合う感じがしているし、疑いの目も今はないように見える。これなら、もしかすると生徒手帳の顔写真一覧を見ることが出来るかもしれない。
「あの」
「そうだ」
私の自信のない声を梅本先生が完全にかき消してしまった。
「明日の放課後、3年生の学年写真を撮るんです。校庭にある広い階段のところで。それを見に来たらどうですか?」
学年写真と言うことは、3年生が全員集まる。写真ではないが、これなら、見落とすことはないはずだ。
「ありがとうございます! 必ず、お伺いさせていただきます!」
「そ、そう。喜んでくれて何よりです」
私の予想外の食いつきに引き気味の梅本先生だが、これが喜ばずにはいられない。私の首が飛ぶこともなく先に進めるのだから。
このことを今すぐにでも知らせたいのだが、雛ノ森さんも聞き込みをしたりしているだろうから、確実に会える授業の後に学年写真のことを教えておこう。
私としては、これで一息つけそうだ。
「ありがとうございます、梅本先生」
「いえ、聞きたいことがあればいつでもどうぞ」
学年写真のことも大きな収穫だが、私にとっては、梅本先生と仲良くなれたことが一番の収穫だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学園ミステリ~桐木純架
よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。
そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。
血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。
新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。
『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
光輪学院シリーズ・神無月の憂鬱
hosimure
ホラー
【光輪学院高等部・『オカルト研究部』】から、神無月を主人公にしたお話です。
部活動を無事に終えた神無月。
しかし<言霊>使いの彼女には、常に非日常が追いかけてくる。
それは家の中にいても同じで…。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
そんなお前が好きだった
chatetlune
BL
後生大事にしまい込んでいた10年物の腐った初恋の蓋がまさか開くなんて―。高校時代一学年下の大らかな井原渉に懐かれていた和田響。井原は卒業式の後、音大に進んだ響に、卒業したら、この大銀杏の樹の下で逢おうと勝手に約束させたが、響は結局行かなかった。言葉にしたことはないが思いは互いに同じだったのだと思う。だが未来のない道に井原を巻き込みたくはなかった。時を経て10年後の秋、郷里に戻った響は、高校の恩師に頼み込まれてピアノを教える傍ら急遽母校で非常勤講師となるが、明くる4月、アメリカに留学していたはずの井原が物理教師として現れ、響は動揺する。
ウェブ小説に狂った男
まるっこ
ミステリー
担当する事になったウェブ小説作家は、
気持ち悪い異様な男だった……。
男は、自らの創作論を得意気に語る。
「趣味であれば好きに書き、好きを詰め込めばいいのですね」
「自己満足で書いておりますので読まれなくても気にならないのですね」
「アマチュアは好きに書くんじゃああ!好きを詰め込むんじゃああ!」
そう言いながら、作品を必死で宣伝しまくった。
果ては「拙作の〜君は、こんな魅力がありまして……」
と、自分の作品の解説までをも実行した。
男は書いた。狂ったように書いた。
そして読者は必ず去って行った。
男は、すでに狂気の世界に住んでいた。
その狂気の果ては……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる